ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

ある日、僕は全知全能になっていた。

 ある日、僕は全知全能になっていた。とは言っても、全知に関しては全能による全知と言った方が良いだろう。初めから全てを知っている訳では無くて、知りたいことが全て知れるだけだ。

 でも、僕が全知を望めばそうなる。いつでも全知全能になれるから、実質全知全能みたいなものだ。


 全知全能になってからの僕は先ず、いつも通り教室の机に突っ伏しながら他に全知全能が居ないかを探った。勿論、探っているのが探知されないように、そして隠していても見つけ出せるようにと条件を付けて探った。見つかれば能力を即座に消し去ってやるつもりだったが、僕の他に全知全能は見つからなかった。他の世界やら宇宙があるなら、そこまで調べてやろうかとも思ったけど、怖かったのでやめた。

 地球で発生した全知全能は僕と近いタイミングである可能性が高いけど、他の宇宙やら世界には遥か昔から居る可能性も高いだろうと、漠然と考えたからだ。

 全知全能になっても、僕の知能は特に上がっている訳では無かった。

 でも、知能を馬鹿みたいに上げて人知を超えた存在になってしまうのは(既に人知を超えた存在ではあるかもだけど)、僕が僕では無くなる気がしたのでしたくなかった。


 ただ、僕はまだ怖かった。僕の探知を逃れたか、後から生まれる全知全能も居るんじゃないかと考えたからだ。僕が全知全能になってから十秒足らずで僕は探知を実施したが、その二十秒後に新たな全知全能が生まれて来る可能性だってある。


 だから、僕はプログラムを作ることにした。大して頭も良くないただの高校生の僕にはプログラムが正確に何なのかも分からないけど、AIでは無くてプログラムだ。

 僕の全知全能の力を利用し、自動的に最適を模索して実行するプログラム。但し、実行には僕の許可が必要だ。

 一応のセーフティも付けたそれによって再び全知全能を探したが、当然の如くそんな存在は見つからなかった。ただ、その後に新たな全知全能が生まれる可能性はあったので、全知全能の能力によって今後は全知全能が生まれないようにした。


 僕は安堵の息を吐き、鳴り響く授業開始のチャイムに顔を上げた。




 ♢




 授業の間、僕が考えていたのは能力を何に使うかだった。当然だろう。最早、数字の授業など何の役にも立たない。いつでも、僕はその内容を記憶することが出来る。知識をインプットする系は、怖くてまだ手を出す気にはなれないが。


 健全な男子高校生である僕の脳内に思い浮かんだのは、必然的にえっちなことだった。今の僕は、やろうと思えば透視だろうが催眠だろうが洗脳だろうが何でもできる。

 でも、結局のところ授業の間それを実行に移すことは無かった。そして、今からも当分は無い。僕の脳内に、一つの考えが渦巻いていたからだ。


 それは、これが僕の全知全能を上回る謎の力によって授けられたもので、それを与えた神様とかそんなのは僕がこの能力で何をするかを監視しているのではないか。

 僕はその考えに頭を支配され、小悪党的に能力を使うことをどうにも渋ってしまっていた。一先ずは、善行に使うべきではないか。向こう一ヵ月は、それで様子を見よう。

 いや、一ヵ月で足りるのか? 神様的な存在であったとしたら、それはきっと気が相当に長い。というか、時間的感覚が人間とは大きくずれている可能性が高い。神様が僕を監視している期間は、一年か。それとも、一生だったりするのか。


 僕は考えても仕方ないような考えを、分かっていながらぐるぐると考え続けた。


 そこから二度の授業が終わり、ホームルームすらも終了して解散となった時、僕は自宅へと静かに帰りながら、まるで哲学者の如き気分だった。本物の哲学者のように賢くもないが、ここまで神様のことについて熱心に考えたのは初めてだった。


 しかして、最終的に浮かんだ発想は僕の中では満足できるものになった。


 先ず、神様は善良なものだとする。遊び感覚で僕に能力を授けるような悪戯な神様だとしたら、僕が何をしようが罰なんかは下さないだろうから考えないことにした。

 とすれば、神様は善良な行いを僕に期待していて、悪行は許さない筈だ。だが、その中間の行いであれば? 悪行とも善行とも区別のつかない行いであれば、神様はどう反応するのだろう。


 もしかすれば、何かしらのお告げを貰えるかも知れない。


 悪行ならば容赦なく罰されるかも知れないし、善行ならばそのまま暫くは見守るかも知れない。だが、その中間であれば? 神様は悪人でも善人でもない僕を、善人にするべく声をかけるかも知れない。前提として、神様は善良な存在だからだ。


 そして、具体的にその能力をどう使用するかについてだが……僕自身の興味を満たす為に使うことにした。つまり、誰にも迷惑はかけないが、誰の得にもならない行為だ。


 手始めに、僕は全知全能の力に尋ねることにした。僕が想像するような神様は居ますか、と。全知全能の力は答えた。


 そんな神など存在しない、と。


 全く信じるに値しなかった。

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