男たちの背中

 忠勝が入場した。

 相手はギルとは違い細身だ。

 だが、筋肉は忠勝と同じくらいついていた。

 「第二選手。蹴鞠派のタイロン‼ オウマ派の忠勝‼」

 入場アナウンスが響く。

 (まじいてえ)

 アキラが痣のある顔でつぶやいた。

 腹部をさすっている。

 (よくやったよ)

 (まあな)

 忠勝とタイロンは見合っている。

 (どっちが勝つ?)

 (……忠勝)

 (じゃあ俺タイロン)

 アキラは不敵に言った。

 

 忠勝とタイロンは構えて、動向を探っていた。

 (来るか?)

 タイロンが僅かに足を動かした瞬間、忠勝は瞬時に動いた。

 タイロンの首元を掴み、金網にぶん投げる。

 けたたましい金網の音が響き、タイロンがリングに落ちていく。

 しかしタイロンは、態勢を立て直すと蹴りを仕掛けた。

 びゅん、と空気を着るほどの素早い蹴りが忠勝を襲う。

 忠勝は蹴りを躱すと、軸足である左足の太腿に蹴りを入れた。

 バランスを崩したタイロンにすぐさま、忠勝は腕をタイロンの胸板に入れると体重をかけた。

 忠勝の体重とタイロンの体重が合わさったものは、スピードもかけて地面に吸い込まれていく。

 忠勝がタイロンの腕を取り、自分の両足を腕に絡ませると関節をしめあげた。

 「ぐ、ぐう……」

 タイロンが苦し気に息をする。

 腕と背筋力。

 忠勝の体重と背筋力をかけられてしまい、タイロンは更に苦痛のうめき声をあげた。

 審判が確認する。

 (ここだ)

 忠勝は更に力を入れると、タイロンが絶叫した。

 審判が終わりの合図をあげた。

 忠勝がすぐさま力を緩めると、タイロンが転がり込んで離れた。

 「つっっう……」

 タイロンが何度か右腕をばたばたさせた。

 この調子なら、靭帯と骨折はしていないだろう。

 タイロンは悔し気な表情をしていた。

 (あれ? こいつ若いんじゃないか?)

 背の高さで分からなかったが、よく見ると顔はどこか幼い。

 「なんだよお……」

 タイロンが悔しそうな顔だった。

 彼にとっては武闘会でこうして負けてしまったことや、得意である蹴りすらも出来ずに終わったことが何よりも悔しいのだろう。

 己の未熟さを突き付けられたタイロンだ。

 「大丈夫か」

 「……」

 タイロンは忠勝を睨んだが、握手を拒否せずに受け入れた。

 そういった教育はちゃんとしているらしい。

 「次はぜってえ勝ってやるからな」

 「ああ」

 忠勝はその必死な様子に笑いそうになったが、彼を傷つけてしまいそうで我慢した。

 

 余裕の表情をした忠勝が戻ってくる。

 (おめえわかってたろ)

 (何が)

 (あいつ自分よりも弱いって)

 (まあな)

 タイロンは強いものの、忠勝から見たら隙だらけだった。

 蹴りにも甘さが少しあったし、何よりも彼はこの場で緊張してしまったのだ。

 これを機に少しは成長してもらいたいものだ。

 蹴鞠派を見ると、ギルが慰めるように背中をさすっていた。

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