クラスメイトが死んだ

ナナシリア

玉城 流空

プロローグ

 クラスメイトが死んだ。


 水曜日、帰りのホームルーム。なんの変哲もない日常の一瞬で、担任が告げた。


 苦い顔をしていた。


 その心情が察せられる前に、誰ともなく嗚咽を洩らす。


 他所様の心配なんてしている余裕がない。


 思考が固まる。真っ先に状況を理解したものから涙を零す。


 彼女との距離感、彼女の死に抱く感情。人それぞれだが、皆共通して、心のどこかに困惑を秘めていた。


 昨日、笑っていた。


 今日一日、世界に彼女がいないからといって、世界は変わっていないように見えていた。

 

 明日以降、世界に彼女がいないから、きっと笑わない。ずっと将来が変わる。


 人一人、死ぬだけ。でも、ただいなくなるのとは違った。


 死。


 その言葉は確かな重みを帯びていて、確かに彼らの身近に現れた。突然のことだった。


 だから、困惑した。


 そんなに突然に、真面目で優しく控えめな彼女が、死んだ。


 その事実は、彼女の存在を世界から奪い去った。それと同時に、自分も射程圏内に入っていること。それを意味した。


 情報が過剰だった。状況が受け入れられたなかった。


 何人か、体調を崩した。保健室のベッドに寝ても、きっと気休めにしかならないだろう。


 クラスメイトが、仲瀬ゆうが、死んだ。


 


 木曜日は、休校になった。


 雨が、降っていた。


 教員はやらなければならないことがあった。生徒も、また。


 雨の中わざわざ、傘をさして、それでも絶対に行かなければならない。絶対に行きたい。


 彼女と、告別しなければ、ならなかった。


 香典は三千円で統一することとなった。


 クラスメイトは、本当の意味で、誰一人欠けることなく葬式に出席した。


 式が始まる。


 静寂。


 僧が、入場した。


 経を読んだ。


 ある者はその音に集中し、ある者はゆうに思いを巡らせていた。


 意味も知らない言葉の羅列が数十分間続こうとも、まるで一瞬だったかのように体感された。


 僧の行動一挙手一投足に意味があるように感じられた。


 そう思うことで、少しでも彼女への弔いになればいいと思った。結局は、ただの自己満足だったのかもしれない。


 焼香をした。


 煙のにおいが、静寂を引き立てる。


 静寂が、彼女の死、そして彼女が死んだ世界と向き合う時間をくれた。


 告別式が始まった。


 クラスメイトのうち数人は、遺体ゆうと顔を合わせた。それだけで気分が晴れるわけはなかった。


 ゆうと顔を合わせられるのは、これが最後だった。


 数人は、泣きじゃくった。誰も止めなかった。


 担任は、静かに涙を流していた。ゆうの友人に負けずとも劣らないくらいに、悲しんで。


 静謐なお香の、酸くも甘いにおいが、式場を清めているみたいだった。

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