元ラスボスの悪役令息はネタ装備がお好き - 通常プレイに飽きたので[武器:トイレのスッポン]で無双していたら、いつしか変態貴族と呼ばれるようになっていた -

ふつうのにーちゃん

・俺は正気に戻った!

「臨時ではありますが、リチャード・グレンター、貴方をエーギルの杜より追放処分といたします。追ってさらに厳しい沙汰があると思いなさい」


 今でも覚えている。彼らに敗北したあの日を。

 破滅をもたらす魔剣タナトス。触れてはならない禁忌の剣に身体を乗っ取られた俺は、あの日ようやく自由を得た。


 学友たちの突き刺すような目が愚かな公爵令息リチャードを囲み、操られていたのだと弁解する間もなく一方的な断罪を受けた。


「ぅ……ぁ…………」


「これが魔剣を握った者の末路……なんと哀れな……」


「あんなに綺麗だったリチャード様の髪が、真っ白に……」


「全て魔剣タナトスのせい。……なんて発表をしたら、民衆は怒り狂うでしょうね」


 操られているとはいえ、魔剣タナトスそのものと化した俺はモンスターを都に呼び出し、とんでもない争乱を引き起こした。

 奇跡的に死者こそ出なかったようだが、その経済損失は計り知れない。


 グレンター公爵家は損害賠償により領地の7割を割譲し、世間には魔剣に魅入られた一族と恐れられるようになった。


 弟の縁談は破談となり、父は死去。

 残された弟は廃人となった兄の面倒を見ることになった。


「兄さん、今日は僕たちの訴えがやっと認められたんだ」


 兄のせいで諸国の学生たちが集まる大学校【エーギルの杜】を追放されたというのに、弟のチャールズは兄に苛立ちすら見せなかった。


「兄さんと父さんはあのおぞましい魔剣に操られていた! それを貴族議会に認めさせた! 信じないなら抜いて見せろと、反対派貴族の前を魔剣タナトスを持って練り歩いたんだ!」


 魔剣に精神を破壊された兄に、弟はやっと兄の名誉を回復出来たと、それはもう嬉しそうにはしゃいだ。


「僕、やったよ、兄さん! 父上と兄さんの無念を晴らしたんだ!」


 しかし兄からの返事はなかった。

 粉々に割れてしまった心はもう元には戻らなかった。


「兄さん……早くよくなって、昔みたいに僕を叱ってよ……。何か、答えてよ……兄さん……」


 傲慢ゆえに魔剣タナトスと出会い、操られ、廃人と化した愚かな貴族リチャード・グレンターは愛する弟が涙を流そうとも何も答えられなかった。


 しかし奇跡が起きなかったわけではない。

 弟の望む形ではなかったが、廃人と化したリチャードにある日奇跡が起きた。


「リ、リチャード様……!?」


「おっす、確か君はメイドの……ナンタラカンタラさんだっけ」


「わ、私がわかるのですか!? 大変っ、大変ですロッコさんっっ、リチャード様が正気に戻られましたっっ!!」


 メイドのナンタラ・カンタラは執事のロッコを呼びに食堂を飛び出していった。

 その間に俺は自分で紅茶を入れて、一息吐く。


「なるほど、なるほど、リチャード・グレンターか」


 紅茶を見下ろすと水面に白髪の若者が映り込んでいた。

 髪は白く色あせてしまっているが、そこには親の顔より見た悪役令息リチャード・グレンターの姿があった。


「ふーん……ゲームの世界かー。入れんのなー」


 とりま足を揺すって、状況を楽しんでみた。

 するとちょうどそこに執事とメイドが駆けてきた。


「坊ちゃまっ!!」


「おーっす、いただいてまーす」


「お、おおっ、坊ちゃまがっ、坊ちゃまがお喋りに……う、ううっ、うぉぉぉぉーんっっ!!」


「良かったっ、チャールズ様が知ったらさぞお喜びに……!」


「いやそーいう? シンプルな状況でもないんだなぁ、これが?」


 というのも『さあこれからシナリオ改変だ!』と行きたいところなのだが、肝心のそのシナリオが既にエピローグを迎えてしまっている。


 ま、要するに、ここはいわゆる【クリア後の世界】ってこと。

 [シナリオチャート先取り]もできないし[効率プレイ]をする意義もない。


 前世の記憶が目覚めたはいいが、既に全部終わってた、なう。みたいな。


「ま、せっかくだし? くわしー話聞かせてよ、最近どうよ?」


「お、おおっ、坊ちゃまが我々にご興味を!! 坊ちゃまぁぁぁ!!」


「わ、私っ、チャールズ様を呼びに行って参ります!!」


 執事のロッコから一通りを聞くと、裏ボスまで完全攻略されていた。宝箱回収率もたぶん100%。

 魔剣タナトス(リチャード)が倒されて2年が経過していた。


「ありがとう、だいたい状況飲み込めたわー。あ、お茶もう一杯もらってもいい?」


「何を人事のようなことを! ここは坊ちゃまの家にございますぞ!」


「いや出てくし」


「なっっ、なんですとぉぉーっっ?!!」


 お茶をグビッと一気飲みして立ち上がると、執事のおっさんが両手を広げて立ちはだかった。


「お待ちをっ、チャールズ様がお嘆きになられますぞっ!!」


「確か図書室があったよな? 案内してくんない?」


「出て行くなど絶対にダメですぞ、坊ちゃま!!」


 図書室に入り、本棚を探った。

 特に目当てがあるわけではなかったが、興味深い物を見つけた。

 児童書だ。そこにはいくつかの魔法の言葉が紹介されていた。


「ステータスオープン!!」


――――――――――――――

【リチャード・グレンター】

職業:貴族(無職)

