第9話 「第1次鍵争奪戦、しゃもじを捨てろ!」

『あ、鍵落とした…………よし!第1次鍵争奪戦スタートです!』


――主神の爆弾発言が、世界を揺らした。


王都の広場は一瞬の沈黙のあと、壮大な混乱に包まれた。


「鍵ぃぃぃ!?どこだどこだどこだぁぁぁ!」


兵士が鎧を着たまま地面をはい回り、貴族が宝石箱をひっくり返し、農民がしゃもじを振り回して草むらをかき分ける。


「しゃもじはもういいだろ!スコップ持てスコップ!」


「でも勇者さま、しゃもじで探せば……。」


「しゃもじで何をすくうんだよ!鍵はすくえねぇよ!」


俺は庭の真ん中で泣き叫んでいた。


「剣を持てぇぇぇぇぇ!!魔王軍が剣持って出てきたらどうするんだよ!」


乳母が駆け寄る。


「坊ちゃま、でも主神様が……。」


「主神様も頭抱えてたじゃん!あれ絶対信用できねぇやつだぞ!」


◇◇◇


辺境伯家の館ではレオンが大声を上げていた。


「よぉし!鍵探しだ!総員、しゃもじを捨てろ!」


「勇者候補様!これ、まだミルクの匂いが……」


「知らん!剣だ剣!スコップだ!ツルハシだ!」


館の庭は一転、総出で地面を掘り返す大発掘現場と化した。


「俺のパンチは掘削用だぁぁ!」


「勇者候補さま、それやめて!地面割れる!」


◇◇◇


東の島国では姫が絶叫していた。


「鍵がないですって!?じゃあ魔王討伐もお預けじゃないの!」


侍たち「姫様、落ち着きを……!」


「落ち着いていられるか!しゃもじ捨てろ、鍬を持て!」


「は、はいっ!」


姫の命で庭の池を総ざらい。鯉が宙を舞う。


「姫様、これは!」


「それは魚!違う!次!」


◇◇◇


辺境の村では赤ん坊勇者が大声で叫んでいた。


「鍵どこだー! 鍬もってこいー!」


村人「はいっ!」


「あとで魔王と戦うんだろ!剣の手入れもしとけー!」


「はいっ!」


村人総出で畑を掘り返し、なぜかジャガイモが山のように積まれていく。


「これ鍵じゃねぇ!でもうまそう!」


「食うなぁ!」


◇◇◇


闇の神殿では、魔王側の赤ん坊がインプに号令をかけていた。


「鍵だ!鍵を探せ!勇者より先にだ!」


インプたち「おぎゃあああああ!」


「なにやってんだ!畑掘ってどうする!」


「おぎゃあああ!」


「それはイモだ!」


「いらねぇ!鍵持ってこい!」


◇◇◇


王都の俺は、兵士たちと地面を掘り返していた。


「剣もって探せ!しゃもじは置いてけ!」


「坊ちゃま!この鍋のフタは!?」


「違う!それは鍵じゃねぇ!」


突然、兵士のひとりが叫ぶ。


「坊ちゃま!なにか硬いものが!」


「どこだ!どこだ!掘れぇぇぇ!」


――ガキンッ! 土の中から、銀色の鍵が顔を出した。


「これだぁぁぁ!!!」


「坊ちゃまー!よくぞお探しくださいました!」


「いや、俺掘ってない!あの兵士が!」


俺は鍵を高く掲げた。


人々の歓声が広場に響き渡る。


「これで魔王の門を……。」


『あ、そっちじゃなくて玄関の鍵でした。』


「はぁぁぁぁぁぁぁ!?ふざけんなぁぁぁぁ!!!」


◇◇◇


その後も、世界中で「本物の鍵」探しは続いた。


辺境伯家ではお玉で地面をつつき、東の島国ではしゃもじで水底をかき回し、村では鍬を振るい、闇の神殿ではインプがスコップで土をかきだす。


『えー……すみません、ほんとにどこやったっけなぁ……』


主神の気の抜けた声が、世界中に響く。


「待てー!主神ー!ちゃんと管理しとけー!」


かくして、第1次鍵争奪戦は、世界の混乱とともに幕を開けたのであった。


――つづく。

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