第12話 「女神の競馬実況と、毒矢を避ける二歳児」

『いけぇぇぇ!私の勇者あああぁぁぁ!!!』


『させえぇぇ!させえぇぇ!』


『走れ筋肉馬鹿!!!』


『インコースを攻めろー!!!』


門をくぐった直後、俺たちの頭上から女神たちの声援が響き渡った。


王都の兵士も魔王軍も、ぽかんと固まる。


「……なあ、今の……競馬?」


「どう聞いても競馬だろ!?」


◇◇◇


辺境伯家のレオンは、足をジタバタさせながら全力でハイハイしていた。


「筋肉馬鹿って言ったのどこの女神だぁぁ!?見てろよ!インコース攻めてやる!!」


彼は石柱を回り込みながら、毒矢を華麗に回避する。


「ひゅんっ!」


「うおぉ!?避けた!?赤ん坊が!?」


◇◇◇


東の姫は、裾を翻して走りながら木剣を振り回していた。


「ここで私が差し切る!姫の底力を見よ!」


「姫様、それは競馬じゃなくて戦場です!」


魔王軍の魔法が飛んでくるが、耐毒スキルが思わぬ活躍を見せる。


「くっ……煙が……あれ、平気だ!」


「姫様ぁぁぁぁ!さすがでございます!」


◇◇◇


辺境の村の赤ん坊勇者は剣を振り上げながら叫んでいた。


「おらあああ!俺が一着だぁぁぁ!」


「だから競馬じゃねぇっての!」


スライムが毒液を飛ばすが、彼は笑顔で突進した。


「へっ!効かねぇぞぉぉぉ!」


「勇者さまーーー!!」


◇◇◇


闇の神殿から駆けつけた魔王側の赤ん坊は、そんな様子を見て顔を赤くして叫んでいた。


「おいおいおい!何だこのテンション!?でも負けねぇからな!」


インプたち「おぎゃああああ!」


彼は闇魔法を詠唱し始めたが、その途中で毒霧を吸い込む……


「……って俺も耐毒スキルもってんのかよ!?」


「おぎゃあああああ!」


◇◇◇


「くそっ……俺も負けてられねぇ!」


俺は小さな手を前に出し、見よう見まねで詠唱を始める。


「ファ、ファイアボール!ファイアボォォォル!!」


魔力が集まり、手のひらから火球が発射される。


「おおおおお!やった!やったぞぉ!」


周囲からも詠唱の声が次々と上がる。


「ウォーターブレード!」


「ライトニングボルト!」


「ベビースマッシュ!」


魔法が飛び交い、毒矢がすり抜け、炎と風と水が戦場を染めていく。


『いいぞぉぉぉ!そのまま差せぇぇぇ!』


『ほら、まだ脚が残ってるわよ!行けぇぇぇ!』


『うちの勇者がんばれぇぇぇ!』


女神たちの実況がもはや完全に競馬だったが、誰も止める者はいない。


魔王軍も若干ツッコミを入れかけていたが、すぐに押し寄せる二歳児たちの猛攻に慌てて防御を固める。


「こいつら……強すぎる……。」


「何なんだ……この赤ん坊ども……。」


「よし、今だ! 全員、詠唱続けろ!」


「おぎゃあああああ!!!」


小さな体、小さな声、だが確かな魔力が戦場を駆け抜ける。


俺は笑いながら泣きながら叫んだ。


「よぉし!次は俺が一着だぁぁぁぁ!」


――こうして、女神の競馬実況と共に、勇者たちは毒矢をかわし、魔法を放ち、魔王軍へと突進するのであった。


――つづく。

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