第10話:星片は“記憶”である

あの日から数日が経った。


サリウスの監視は続いているが、表向きは穏やかな日常が保たれていた。ラビッチュも以前のように跳ね回り、俺もいつもの訓練と探検をこなしている。


だが――


俺は、夢を見るようになった。


静かな、白い空間。


何もないはずのその場所に、一つ、また一つと“星片”が浮かんでくる。


覚醒の星片。やさしさの星片。そして、新たに見たことのない色の星片がひとつ、俺の前に現れた。


それは、深い青に金の筋が走る、美しい結晶だった。


触れた瞬間、頭の奥に声が響いた。


『記憶は形を取り、形は力となる。星片は、魂の“抜け殻”……』


『汝が絆を刻むたび、ひとつの断片がこの世界に顕れる。』


『それはやがて、ひとつの真実を成す』


---


目を覚ますと、ラビッチュがこちらをじっと見ていた。


「……見たのか?」


「キュー。」


うなずいた。やはり、あの夢は“共鳴”していたのだ。


俺たちの間で生まれた絆は、星片という形になって外に“出る”。


だが、それだけではない。


それは――“記憶の器”。


---


古文書をさらに探すと、かすれた記録が見つかった。


『星片とは、魂が体験した“感情の定着”であり、それを他者に引き継ぐ鍵でもある』


『かつて、伝説の召喚士は、星片を通じて“魂の系譜”を繋いだとされる』


『つまり、星片は“記憶の媒体”であり、“意志の記録”である』


意志の記録――


つまり、俺がラビッチュと過ごした記憶は、星片として形になり、世界のどこかに“残されて”いく。


もし、それを他者が触れたら?


その時、記憶は伝播する。力も、想いも、軌跡も――


俺たちは今、知らぬうちに“遺産”を作っているのかもしれない。


---


その夜。


俺はラビッチュと並んで座り、満天の星を見上げながら言った。


「星片って……記録なんだな。俺たちの“足跡”ってことだ。」


「キュー。」


ラビッチュは静かにうなずき、ふわりと羽耳を俺の肩に重ねてきた。


「……じゃあ、いっぱい残してやろう。俺たちの“物語”をさ。」


「キュッ!」


小さなモンスターと少年の物語が、確かに世界に刻まれ始めていた。


そしてそれは、いずれ“星の道”となって、運命を変えていくのだ――

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