第6話 一緒に食事を

 


 



 キレイになったテーブルの中央に大きなお皿を置いて買ってきたパンを並べた。


「サク、こっちも好きなの食べていいからね」


 サクが1つしか選ばなかったのを気にしていたのだ。もしかして、遠慮していたのかもしれない。それに私も久しぶりでなかなか選べなかったので全種類、8個のパンを購入した。


「気を遣ってくれてありがとな……じゃあ、遠慮なく」


「気は遣っていないわ」


 サクは私を見ると、楽しそうに笑った。


「もしかしてクレア。みんな美味しそうで選べなかったとか?」


「……その通りよ」


「ナイフとか包丁ある? 俺と半分とかもっと小さく切れば、いっぱい食べられるじゃん」


「……半分? その発想はなかったわ……サクって本当に凄いわ。包丁はないけど、果物ナイフはあるわ。ちょっと待ってね」


 私はナイフをサクに渡した。


「こっちには半分に分けるって文化はないのかな? ナイフ、サンキュ」


 そしてサクがパンを4分の1に切り分けてくれた。


(1つだとあまり食べられないけど、小さくすればたくさんの種類が食べられるのね)

 

「切れた。どうぞ」


「ありがとう」


 私は、色々な種類のパンを食べた。


「これ、美味しいわ」


「ん? どれ? 1つもらうな」


 私が美味しいと言ったパンをサクが口に入れた。


「なるほど。こんな味が好きなんだ。他にはどれが好き?」


「これかな? サク……私の好みを聞いて楽しい?」


 なぜそんなことを聞くのか不思議で尋ねると、サクが困ったように言った。


「あ、いや……クレアって普段食事どうしてるの?」


「食べられる食材を入れて煮込んだ物を食べているわ」


 サクが力なく言った。


「うん。まぁ、この部屋を様子を見た時にそんな感じなんだろうな、って思った。クレアさえよければ、俺が料理担当していい? むしろ家事とかしてもいい? 仕事するにしてもこっちの世界に慣れてからになるだろうし」


 私は驚いて口を開けた。


「え? そんなことを頼んでもいいの?」


 サクはうなずいた。


「うん、クレアも忙しそうだし、こっちの世界にゆっくりと慣れて行くためにも何かしたいからさ。だから料理を作るにしても、クレアが喜んでくれる方がいいだろ? だからクレアの好みが知りたい」


「ありがとう。それは嬉しいわ!! じゃあ、そういうことなら遠慮なく……このパンが好きだし、こっちのパンも好き」


 私が好きな味を伝えるとサクは「どれ? なるほど……」「これは不思議な味だな。店に行ってみないとわかんないな~」とサクもなんだか楽しそうだった。

 

「サクって以前は料理人だったって言っていたわよね?」


「うん。……数ヶ月前に店を畳んだんだけどさ……あ~~悪い。せっかく美味しいもの食べてるのに、今のなし!! とにかく料理だけじゃなくて、家事もそれなりに得意だからさ、任せてよ」


「……楽しみにしてるわ」


 お店を畳んだと言った時のサクの切なそうな顔に胸が痛くなった。サクの過去に何があったのかわからない。だからどんな言葉を伝えるのが彼のためになるのかもわからない。

 でもサクは前を向こうとしていることだけは痛いほどわかったので、私もそんなサクに過去を聞くことはしなかった。

 そして私たちは食事を終えた。多いと思ったが、二人で話をしながら食べるとパンは全てなくなってしまった。

 サクがふにゃりとした笑顔で言った。


「あ~~美味しかったぁ~~」


「食後のお茶を入れるわ」


 私が立ち上がると、サクも立ち上がった。


「あ、入れ方教えて。自分で入れれるようになりたい」


「ええ。ではこっちよ」


 私は部屋の隅のかまどの前に来た。


「私は火の魔法は使えないの。だから薪で沸かしているわ。ここに、この木片を入れてマッチで火をつけるの」


「やっぱりコンロはないのか……」


 サクの言葉に私は首を傾けた。


「コンロって何?」


「ん? そうだな~~大体鍋が3つくらい置ける大きさで、火や電気をつかって鍋を熱するんだよ。スイッチ1つで簡単に使えるし、火力を調節もレバーを動かせば簡単にできる」


「鍋を熱する?? なるほど……私は火の魔法は使えないから薪を使うしかないと思っていたけど……鍋って熱せればいいのか……」


 確かに薪を用意するのもそれなりに大変なので、鍋を熱くするという発想なら魔法でなんとかなりそうで楽かもしれない。


「ごめん、クレア。一旦忘れて。まずは魔力回復のためにもこれまで通りのやり方を教えて」


「え、ええ」


 サクは薪での調理を仕方を知りたがっていたので教えてたが、私の頭の中には先ほどサクの言った『コンロ』というものが頭から離れなかった。

 これまで『料理をするためには火ではなくてならない』という思いこみを吹き飛ばしてくれた。


(そうよ、何も火にこだわることはないわ……鍋を熱する、その目的が達成できればいいのよね)


「おお、なるほどな。こうするのか。火の調節はどうするの?」


 私はサクに声をかけられて、はっとした。


「あ、薪の量で調整してるわ。こんな風に」


「わかった」


 サクはすぐにかまどの使い方を覚えたが、私はどうしても『コンロ』が頭から離れなかった。


「クレア、お湯が沸いたけど……」


「ああ、この魔草茶を飲んでいるの。苦味もなくて爽やかだから飲めると思うわ」


「魔草茶?? へぇ~~」


 魔草茶をティーポットに入れて、お湯を注いでカップと一緒にテーブルに運んだ。

 蒸らしが終わり、お茶をカップに注ぐ。


「どうぞ」


「いただきます」


 サクは「おお~~レモングラスみたいだ。確かに飲みやすい」と言って美味しそうに飲んでくれた。私はほっとしてカップに口を付けた。

 なんだかいつもより美味しい気がする。


(あれ? 雑味が全くないわ……どうして??)


