神スキル:文明付与を獲得しました(制御不能)
滝岡未録亭
第1話 蟻に触れたら王国ができてた件
かつてこれほど強力な能力があっただろうか。
異世界に転生した僕のスキルは、なんと「指先で触れたものに文明を与える」というものだった。
意味がわからない?
うん、まあぶっちゃけ僕もそうだった。
たとえば転生初日、軽い気持ちでそこら辺の木に能力を使ったら5秒後には火薬を発明して戦争を始め、1時間後には広大な森が丸ごと焼け野原になってた。家の前の石ころをつついたら石同士がテレパシーで宇宙の真理について無限に議論し始めて数日間ろくに眠れなかった(親切に
この能力、シャレにならない。
でも大丈夫。だんだんコツは掴めてきたし、この最強スキルを使いこなせるようになったら金も権力も自由自在、女の子にだってモテモテ間違いなし!
僕の冒険は始まったばかりだ!
で、今日。
僕は冒険者として初めてのクエストをギルドから任されていた。
最強能力持ちとしては少々地味なスタートだけど、ローマは1日にしてならず、千里の道も一歩からって孔子様も言ってたしな、うん。
「カイ、依頼は簡単よ、この村に発生した蟻の駆除。いい? 簡単な任務だから、あんたのスキルは使わなくていい」
セリナがそう説明してくれる。年下だけど冒険者ギルドの先輩兼僕の指導係、風にたなびく赤髪がかっこよくて美人なカリスマ女剣士だ。
「わかってます。今日はマジで、マジで無難に、地道に、健全にやりますよ!ほら、もう蟻の行列見つけましたし」
そう言って僕は、地面に指を伸ばす。
ぴとっ。
──その瞬間。
空が紅く染まり、どこからとも無く祝福の鐘の音が鳴り響いた。
「……あっ」
地面がモコッと盛り上がったかと思うと、その中から突如として鋼鉄製の蟻型多脚戦車が現れた。
よく見るとその後ろには何百匹もの蟻たちが軍服を着て整列している。
戦車の背中で、赤いマントを羽織った一匹の角を生やした蟻がメガホンを手に仁王立ちしていた。
「我々、アリガル帝国はこの地を首都とし、独立国家として人類との外交樹立を望む!」
「カイ〜?」
背後のセリナがガシッと僕の肩を掴んだ。その額には青筋が浮かんでいる。
「言ったよね!? 使うなって言ったよね!!??」
「う、うん…でも、蟻が移動手段を発明して自力で他所に行ってくれたら楽かなと思って……」
「だからなんでそれが軍事国家になるのよ!?」
「こちらが最新型の蟻用航空母艦になります」
蟻の国防相が、僕たちの前に10円ガム大の資料を広げている。蟻王国の誇る最新最大の印刷機で刷られた自慢のスライドだ。
その前でセリナは頭を抱えてうずくまっている。僕はというと膝を抱えている。
「……それで、この村から移動してもらうことって」
「それは無理ですね。等しく文明を持つ者として我々は、人類と共生する権利を持っていると考えています。それにこの地は『主』であるあなたが我々に与えて下すった約束の地、ここから離れることは我が民族のルーツ、いやアイデンティティを否定することになります」
「いや、なんか変に崇められてる? 僕は単に楽して仕事を片付けようとしただけなのに⋯」
「王権神授説です」
「は?」
「主が最初に力を与えた者、つまり我々の王があなたの全権代行蟻なのです。我々はただ王の命令に従っていますが、それがあなたの意志でもあるのです」
「え〜そんな滅茶苦茶ですよ、ねえセリナさん?」
「もうヤダこの仕事⋯」
「セリナさん聞いてます?」
「ワタシナニモシラナイ、ナニモミテナイ」
「ちなみに我々は今は全長12メートルのあなたの像を建設しています」
「勘弁してくれ⋯」
「王命ですから」
一週間後。
蟻たちはさらなる経済発展の結果、革命を経て共和制へと移行し、さらに「個蟻の自由と選択を尊重するべき」というムーブメントからやがて王国そのものが解体され、いくつかの小さな氏族に分かれた蟻たちは新天地を求め旅立っていった。
「結果オーライでしたね」
僕とセリナは、跡形もなくなった蟻王都跡をじっと見つめていた。
「一応初クエストは合格にしてあげるけど、期限オーバーだから報酬は無しよ」
「⋯トホホ」
「カイ、もう一回だけ言うわね」
「え?」
「ス キ ル を 使 う な」
「はい…」
僕は深くうなずいた。
すっかり元通りになった畑には、砂利と粘土で出来た高さ12メートルの、ホンモノと瓜二つな僕の像だけが残された。
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