第37話:蔦の神様と、緑の星片

「この星片……緑色に光ってる!」

少女が胸元から取り出したのは、柔らかい緑光を放つ小さな欠片だった。

その腕の中には、まだ蕾のようなモンスターがちょこんと抱えられている。


「この子の真名を知りたいんです。」

少女は目を輝かせ、俺たちに頼んできた。


「じゃあ、行くしかないな。」

俺はアルネアを肩に乗せて頷く。


「キュー!(わくわくするね!)」

ヴァルが翼を広げる。

「ヴォォ!」

フェリアとリューネリアも並んで歩き出した。



---


星片の光を頼りに進んだ先は、森の奥にある古い祭壇。

蔦が絡まり、花や苔があふれ、空気はしっとりと甘い。


「ここが……?」

ディルが周囲を見渡す。


「気をつけて……この場所、ただものじゃない。」

サリウスが杖を握りしめた。


そして――地面から緑の光がふわりと立ち上がる。


蔦がするすると伸び、やがて一人の神の姿を象った。

長い髪は葉のように広がり、身体を絡むように蔦のドレスが揺れている。


「……来たのね。緑の星片を持つ者よ。」


「あなたが……蔦の神様……?」

少女が一歩前に出る。


「そう。だが私は、私が管理する者たちの真名しか知らない。」

神様の声は風にそよぐ葉音のようだった。


「この子は……?」

少女が胸に抱いた蕾のようなモンスターをそっと見せる。


神様はその瞳を閉じて、静かに頷いた。


「……確かに。彼は私の庇護のもとにある。」


緑の光がモンスターを包み、やわらかく輝いた。


《リュミナス》




「……リュミナス……!」

少女の目に涙が溢れた。


「これで……この子ともっと仲良くなれる……!」


「ピィィ!(よかったね!)」

フェリアが羽を震わせる。


「グゥゥ!(やったな!)」

リューネリアも尻尾を振った。


アルネアは俺の頬にすり寄る。


「キュー!(カノンも喜んでる!)」


「……ああ、良かったな。」



---


そのとき、サリウスが一歩進み出た。


「蔦の神様……ひとつ、主神について教えていただけますか。」


神様はゆるやかに首を振る。


「彼は……各地を巡り、試練を置いていく。

 人々はそれを“神の試練”と呼ぶ。」


「……試練……?」

ディルが眉をひそめる。


「彼は悪意ではなく、試練を通して人とモンスターを試している。だが、その過程で問題が起きることもある。」


「……つまり……各地で何かが起きているはずだってことか。」

俺は拳を握った。


「そうだ。問題のある地に行けば、主神の痕跡を追えるかもしれない。」


蔦の神様は静かに光を放ち、緑の風を吹かせた。


「……気をつけなさい。神の試練は時に厳しい。」



---


遺跡を後にする俺たち。


「……よし、決まりだな。」

俺は仲間を見回す。


「次は、各地で起きている問題を探そう。きっと主神への道が見つかる。」


アルネアが力強く羽耳を立てた。


「キューッ!(カノンと一緒なら、どんな試練でも乗り越えられる!)」


「ヴォォ!」

「ピィィ!」

「グゥゥ!」


緑の星片が俺たちの手元でふわりと光った。


――新たな目標、神の試練を追う旅が、また始まった。

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