第20話:王家の影と、真名の輪廻
改装したばかりの実家の倉庫――いや、今では立派な研究所で。
俺たちは、集めた古文献を広げていた。
「……これを見てよ、カノン!」
ニールが埃まみれの書物を差し出す。
表紙には《輪廻と真名論》と古い文字で書かれている。
ページを開くと、そこにはこうあった。
『真名とは、魂が輪廻を重ねるたび刻まれる印なり。
すべての生物は真名を持つが、モンスターはとりわけ鍛えた力を魂に宿し、次代へと運ぶ。
魂と魂が交わるとき、真名は響き合い、同調となる。
本来それは、“番”と呼ばれる対の存在同士の間で行われる、深き交わりである。』
「……番、って……。」
「つがいとか、対って意味だな。」
俺は呟く。
ラビッチュ――アルネアが俺の肩にちょこんと乗り、耳をぴくりと動かした。
「キュー……(なるほど、そういうことだったのね……)」
「つまり……俺とアルネアは、“対”として魂を同調させた……?」
「カノン、だからあんなに強い絆になったんだと思うよ。」
ニールが笑って言う。
だがその時、ふとサリウスを見た俺は……固まった。
「……なぁ、サリウス。」
「何でしょう。」
「……その顔、どっかで見たことある気がする……。」
焚き火の光が彼の横顔を照らす。
その整った目鼻立ち……俺が王都に行ったとき、古い絵画で見たことがある。
「……前の王様に……似てないか?」
サリウスの目が細まる。
一瞬の沈黙。そして、彼はフードを少し下ろしながら苦く笑った。
「……やはり、気づきましたか。」
「……まさか……。」
「ええ。私の母は王家の血を引いています。私は庶子……いわば王家の“枝”。
だからこそ、学院に縛られず、独自に動ける立場を選んだ。」
「勝手に研究者になっていいのか?」
「“王家の監察官”という名目でならね。」
その言葉に、ラビッチュとニールが「えぇ~……」と同時に声を上げた。
「キュー……(すごい人だったのね……)」
「でもな……俺は、王家だろうがなんだろうが、サリウスがサリウスである限り一緒に行くぞ。」
「……光栄です、カノン。」
---
そして次の目的が決まった。
「ヒートドランの真名……それを探すために、どうする?」
サリウスは少し考えてから答える。
「……ヒートドランの系譜は、王家に古くから伝わる守護竜の一つ。
その真名にまつわる記録が残るのは――王家の墓所、王墓しかないでしょう。」
「……墓に?」
「はい。王家の歴史を守る“記名の間”がある。
そこに、ヒートドランの名も刻まれているかもしれません。」
俺はラビッチュの頭を撫で、ヒートドランの首を叩いた。
「……行こう。俺たちで、ヒートドランの名を見つけるんだ。」
「キュッ!!」
「グルル……!」
---
夜明け。
ヒートドランの背にまたがり、俺とサリウス、ラビッチュ、そして同行するニールが風を切る。
遥か遠くに見えるのは、霧に包まれた王家の墓所。
サリウスが低く言った。
「……そこには、王家の秘密も眠っているでしょう。私自身の過去も……。」
「だったら、俺が証人になってやるよ。相棒たちと一緒に。」
ラビッチュが羽耳を揺らす。
「カノン……ともだち……まえへ……!」
ヒートドランが雄叫びを上げる。
「グルォォォォォ!!」
王家の墓へ。
真名の奥義を求めて。
そして、サリウス自身の謎を解くために。
俺たちは再び、旅の風に身を任せた。
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