第45話

正月の三が日。私は受験勉強のラストスパートの為に江戸くんに数学と歴史の江戸時代の勉強を見てもらっている。

令和ちゃんはもう帰って行った。

「―――次の問題。農民や町人が『読み書きそろばん』を勉強した場所はどこ」

「寺子屋」

「はい正解」

ノートに書いた答えに丸を付ける江戸くん。

私は壁にぶら下げてある黒板を見た。

今まではホワイトボードだったのだが、通販が苦手な昭和くんが間違えて買ってしまったので今日から黒板で授業することになった。

ホワイトボードは現在、掃除やご飯など役割分担表として食堂に置かれている。

「ま、まぁ......使えるなら何でも良いだろ」

隣に座っている昭和くんが私のノートに落書きを書きながら言った。

「昭和、ちゃんと自分の帳面ちょうめんに板書して」

「俺は生徒じゃねぇんだけど......」

「じゃあ、ちょっかいかけるのやめてあげて。あと平成は何してるの?」

江戸くんは小上がりの隅でブツブツ言いながら、鉄砲を分解している平成くんに目を向けた。

「安土桃山から借りた鉄砲......壊しちゃった......」

「「「............」」」

涙を流しながら青ざめた表情で振り返る平成くん。その手に持っているのは、見るも無惨むざんな姿に成り果てた安土桃山くんがいつも背負っている鉄砲。

昭和くんは落書きする手を止め、ちらりと鉄砲を見て、

「あーあ」

とひと言だけ呟いた。

「何でこんなことになったの?」

「初めはネジが外れて......どこのネジが分からないからそのまま撃ってみたら何故か暴発ぼうはつしちゃって......」

「要するに分からんまま触ったってことだろぉよ」

「昭和正解......」

機械系なら明治さんか大正くんが得意そうだから、鉄砲も直してくれそうだけど......鉄砲って機械なのかな?

スマホの検索バーに打ち込んでみるが、直し方は書かれていなかった。

※実銃の場合は専門の技術を持つ職人さんに依頼することを強くすすめます。

「もう素直に謝った方が良いと思うよ」

「それはそうだけど......」

昭和くんが鉄砲の部品を丁寧に風呂敷ふろしきに包む。

「大人しく怒られてこい」

「てか、安土桃山は知ってるんじゃないの?」

「いや、安土桃山が『庭でなら好きに撃ってくれても構わないであります!』って言ったから一人で撃ってた」

平成くんの言葉に江戸くんと昭和くんが半目になる。

「まぁ、安土桃山の監督不足だな」

「初心者に一人で撃たしちゃ駄目でしょ......」

その時、誰かが勢いよく談話室に入って来た。

「呼ばれた気がしたので来たであります!」

「何だか妙な話が聞こえてきたようだが?」

「ぎゃぁぁぁ!!」

急に現れた安土桃山くんと奈良さんに、悲鳴を上げた平成くんは反射的に文机ふづくえの下に隠れた。

「いきなりどうしたでありますか!?」

「そんな驚くことか?」

二人は隠れた平成くんを見て首を傾げる。

「仕方ねぇな」

平成くんを見て呆れた昭和くんが机に置いた風呂敷を安土桃山くんに手渡した。

「......これは?」

「あー、見てみたら分かる」

「昭和の裏切り者ぉぉ!!」

「誰が裏切り者だ」

平成くんと昭和くんの言い合いが始まろうとした時、風呂敷を解いて中を確認していた安土桃山くんがぽつりと呟いた。

「平成、これは......何でありますか?」

「え、あ、その......」

机の下から這い出て、言葉を濁しながら目線を泳がす平成くん。

「怒らないので、一から十まで説明してもらえると助かるであります」

「その......ごめんなさい」

「......謝罪より説明してほしいであります」

「ネジが外れて、気にせず撃ってみたら暴発して......」

安土桃山くんは深く息を吸い込んでから言った。

「まず第一に、異常を感じた時点で即座に使うのをやめるであります」

「特に今回は一歩間違えれば大怪我になっていたかもしれないんだぞ」

奈良さんが補足する。

「......とはいえ」

少し間を置いて安土桃山くんは頭を掻きながら口を開いた。

「元を辿れば、撃つ時に小生もちゃんとその場にいなかったのも事実。申し訳ないであります」

「え……?」

思わず声を漏らしたのは平成くんだけじゃなかった。 私も江戸くんも昭和くんも一瞬きょとんとする。

「安土桃山……?」

「いや、そこは謝らせる側だろ」

昭和くんが小声で突っ込むが、安土桃山くんは首を振る。

「では平成は小生の鉄砲内部講座を受けて一丁いっちょう作ってみるでありますか?」

「え、作れるの!?」

「作れるであります!」

「じゃあ『平成男子、鉄砲を作ってみた!』って動画撮る!絶対バズる」

「平成......?」

安土桃山くんは何故か半目になる。

「じゃあ僕達は勉強再開しようか」

江戸くんがチョークを持ったその時、奈良さんが尋ねる。

「そういや若人、朝からずっと勉強していたよな。三が日だし、たまには休むことも大事だぞ?」

奈良さんがお皿に盛られたカットフルーツを机の上に置いた。

さっそく昭和くんと平成くんが手を伸ばす。

「休憩がてら、江戸と福茶でも飲みに行ってこいよ」

「「え?」」

江戸くんと声が揃った。

「二人で散歩行ってこいって言ってんだよ」

「そーだぞ若人!休むのも大事だぞ」

「いやでも、福茶なら平安さんが元旦に......」

「細かいこと気にすんなよ」

昭和くんが私の背中を軽く押す。

「帰ってきたら鍋料理作ってやるから行ってこい」

彼の言葉に反応した江戸くんは席を立った。

「江戸くん?」

「寒いとこから帰ってきた時の鍋料理は美味いからな!」

奈良さんが納得したように頷く。

戻ってきた江戸くんは藍御納戸あいおなんど色の羽織はおりを羽織って降りてきた。

彼は中腰になり、私と目線を合わせてきた。じっと服装を観察するように......。

「......はい」

着物の懐から布で包んだ細長い石を取り出し、そのまま私に手渡す。

「これは?」

布で包んだ石は何だか暖かい。

「これは温石おんじゃく。温めた石を布で包んで暖を取るんだよ。......現代で言うカイロだね」

「へぇ〜......」

「江戸の町に行くなら寒さ対策しないと」

「江戸時代に行くの!?」

「え、うん」

江戸くんは当たり前じゃんみたいな表情で首を傾げる。

(冬の江戸......)

手袋をして江戸時代に行くと、吹き付ける風が冷たい。

「さっっっむ!!」

体が凍えるような寒さだよ......。

日本一の積雪量を誇る滋賀県でもこんなに寒くないよ!?

江戸の時代はミニ氷河期だったからね。利根川とねがわが凍る程なんだよ」

なんて、さらっと言ってくる江戸くん。

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