 力 :S  守 :A

 技 :SS 速 :S

 魔 :F  魔守:A

――――――――――――――


 さすがは元ラスボス。弱体化こそしているがそれでも圧倒的な基礎ステータスだ。

 魔法の才能はなし。[魔:F]なのはタナトスを宿した後遺症か何かだろう。

 続けてもう1つの魔法の言葉を唱えた。


「スキルオープン!!」


――――――――――――――

【戦闘スキル】

 剣術  : 90

 槍術  : 37

 弓術  : 50

 盾術  : 83

 攻撃  :110

 防御  : 98

 回避術 :105

 自然回復: 64

 闇魔法 :199

 光魔法 : 25

 氷魔法 :180

  1041/1000(over!)


【生活スキル】

 礼儀作法:100

 帝王学 : 60

 弁論術 : 90

 教養  :120

 演奏  : 50

 歌   : 76

 ダンス : 60

 食通  :125

 自慢話 :150

  831/1000

――――――――――――――


「なんだこのスキル……?」


 戦闘スキルの高さは魔剣タナトスに乗っ取られていた影響だと思う。何せ俺は元ラスボスなのだから異常に強くて当然だ。


 しかしそれよりも気になるのは【食通】と【自慢話】スキルだった。


「こんなスキル、知らないぞ……」


「どうなさいましたか、坊ちゃま?」


「あ、すんません、ちょっと気になることが。俺のスキル画面に出ているこの【食通】と【自慢話】というスキルなんだけど……こんなのあったっけ……?」


「何をおっしゃいます、坊ちゃま! 坊ちゃまと言えば美食にうるさい貴公子と界隈では有名。毒舌で店主をぶちキレさせたこと百を超える男。また自慢話を始めれば2時間は相手を拘束する剛の者、と世間でも評判でございましょう」


「それただの超やなやつじゃんよ!!?」


 このゲームは『完全スキル制』をうたっている。レベルアップの概念はなく、プレイヤーはスキルレベルを上げてキャラを成長させてゆく。


 その独特のゲーム性は味わい深く、育てるスキルの組み合わせ次第で様々なキャラクターが生まれる。


 かくいう俺もこのゲームを20周50キャラクターほどを作成して、ありとあらゆるスキルビルドを楽しみ抜いた。


「へ、へへ、へへへへ……っ」


「ぼ、坊ちゃま……?」


 そんな俺の前にまだ見ぬスキルが現れた。完全に遊び尽くしたと思ったが、まだこのゲームは俺を遊ばせてくれるという。


「あ、悪いんだけど、スキル見せてくれない?」


「ワ、ワシのですか!? そ、それはいくら坊ちゃまのお願いでも……っ」


 スキル画面。ステータス画面。それは人には見せられないデリケートな情報らしい。


「じゃあいいや、そろそろ出てこっかなぁ……」


「お待ち下さい坊ちゃま!! ワ、ワシの……ワシの全てを見せればよいのですね、坊ちゃま……」


「え、いいのぉーっ!?」


 俺はゲス顔で喜んだ。


「つ、妻にも見せたことないのに……っっ。スキル……オープン……ッ」


――――――――――――――

【戦闘スキル】

 剣術  : 13

 槍術  : 15

 ダーツ : 48

 攻撃  : 30

 防御  : 45

 回避術 :  5

 自然回復: 15

  143/1000


【生活スキル】

 礼儀作法:150

 教養  : 67

 演奏  : 10

 歌   : -8

 ダンス : -5

 サーヴァント職

     :200

 風俗巡り:255

 釣り  : 89

  778/1000

――――――――――――――


 スキル画面に人の歴史あり。性癖あり。

 うちの執事は意外と遊びまくっていた。


「なんか、ごめん……」


「坊ちゃまだけですぞ……。妻には、妻には内密に……」


「いやコレ、ヤバいし……言えるわけないし……すげぇや、アンタ男だぁ……」


「て、照れてしまいますなぁ、ホッホッホ……くれぐれも内密にお願いいたしますぞ……っ」


 おたくの旦那さん、風俗狂いですよ。

 何気にダーツとか釣りとか極めてますよ。


 そしてそう、ダーツ。ダーツだ。

 こんな武器スキルは当時のバージョンには存在しなかった。


「ロッコさん、このダーツスキルって、強い?」


「ただの道楽にございます。旦那様が生きていた頃、夜な夜な嗜みましてな」


「ほぅ、道楽っ、いいね!」


「しかし坊ちゃま、坊ちゃまはダーツがお嫌いでは?」


「たった今興味が出た! いいじゃん、いかにも弱そうで!」


「は、はぁ……? よくわかりませんが……よろしければ、遊戯室でルールをお教えしますが」


「ぜひ! ありがとう、おかげでなんか楽しくなってきたっ!」


 やり尽くした世界に転生して内心少しガッカリしていた俺に光が差した。

 そう、この世界にはどうやら[変なスキル]が山ほど眠っているようだ!


 俺はこのエピローグを迎えてしまった世界で、自分自身をネタキャラ育成して遊び倒すことにした!


 ゲーム世界に転生をしたら、誰もが最強スキルを選んで効率プレイをすると思ったら大間違いだ!

 むしろ、やり込んだゲーマーは、新たな体験を求めて変な縛りプレイをしたがるもの! 


 まだ見ぬ変なスキルを求めて、俺はダーツをロッコさんと嗜むと、屋敷の使用人にスキルオープンを強いていった。


≪ダーツ:0→1≫

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