第7話 「主神の発表と、しゃもじ大暴走事件」
王都に響き渡る、天空からの声。
『地上の皆さまにお知らせします。赤ん坊が魔王に挑むのはさすがに危険すぎるので……魔界への門は一時封鎖です。あと二、三年まってくださいね!』
広場で俺はしゃもじを掲げていた。
「え、え? 待って?俺、今から魔王の門をくぐる気満々なんだけど!?」
『あと二、三年まってね!』
「まてって!おい待てって言ってるだろ!」
兵士たち「坊ちゃま、主神様のお告げでございます!」
「いや、だから今しゃもじ振っても無駄って……」
だが、俺の腕は止まらなかった。
「うおおおお!俺のしゃもじよ、門を開けろおおお!」
「坊ちゃま、暴れても門は閉じたままですわ!」
◇◇◇
隣国のレオンも天空の声を聞いていた。
「はあ!? あと二、三年待てだと!?俺の拳がうずいてんだぞ!」
兵士たち「勇者候補さま、まだ赤ん坊でございますし……」
「赤ん坊だから燃えるんだよ!おりゃあああ!」
レオンはイノシシ型モンスターに再度タックル。
「ぬおぉおお!」
「勇者候補さま、門はまだです!」
「黙ってろおお!」
◇◇◇
東の島国、姫も同じ声を聞いた。
「二、三年……待てと……?」
侍たち「姫様、主神様のご命令です」
「(よし、ここは冷静に……。)」
だが木剣を握る手は止まらない。
「えいやぁ!」
「姫様!門はまだ閉まっております!」
「(知ってる!でも体が勝手に!)」
飛竜を相手に木剣を連打する姫。
飛竜は困惑した顔で彼女を見つめている。
「ぎ、ぎゃぁ……?」
「おのれ魔王の手下め!」
「違います、門の先はまだ開きません!」
◇◇◇
辺境の村の赤ん坊も声を聞いた。
「おぎゃあ!? 待て!? いや、待たねぇ!」
村人「勇者さま、落ち着いてください!」
「魔王だ!魔王を倒すんだ!」
剣を引きずりながら畑を突っ走る赤ん坊。
「門はまだです!勇者さま!」
「うるせぇ!俺の剣がうずいてんだよ!」
走り出した拍子に畑の案山子を真っ二つにする。
「……魔王の手先だったのだな!」
村人「違います!それ案山子です!」
◇◇◇
闇の神殿では、魔王側の赤ん坊が笑い転げていた。
「ははははは!門が閉まってやんの!」
インプたち「おぎゃああああ!」
「でも俺は行けるんだろ? なに、俺も二、三年待て?はあぁぁぁ!?」
闇の女神『あなたもダメよ。準備が必要だから。』
「おい待てって! 今ノリノリだったのに!」
インプたち「おぎゃああああ!」
「くそっ、門閉めんな!俺のかっこいい登場シーンが!」
◇◇◇
王都の俺は、庭でしゃもじを振り回しながらも冷静になり始めていた。
(そうか……あと二、三年……待つしかないのか……。)
兵士たち「坊ちゃま……?」
「よし、その間に鍛えるぞ!」
「はい!」
「じゃあまずはしゃもじトレーニングだ!」
「は、はい!?」
俺は兵士たちを呼び集め、しゃもじを一本ずつ配布した。
「いいか! 俺と一緒にしゃもじを振るんだ!」
「しゃもじでございますか!?」
「しゃもじだ!」
「おぎゃああああ!」
庭に響くしゃもじの素振り音。
「いち!に!さん!」
「坊ちゃま、門が開くまでこんな調子で……。」
「もちろんだ!」
◇◇◇
辺境伯家でも、レオンが鍛錬を始めていた。
「よーし、俺もしゃもじだ!」
「なぜに!?」
「勇者候補様!それはスプーンです!」
「スプーン?ならこれだ!」
「それはお玉です!」
「なんでもいい!振れぇぇ!」
◇◇◇
東の姫も負けてはいない。
「侍たちよ、木剣を捨てよ!」
「はっ!?」
「これからはしゃもじだ!」
「しゃもじ……でございますか……。」
「えいやぁ!」
侍たち「おおおお!」
◇◇◇
村の赤ん坊も叫ぶ。
「村人ども!畑の道具を持て!」
「鍬ですか!?」
「しゃもじだ!」
「なぜ!?」
「おぎゃああああ!」
村人「……まぁ、勇者さまがそう仰るなら……。」
◇◇◇
闇の神殿でも……。
「よし、お前ら!インプども!」
「おぎゃあああ!」
「しゃもじを持て!」
「えええええ!?」
「敵を叩くんだ!」
「おぎゃあああ!」
◇◇◇
こうして、主神の「あと二、三年待て」のお告げをきっかけに、世界各地で赤ん坊たちとその周囲の人々がしゃもじを振り回す奇妙な訓練が始まった。
魔王討伐の道は遠い。
しかし、しゃもじを握るこの手に、誰もがなぜか希望を見いだしていた。
「おぎゃああああ!待ってろよ魔王ぉぉぉぉ!」
「坊ちゃま、門が開くまではしゃもじをお振りくださいませ!」
「よっしゃあああ!」
――こうして、赤ん坊勇者たちの“しゃもじ大暴走時代”が幕を開けたのであった。
――つづく。
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