第5話 「赤ん坊、笑いながら修羅場を駆ける」

「うおおおおおお!おぎゃああああああ!」


王都の庭に、俺の泣き叫ぶ声が響き渡る。


小さな剣を乳母の腕の中でぶん回す俺。


「坊ちゃま!それはスプーンです!」


(えっ、これスプーン!?いやでも気合いだ!)


目の前では闇の赤ん坊が黒いもやをまとってにやにや笑っている。


「お兄ちゃん、それで戦うの?ぷぷっ……ぷぷぷっ!」


(こいつめっちゃ笑うじゃん!ムカつく!)


「よし、行くぞ!このスプーンの一撃で!」


「スプーンで魔王軍を!?坊ちゃま、あぶないです!」


俺は全力でスプーンを振るい、敵兵の膝にコツンと当てた。


「いてっ」 敵兵が転んだ。


……転んだ!?


「おおお!効いた!スプーン最強!」


乳母「どんなバトルですの!?」


「さすが坊ちゃまー!」


◇◇◇


辺境伯家の館ではレオンがモンスターを相手に大暴れしていた。


「ははは!俺の乳児ボディなめんなよ!」


「勇者候補さま!危険です!」


「危険だからやるんだろ!」


突進してくるイノシシ型モンスターを、レオンは華麗に回転……できずにその場でころんと転がった。


「ぎゃあああ!」


モンスターはレオンを避けようとして隣の兵士にぶつかる。


「ぎゃあああああああああ!」


兵士が悲鳴を上げて草むらに消えた。


「……な?俺の作戦勝ちだな!」


(作戦じゃない!たまたまだ!)


◇◇◇


東の島国の姫は、飛竜を相手に大立ち回りを見せていた。


「えいやーっ!」


「姫様!お足元!」


「あ、やばっ!」


小さな体で飛竜の尾にしがみつき、そのままブンブン振り回される。


「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


侍たち「姫様が振り回されておられるぞ!」


「いっそ逆に回転力を……おりゃぁ!」


回転を利用して木剣を飛竜の頭にぶつける。


ゴン! 「ぎぃぃぃっ!」 飛竜が墜落。


「どやっ!」


侍たち「おおおおお!姫様ご立派!」


「(いや、今のは絶対偶然!)」


◇◇◇


辺境の村では、スライムを真っ二つにした赤ん坊が調子に乗っていた。


「俺、最強だぁ!」


「またスライムが来たぞ!」


「うりゃあ!」


剣を振り回したが、ぬるんとすり抜けて自分の顔にスライムがベチッ。


「むぎゃあああああ!」


「目に入った目に入った!」


村人が慌てて布で拭うが、赤ん坊は大笑い。


「たのしいぃぃぃ!!」


「お、お前、笑ってる場合か!」


◇◇◇


闇の神殿では魔王側の赤ん坊が新たな実験をしていた。


「これが俺の兵隊……ふふ、かわいいな」


地面から出てきたのは、角がちょっと曲がった、見るからに頼りなさそうなインプ。


「おぎゃあああ!」 「おぎゃあああ!」 「おぎゃあああああああああ!!」


(え、泣くのかよ!? 闇の兵、泣くなよ!)


「しっかりしろ!お前らは世界を恐怖させるんだろ!」


インプたち「おぎゃああああ!」


「……なんか俺、すごく間違ってる気がする……。」


◇◇◇


再び王都。


「坊ちゃま!やりましたわね!」


「よし、このまま……あれ、スプーン折れた。」


(やべぇ! 武器がなくなった!)


「これをお使いください!」


「……しゃ、しゃもじ?」


「王家伝来の神器です!」


「神器ってしゃもじ!?いや、もうなんでもいいや!」


俺はしゃもじを構え、闇の赤ん坊に向き直る。


「いくぞ、俺のしゃもじが光るとき、希望が生まれる!」


「ぷぷっ、しゃもじって! あはははは!」


庭に響く、泣き笑いの攻防。


兵士たちは剣を構えながら涙をこらえ、乳母は手を叩いて応援する。


「坊ちゃまがんばってー!」


黒いもやが渦巻く中、俺は泣きながらしゃもじを振り回した。


「おぎゃあああああ!」


「おぎゃははははは!」


しゃもじと小さな闇の拳がぶつかり、火花が散る。


「まさか……坊ちゃまが闇の勇者を……!?」


「勝負はこれからだ!」


かくして、赤ん坊たちの戦いは今日も笑いと混乱を撒き散らしながら、世界を少しずつ混沌へと導いていくのであった。


――つづく。

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