 考えてみたがわからない。もしかしたら、サクに説明している間にお湯が少し冷めたのがよかったのかもしれない。


(もしかしてこのお茶……熱湯じゃない方が美味しいのかな?)


 サクといるだけで新たな発見や気付きがあって本当に興味深い。

 私はお茶を置くとサクに尋ねた。


「ところで、サクの限定魔法って何?」


 サクがカップを置いて困ったように言った。


「あ~~それね、【付与魔法】と【解析魔法】だって」


 解析魔法はこの世界にもあるので、限定魔法というわけではない。もしかして、限定でない魔法もあるのかもしれない。私は異世界からの転移者の研究を専門にしているわけではないので、その辺りは詳しくわからない。


「解析魔法はいいとして……付与魔法?? 聞いたことがないわね……確か過去にもそんな魔法を持つ異世界の方はいなかったわ」


 サクが「ふっ」と遠くを見ながら言った。


「それね……みんな『意味がわからない』『きっとあまり使えない魔法』だってがっかりしてたよ。どうやって使うのかよくわからないしさ……」


「まだ使ったことはないのね?」


「うん。だって、使い方わからないし……」


 どうやら、私にサクを預けたのは保護だけではなく魔力の使い方から指導してほしいということかもしれない。私には皆には不可能な奥の手がある。


「サク、私がサクを解析してもいいかな?」


 サクはうなずいて「どうぞ、どうぞ好きにして下さい」と言ったので、私は遠慮なくサクを解析することにした。

【一条 朔太郎:人間】

体力:72

魔力量:158

魔法維持力:Eランク

魔法操作:Eランク

魔力回復速度:Sランク

能力:付与、解析改


私はサクに解析結果を見せた。


「ねぇ、サク。見て」


「あ……魔力量、マジで身長じゃないよね? ドキッとする……ん? お? 俺、Sランクがあるじゃん。魔力……回復速度?? あれ? アルビンに解析して貰った時、こんな項目あったかな?」


 サクが首を傾けていたが、私は能力のところを指差した。


「そこも凄いけど、そうじゃなくて、サク。あなたの能力って【解析】じゃなくて【解析改】じゃない!!」


 興奮気味にいうと、サクがポカンとして私を見た。


「え? 解析改?? それって解析とは違うの?」


「全然違うわ!!」


 私は立ち上がって本棚に向かった。


(え~~と、この辺りに魔法一覧が……あった!!)


 私は本を持ってくるとサクにそのページを見せた。


「ほらここ。【強化改】って書いてあるでしょう? この【強化改】は強化魔法の上位魔法で賢者の称号を得られるくらい強化魔法の練度を上げないと発現しないのよ!! 歴史上でもこの【強化改】を使ったのはドラゴンだけだと言われているわ」


「え? じゃあ、どうしてアルビンの解析結果には【解析】って出たのかな?」


「考えられるのは……この【強化改】を解析で見つけたのは歴史上でも最も大賢者に近いと言われた賢者パルクスなの。だから、解析の練度かもしれないわ」


 アルビンの魔法の練度は確かに高いが、彼の得意な魔法は雷と水だったはず。それに研究もそっちの方面に特化している。あまり解析の練度を上げているとは思えない。私はシンを助けるためにとにかく解析の練度を上げたので、見えたのだろう。


「大賢者?? 賢者の上があるってこと?」


「ええ。賢者は今ある魔法の練度を限界まで高めた者。そして大賢者は――今ある魔法を融合して新しい魔法を作った人が得ることができる称号よ」


 サクが首を傾けた。


「あれ? でもさ、さっきクレアは3つ位の魔法を合わせて瞬間移動しただろう? つまり大賢者ってこと?」


「いえ、あれはただ組み合わせただけ。それぞれの特性を生かしただけよ。融合したわけではないわ」


「融合か……つまり、青と黄色を使って絵を描く訳じゃなくて、青と黄色で緑を作って絵を描けってことか……ん~~難しいな」


 そうなのだ。例えば、雷と水の魔法を混ぜようとしてもそれぞれがすでに確立しているので、混じらない。雨の中を稲妻が走るのと同じだ。同時には存在できるが、混じらない。


「とにかく、サクは自分の魔法を使えるようにしたいわね。魔力の流れってわかる?」


「あ~~それな。アルビンにさ、魔力流すから感じろとか、魔力を可視化するからその流れを目を追えとか、水の上の棒を置いてそれを手を使わず動かせとかいろいろしたけど何も変わらなかった」


 どうやらアルビンはこの世界に現在伝わっている魔力の感じ方を全て試してくれたようだ。


(さすがアルビンね。でも、それでも魔法が使えなかったのか……)


 私はサクを見ながら言った。


「シンに会いに行く? シンならきっとサクが魔法を使えるようにしてくれるわ」


「おお~~行く。元々あいさつしたいと思っていたし」


 サクはシンに会ってくれるようだ。

 私はサクをじっと見つめて言った。


「サク。シンはサクを絶対に傷つけない。それだけは……信じて」


 サクは笑いながら言った。


「ああ。クレアの友達なんだろう?」


「ええ。それじゃあ、行きましょう。案内するわ」


 私はほっと胸を撫でおろした。でも……


(あの方法は驚くだろうな……)


 私は少し不安に思いながらもシンの元に向かったのだった。



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