格差と現実を生きる2人の少女

※残酷表現、はっきりとはしていませんが性描写、暴力表現があります。苦手な方はブラウザバックをお願いします。

※この作品はAI生成された文章に作者が手直しを加えた作品です。AI作品が苦手な方はブラウザバックをおすすめいたします。


脳裏に焼き付いた硝煙の匂いと、借り物の肉体に刻まれた激しい振動が、緩やかに遠のいていく。ゴーグルを外し終えると、重たい現実がゆっくりと私を包み込んだ。全身を覆うダイブスーツのわずかな湿り気が、戦場での激戦の余韻をかろうじて伝えている。


ここはブルックリン、スラム街の古いアパートの一室だ。壁は薄汚れてひび割れ、天井からは錆びた配管が剥き出しになっている。しかし、この場所だけが、外界から隔絶された私の聖域だった。


棚の上には、埃を被ったアメリカンコミックの女性ヒーローのフィギュアが立っている。大きく見開かれた目、力強い顎のライン、そして天を仰ぐようなポーズ。彼女の姿をぼんやりと見つめる。やがて、私の視線はフィギュアのそれと重なり、まるで睨めっこをするかのように互いを見つめ合った。フィギュアの瞳は揺るぎなく、私自身の弱さを映し出す鏡のようにも感じられた。


深く息を吐き出し、私は重い体を起こした。まだ戦場の残滓が残る身体に鞭打ち、部屋のドアを開ける。


廊下に出た瞬間、むっとするような悪臭が鼻腔を突き刺した。床には、黄色いシミが大きく広がっている。その隣で、私の幼い妹が必死に雑巾を手に、そのシミを拭き取ろうとしていた。妹の細い腕が震えている。その傍らには、酒瓶を抱え、だらしなく横たわる父の姿があった。彼の瞳は虚ろで、まるで生きる屍のようだ。


その父の目が、突如としてフラッシュバックの発作の色に濁った。「フェンタニルだ!買ってきてくれ!」父は悲鳴をあげ、身体をくねらせて悶え苦しむ。幻覚に苛まれ、手が、足が、あらぬ方向へ痙攣するように動く。私は咄嗟に妹を庇い、「奥の部屋に引っ込んでろ!」と命じた。怯えた妹は、小さな身体を縮めて部屋の奥へと消えていく。


父は、もはや正気を保てていなかった。動かないはずの腕で酒瓶を強く握りしめ、戦場の幻覚を見ては意味不明なうわごとを叫び続けている。その姿は、かつての屈強な軍人だった面影など微塵もなかった。


私はコートを羽織り、最低限の外出の支度を整えた。向かうは、母が横になっている寝室だ。寝室のサイドボードには、かつて軍人だった頃の父の写真が飾られている。その一枚の写真の中の父は、輝くような眼差しで、誇らしげに胸を張っていた。あの頃の父は、家族の英雄だった。


「ごめんね、ヴィクトリア。あなたをこんな目に遭わせて……。家族のために、犠牲にさせてしまって……」


弱々しい母の声が、寝室に響く。私は努めて明るく振る舞い、「何言ってるの、お母さん。大丈夫だよ、私がいるから」と答えた。私の言葉に嘘偽りはない。だが、その声は、震える自分の心を隠すためのものでもあった。


ドラッグストアに着くと、私は父の苦痛に苛まれる姿を思い出し、最低容量のフェンタニルを購入した。これ以上、父を深く沈ませるわけにはいかない。だが、この薬が一時的な鎮静剤に過ぎないことも、私は理解していた。


アパートに帰宅すると、父は相変わらず戦場の幻覚にもだえ苦しみ、わけのわからないうわごとをわめき散らしていた。その狂乱を横目に、私は慣れた手つきで水を準備し、震える父の唇にフェンタニルを流し込んだ。一瞬、父の身体の痙攣が和らぎ、虚ろな瞳にわずかな光が戻る。それが、私にとって唯一の救いだった。

いつまでこの地獄が続くのかわからない。どんよりとした暗い思いが私の心を押しつぶそうとしていた。階下の大家のおばさんが聴いているのか、どこからかレ・ミゼラブルの夢破れてが流れてくる。これが私の現実で、もう一つの戦場だった。


ところはかわって摩天楼ニューヨーク。

硝煙と血の匂いが消え去り、脳裏を覆っていた戦場の喧騒が遠のいていく。ダイブゴーグルを外せば、そこは見慣れたマンハッタンのペントハウスの一室だった。シンプルな中に上質さが際立つ家具が配置された、見慣れた私、エリスの自室だ。ダイブスーツを脱ぎ捨て、肌触りの良い部屋着に着替える。窓の外には、煌めく摩天楼の夜景が広がっていた。完璧に管理された室内には、母の作ったムサカの香りが漂ってくる。


廊下に出ると、兄の部屋の前を通り過ぎようとした。その瞬間、ドアが開く音がし、長兄が姿を現す。その目は、私を蔑むような色を宿していた。周囲に誰もいないことを確認すると、兄は唐突に私の足を強く踏みつけた。鋭い痛みが走る。


「この家で、一番優秀なのは誰だ?」


兄の声が、静かな廊下に響く。その声には、有無を言わせぬ支配が滲んでいた。私は痛みに耐えながら、震える声で答える。


「……兄さん、です」


私の目には、はっきりと怯えの色が浮かんでいた。戦場でどれほど冷酷に振る舞おうとも、この家の、この男の前では、私は無力な存在でしかなかった。


「それでいい」


兄は満足げにそう言い、ようやく足を引っ込めた。そして、顎で台所を指し示し、早く行けと促す。「ダイブ中の体を清らかなままに保っていたいならば、俺の言うことを聞くんだな」。兄は私に背を向けながら、さらに言葉を続けた。「女は出産しか能がない」「下賤な雌犬め」――耳を塞ぎたくなるような侮辱の言葉が、私の背中に投げつけられる。


私は、その言葉を全て飲み込み、ただ黙って兄の横を通り過ぎた。キッチンに足を踏み入れると、オーブンから取り出したばかりのムサカを前にした母が、優しい笑顔で私を迎えた。


「ただいま、お母さん」


私の声は、ひどく掠れて聞こえた。戦場の狂気と、家庭の闇。二つの異なる地獄が、私の日常を支配していた。


これが私の現実で、そして戦場だった。

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