Ⅳ血肉の果てに

 シンデレラが雑務を終えて戻ろうとしたとき、アキラとヤマが話していた。 

 「お疲れ~」

 「お疲れ」

 「そういやシンデレラって武闘会選考合宿出るの?」

 「俺も出る予定だ。そっちは?」

 「俺らもだ」

 「一緒に頑張るか」

 「よし、じゃあ出れなかったら何か奢れよ」

 「なんでだよ」

 シンデレラが笑うと、他二人もゲラゲラ笑った。

 「あ、そうだ。シンデレラ」

 ヤマが周りを確認すると話し始めた。

 「あのな、オルカって知ってる?」

 「オルカ?」

 「ああ~知らないよな」

 「知らないっていうか、そんな人と知り合っていないからな」

 「あの~なんて言うんだ?」

 「?」

 「実はさ」

 ヤマは昨日のことを話し始めた。

 昨日、事務室の前を通ると怒鳴り声が聞こえたという。

 それは、オルカのこれまでのことを追及しているものだった。

 思わぬことに息を潜めて聞きこんでいると、オルカが破門を言い渡されたのだった。

 「そうなのか? 俺初めて知ったから……」

 「あいつああいった奴なんだよ。自分よりも年下で優れている道場生がみんな嫌いなんだよな。特に女子には強く出るし」

 「嫌なものだな」

 「でも、目の前にシンデレラいても何も言えないタイプなんだよ、あいつは」

 ヤマが伸びをした。

 「あいついなくなってよかったわ。ほんといるだけでも疲れさせる奴だったからよ」

 

 オルカはただただ呆然と寝床の上にいた。

 いつからこうしているのか忘れた。

 終わった。

 十五年間。

 俺、何してんだ。

 十五年間。

 鏡を見ると、そこには光と色を失った目が見えた。

 あれ? 

 俺ってこんな顔なのか?

 終わった。

 そもそもの競争開始位置にすら立つこともないまま夢は潰れた。

 何者にもなれないまま終わってしまった現実に、オルカは受け入れることが出来なかった。

 俺は何をしたかったんだ?

 どんどん思考は停止し、過去の侮蔑と軽蔑がぶり返していく。

 途端に己のしたことの重みに狂いそうになる。

 どん、と音がした。

 声が出ない。

 喉から見える切っ先がまっすぐに見える。

 声帯を貫かれたためだ。

 ひゅううう。

 空気の抜けた風船のように、間抜けな音が耳に聞こえる。

 真っ黒な影が見える。

 死体となったオルカを黒い靄が覆う。

 

 「オウマ様」

 影はオルカの死体を目の前に出した。

 まだ温かみのあるもので、血がぬらぬらと濡れている。

 「あまりいい出来ではありませぬが……傀儡としては使えるでしょう」

 「……そうか……」

 「こやつの持つ怨みはかなりのもの……制御としては少してこずるかもしれませぬが」

 「ほう……分かった。好きにせい」

 オウマの加虐の笑みが口元に浮かんだ。

 

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