第8話:星片に宿るもの

翌朝、陽だまりの中で、俺はそれをじっと見つめていた。


――《やさしさの星片》。


掌に収まるサイズの、淡い乳白色の結晶。温かい。けれど、ラビッチュの“覚醒の星片”とは明らかに雰囲気が違う。


「キュー?」


ラビッチュが不思議そうに首を傾げる。俺はその光を透かしながら、ぽつりと呟いた。


「……これ、アイテムじゃない。きっと、何か“気持ち”が結晶になったんだ。」


魔法書でも巻物でもなく、道具としても使えないように見える。だけど、手放せない。不思議な温もりが、心の奥に直接触れてくる。



---


数日後。


俺は父の書庫に忍び込み、「星片」についての記録を探していた。


一冊の古文書が目に留まる。金の装丁が施されたそれは、古代モンスター研究記録だった。


ページをめくると、そこにあった。


『稀に、モンスターとの深い絆が結晶化し、“星片”となることがある。これを《心片(しんぺん)》と呼び、アイテムとは異なる性質を持つ』


『心片はステータス強化ではなく、“魂の成長”を促すとされている。具体的な効果は、対象によって変化する』


『特に強き絆の持ち主においては、これが“力の進化”だけでなく“存在そのものの変質”を引き起こす例もある』


存在そのもの……?


「つまり、“進化”じゃなくて、“変質”……?」


俺は思わず、星片をぎゅっと握りしめた。


ラビッチュは、これから“ただのモンスター”じゃなくなるのかもしれない。


いや、すでに――


「キュー……?」


そのとき、背後で小さな音がした。


振り向くと、ラビッチュが不安そうな目でこちらを見ていた。


俺は微笑んで、その頭にそっと手を伸ばす。


「……心配するな。お前は、お前だ。たとえ形が変わっても、俺の相棒だってことは変わらない」


「キューッ!」


ラビッチュは羽耳をぶるんぶるんと揺らして、満面の笑顔(たぶん)で俺に飛びついた。


---


その夜。


夢を見た。


白い空間に、一つの星が浮かんでいた。俺の中から現れた“やさしさの星片”が、ラビッチュの胸に吸い込まれていく。


そして、光が広がる。


ラビッチュの背に、新しい“輝き”が芽生えていた。


――それは、羽でも角でもない、“灯り”のようなもの。


俺たちの絆が、形になっていた。


---


朝目覚めると、ラビッチュはぐっすり眠っていた。


でも、背中にはほんのり光る、淡い光球が浮かんでいた。


これは、きっと“心片”が起こした変化。


ステータスじゃ測れない力。


そしてきっと、これからの俺たちに必要になる力。

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