第13話 条件
今回のことでわかったことがある。
それは、サクの付与能力だ。
・無機物に魔法をかけることができる。
・対象から離れても効果は持続する。
・付与した物はサクの魔力を使い続ける。
・だが、魔石などで魔力を補充する魔法陣を対象に付ければ、魔力の利用はサクから魔法陣に移すことができる。
「サク、付与能力を使う時は、必ず先にこの『魔力補充魔回路』が書かれた魔法陣を対象に張って使ってね」
私がサクに説明すると、サクも「わかった」とうなずいてくれた。
魔力が低い段階では危険だが、魔法を物に付与できるのは凄い。
「クレア、俺、いいこと考えた!!」
「何?」
サクが笑うので私までつられて心を躍らせながら尋ねた。
「これから宿を始めるだろう? もしも俺の欲しい属性を持った冒険者に出会ったら、宿代を安くして魔法を貰えばいいかも!! それならガスコンロ……正確には魔コンロも夢じゃない!!」
――衝撃だった。
これまで私は自分の使える魔法だけしか考えたことがなかった。
魔回路というのは、魔法を使えない人が使えるようにするもので、魔法そのものの流れを再現する回路だ。だからとても単純なことしかできない。
魔法を使えるなら実際に魔法を使った方が早いし、もっと便利なことが出来る。だから魔法を使える人はあえて面倒な魔回路の研究はしないし、魔法を使えない人はそもそも回路を組み立てるために実際の魔法を出現させることさえできない。
「他の属性の人の魔法を転写して使う……」
だから、そんなこと考えたこともなかった。
確かに付与魔法があれば、わざわざ魔法の流れを読み解いて、魔回路を作る必要がないのですぐに実現可能だ。
私は思わずサクを見た。
(確実に浄化よりもサクの付与魔法の方が、貴重で有益な能力だわ……)
魔法の世界で、瘴気は怖いものだが魔石がなくとも人々は困ってしまう。
だが、魔物の量が多すぎでも困るので、聖女に事前に瘴気の溜まっている場所を見つけてもらって安全を確保するのだ。
つまり聖女の浄化は予防策。つまりマイナスをゼロにする魔法。
だが、サクの能力は……発展。ゼロからどんどん繋がっていく希望の魔法。
ふと、サクを見ると嬉しそうに冷蔵庫を呼ばれるようななった箱に食材を入れていた。
(アルビンたちは一体どんな術式でサクを呼び出したのかしら?)
私は、サクに尋ねた。
「ねぇ、サク少し上に行ってもいいかな?」
「うん!! 俺はここを片付ける!!」
「お願いね」
私は厨房の整理整頓をサクに任せて自分の部屋に戻った。
そして部屋に戻ると、音声を外部から遮断する風魔法を部屋の前にかけた。そして、ずっと使っていなかった魔伝を取り出して、アルビンのいる宮廷魔法研究所の所長室に繋いだ。
『クレアか? 珍しいな、どうした? あいさつはいいから用件だけでかまわない』
アルビンはすぐに魔伝に出てくれた。
「ふふふ、ありがとう、助かるわ。少し聞きたいことがあるの……」
『なんだ?』
「今回の召喚の条件を教えてくれない?」
私が尋ねると、魔伝越しで表情は見えないが、アルビンの弾んだ声が聞こえた。
『お、さすがだな。変えたことに気付いたのか、実は……』
私はアルビンの説明を聞いて息を飲んだ。
『……ということだ』
「ふふふ、それ、陛下は知っているの?」
『いや? 陛下は全てを我々に任せるとのことだったからな。聖女が召喚されてこちらとしても驚いている。やはり条件を変えただけでは長年の召喚の魔法陣の記録があの部屋から消えないのだろうな……』
私は笑いながら言った。
「詳しいことはまたあらためて報告するけど……アルビン、あなたは天才だわ」
『ははは、賢者クレアにそんな風に言って貰えるとは光栄だな、今度私も時間を作ってそっちに行こう。魔伝はまた封じておけ。君との会話の内容は隠匿しているが、きっと魔法の流れで君と話をしたことはみんなに伝わる。また君の魔伝が復活したとなれば関係各所から鬼のようにかかってくるぞ。ではな』
「ええ、そうするわ。ありがとう、アルビン……また……」
そこで私は魔伝を切ると再び魔法封じの箱に入れた。
そして私は小さく息を吐いて、再び今度は階段で1階まで降りた。
1階に行くと、サクがとても楽しそうに調理道具を見ていた。
そして私を見てとても眩しい笑顔で言った。
「クレア、なぁ、冷凍庫作りたいだけど、この箱の中をもっと冷たく……というより、極寒にできる?」
私は小さく笑いながら答えた。
「やってみるわ。じゃあ、魔法陣を貼り付けなきゃ」
「おお、そうだった!!」
私はサクを再び見つめた。
今回に術式の召喚条件。それは――異世界の賢者。
私は異世界の賢者"サク"のおかげで、冷たい箱と、まるで氷の中にいるかのような極寒の箱の2種類の箱を作り上げたのだった。
「クレア!! これでかなり楽になる!! ありがとう」
「ふふ、作ったのはサクよ」
サクが嬉しそうに笑っているが、これがとんでもない物だとはきっと気づいていないのだろう。
「冷蔵庫と冷凍庫も出来たし、幸先いいな!! それじゃあ、これからご飯の用意するな。今日はとりあえず、かまどで……」
そしてサクは手際よく料理を始めた。
家の中の井戸はすでにロービのおかけで使えるようになっているようだった。
「楽しみだわ」
私は再びサクを解析したが、やはり称号に賢者とは記されていなかった。
今回、サクと一緒に召喚された女性には【聖女】の称号が記されていた。だから魔導士たちは皆、今回の自分たちの召喚は失敗だと思っている。
でも……
私はサクの解析結果を閉じた。
(少し足りないのかもしれないわ……)
もしかしたら、サクが賢者の称号を得るためには何かが足りないのかもしれない。
私はそれを探す手伝いをしようと心に決めたのだった。
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