悪鬼

 深夜。

 オウマは一人書庫にいた。

 「影よ」

 「御意」

 「シンデレラをどう思う」

 「……貴方を殺そうとしています」

 「なるほど……」

 オウマは笑った。

 「面白いものだ」

 「憎んでもおります」

 「そうか。退屈しのぎにはなるだろう」

 「どうされますか?」

 「何もするな」

 「御意」

 影は消えていった。

 

 ノアを作ったのは単なる暇つぶしでしかない。

 だが、ノアはただただ血の繋がりが濃いだけのものだった。

 才覚もなく、邪魔者になり殺した。

 ただそれだけのものだった。

 影に殺させようとしたが、結局は自分があの槍で一思いに殺した。

 ただそれだけだ。

 しかしだ。

 それによって面白いことが起きた。

 シンデレラという男が、自分に対して殺意を抱き憎しみを持っている。

 ノアを殺したから。

 そういった理由だろう。

 もっと面白いものが、ノアと比較して才能が溢れていたからだ。

 才能か?

 それとも何らかの血筋か?

 血筋に関して、彼は不明だった。

 捨て子で孤児院の前に捨てられていたという彼は、そこの孤児院で育ちシンデレラと名付けられた。

 両親は、シンデレラを赤ん坊の時に貰い育てていたという。

 その後、格闘技道場に行き才能を表出させていく。

 調査の結果としては、そのようなものだった。

 

 オウマは書庫の隠し扉を開けると、地下室へと向かった。

 この場所はオウマと影しか分からない秘密の場所だ。

 いびつな模様が描かれた魔法陣。

 そして罅割れた鏡。

 「シンデレラを映せ」 

 オウマが鏡に問いかけると、シンデレラの姿が映る。

 シンデレラは寝ているが、その枕にナイフが一つ置かれていた。

 オウマは笑った。

 それは邪悪な笑みだった。

 

 あやつは俺を殺そうとしているのか。

 

 愉快な気持ちだった。

 この腑抜けた世界での暇つぶしに丁度いい。

 誰しもが戦争や闘争を忌み嫌い、平和を願う世界。

 そんなあまりにも退屈な世界に飽き飽きしていた。

 血肉にまみれ、そして臓物が飛び散る世界。

 オウマが見てきた戦場は、あまりにも楽しかったのだ。

 いつ死ぬか分からない世界。

 一寸先は地獄が待っている。

 なぜ自分が戦場に立ったのか。

 ぬぐい切れぬ殺戮衝動と願望。

 戦いたい。

 破壊したい。

 そのために身に着けたありとあらゆる格闘術。

 だが……時間は残酷なものだった。

 時間とともに体はいくら鍛えていても、老いに勝てない。

 今思えば、ノアを殺したのも若い肉体を持つノアに嫉妬していたのだろう。

 才能もない癖にいるだけ邪魔な存在だった男。

 寝ている合間にしてやったのは、ある程度の慈悲というものか。

 

 そして、あれはいつ頃だったか。

 悪魔と契約し魂を売ったのは。

 

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