第4話

「まず、この場所......悠久邸ゆうきゅうていとでも呼びましょうか。この場所は普通の人のは見えませんし、入ることも出来ない不思議な場所なんです」

エントランスを抜け、談話室を横切って通された応接間には、長いテーブルと十八個の椅子。壁一面には本がぎっしり詰まった本棚。

「他にも和室がありますよ」

と言われ、案内された部屋は宴会でも出来そうな二十畳の和室だった。

次に案内された部屋は談話室だった。

談話室には小さめのテーブルとソファがそれぞれ四つ置いてあり、奥には寝っ転がれるように小上がりもある。

改めて室内を見渡した。談話室と言うだけあって、チェスや人生ゲーム、将棋やトランプなどのボードゲームの揃えは良い。

「あ、美空ちゃん」

「待っとったばい〜」

「縄文くん、弥生くん!!」

談話室にいたのは、縄文くんと弥生くんだった。二人共ニコニコと手を振っている。

ハッと驚いたような声を上げると縄文くんは、そっと私の手を掴む。

ワシっと手を掴まれた途端、反対側の手も明治さんに掴まれた。

縄文くんの反対側の手は弥生くんが握っている。

四人仲良くお手々を繋いだ、ら。

視界がぐにゃりと歪んだ。


「着いたよ」

ハッと目を開けると、目の前には広がる木々で形成された森。

「ここは......どこ?」

「縄文時代だよ」

「ウソォ!?」

私はすんっと腰が抜けたようにその場にしゃがみ込んだ。

頭の中は、な、何で!?っていう疑問符でいっぱい。これって、タイムスリップってこと!?

「何でタイムスリップできているんだろう......?」

「たいむすりっぷ?あぁ、時間旅行!厳密には違うんですよ。えぇっと......凄いパワー的なやつですね!」

「へー、そうなんだ!」

明治さんの抜け抜けの説明に弥生くんが付け加える。

「強かて言うなら記憶ん保管庫とか、誰かん思い出ん集合体ん様なもんや。おりゃあ達ん記憶や記録ば中心に再構築しとるらしいばい。歴史に影響はなかけん安心してくれん」

ダメだ......全く分からない。

「分かりやすく説明するとですね、僕達の記憶を元に再構築しているんです。実際の歴史に影響は出ないので、安心して下さい」

う〜んと唸っていた私の心情を読み取ったのか、明治さんが翻訳してくれる。

「じゃー気を取り直して、近くにムラがあるからそこ行こう」

縄文くんを先頭にして、森を抜けると、集落のような場所についた。

わらで造られた大きな家。あれが確か......何だっけ?

「あの家は竪穴式たてあなしき住居じゅうきょ。地面を掘り下げて床を作り、その上に柱を立てて屋根を付けた簡易的な家。夏は涼しく、冬は暖かいよ」

という解説を聞いていると、小さめのいのししがこっちに向かって突進してくる!!

「ぎゃわっ!!」

驚いて変な声が出てしまった......じゃなくて!!

猪は興奮しているのか、スピードが落ちる気配がない。このまま突進されれば死ぬ......?

ヤダヤダ、こんな場所で死にたくない!!

その刹那せつな

猪が、消えた。

「......え?」

猪が消えた場所には深い穴。穴には猪が落ちていた。

............どうやら落とし穴だったみたいだ。

「上手いこと掛かってくれたね」

縄文くんが穴の中に飛び込み、気絶している猪を引き上げる。

「今日はご馳走だよー!」

猪が狩れたからか、縄文くんの機嫌が良い。

それはもう、幸福そのものの笑みを浮かべている。

私達は、近くのムラにお邪魔することになった。

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