第26話:花と妖精と、眠れる相棒

クレイモア樹林を抜けた先に、思わず息を呑んだ。


そこには一面の花畑。

金色の花、瑠璃色の花、見たことのない光を帯びた花々が、風に揺れてささやき合う。


「……すごい……」

ディルが目を見開く。


「キュー……(きれい……)」


「ヴォォ……」


花畑の中心に、ぽつりと立つ祭壇があった。

蔦と花が絡み合い、自然が作ったかのような荘厳な台座。


「……文字が刻まれてるな。」

サリウスが近づき、手でなぞる。


「どうだ、読めるか?」


「……いいえ……見たことがない。古代文字ですらない……。」


「ピィ……!」

ニールの肩にとまっていた妖精が急に身を乗り出す。


「おいおい、わかるのか?」


「ピィ!」

妖精は自分のポーチから小さな本を取り出した。

黄ばんだページに、細かい記号が書かれている。


「な、なんで本なんて持ってるんだ……お前……。」


「ピィッ!」


ニールが必死にページをめくり、妖精が指さす記号を読み上げる。


「……これ、妖精語……か。」


「妖精語?」

俺たちが首を傾げると、ニールが笑った。


「こいつ、少しだけ読めるみたいだ。俺も頑張って覚えてみるよ!」


祭壇に書かれた文字を、一つ一つ読み解く。


そして――


《フェリア》




妖精の真名が光のように紡がれた。


「フェリア……!お前の名前はフェリアか!」


「ピィィ……!」


妖精は嬉しそうに羽を震わせる。

だが――


「……あれ?何も起きない?」


「……魂の同調反応が、ない……?」

サリウスが目を細める。


「ピィ……ピィピィ!」

フェリアがぷいっとそっぽを向く。


「……自我が強すぎて、まだ心が噛み合ってないんだろう。」

サリウスが呟く。


「……そっか……でも、俺、諦めないからな。」



---


一行は研究所へ帰還。

ニールはフェリアを自室に寝かせ、夜通し看病を始めた。


「……フェリア……大丈夫だからな……。」


夜が更け、朝が来ても、ニールは一度も眠らなかった。


アルネアとヴァルがそっと部屋を覗く。


「キュー……(ニール……)」


「ヴォォ……(無理するなよ……)」


だが、ニールは頑なにフェリアの手を握り、額に冷たい布をあてる。


一日、また一日。

三日三晩、灯りの消えぬ部屋で、ニールはフェリアを見守り続けた。



---


そして四日目の朝――


「……ピィ……」


フェリアの瞼が、わずかに動いた。


「……フェリア!?フェリア!!」


「ピィ……ピィィ……!」


小さな羽が震え、頬に色が戻る。


「……っ、よかったあああああああ!!」


ニールはその場で立ち上がり、思い切り万歳した。


「やったあああああああ!!」


そして、そのまま後ろにふらりと倒れ込む。


「ニール!」

俺たちが駆け寄ったとき、彼はぐっすりと眠っていた。

安堵と疲れで、深い深い眠りへ落ちたのだ。


フェリアは小さな手で、ニールの頬をぺしぺし叩く。


「ピィ……ピィィ……」


叩いたあと、そっと抱きしめるように羽を広げた。


「ピィィ……(ありがとう……)」



---


窓の外、朝日が研究所を照らす。


ラビッチュ=アルネアとヴァルが並んで座り、ニールとフェリアを見つめていた。


「キュー……(これで……いいんだよね……)」


「ヴォォ……(ああ……最高だ……)」


ディルは静かに笑い、リューネリアがその隣に寄り添う。


そしてサリウスが小さく頷いた。


「……魂は、こうして結ばれていくのですね。」

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