神なんて大嫌いだ ~三十路男、異世界でまったりしたい~
@hg_nt
第1話「俺は、もう神なんて信じない」
――ガン、ガン、ガン。
遠くで何かが砕ける音がする。夢の中でさえ、俺の朝は騒がしい。
目を開けた。
枕元に転がるのは、戦地で拾ったナイフ。壁には染みついた焦げ臭さ。
いつも通り、今日も“生きて”しまった。
「……また神様、今日も俺のこと無視かよ」
皮肉の一つも言いたくなる。
5歳から毎日祈ってきたこの俺の願いは、三十路になっても一度たりとも届かない。
安全? 平和? それが欲しいなら、神様にお願いしても無駄だった。
――だけど今日だけは、ほんの少し、期待していた。
心も体も、もうガタガタ。傭兵生活のツケがたっぷり溜まったこの身で、
今日こそ「やっと終われる」と願いながら出撃したのに――
「……マジか、ここで生き残るのか俺……」
銃声、爆音、煙。
次の瞬間、どこかでドカンと音がして、ふっと意識が途切れた。
目を覚ますと、目の前に――
「……は?」
涙目の美女(自称・女神)がいた。
「お疲れさま……本当に、本当にごめんなさい……!」
なんか、えらく申し訳なさそうな顔をしている。
とりあえず、俺は言った。
「……やっと死ねたのか、俺は。」
その瞬間、長年の肩こりが全部抜けるような安堵を感じた。
だけど次の瞬間――
「では、あなたには第二の人生を――」
「やめろォォォォ!!」
叫んだ声は、女神の手のひらで優しく吸収されて、
俺はそのまま、どこか遠い場所へ――投げ込まれた。
目を開けると、そこは森の中。
ログインボーナスも、チート能力も、説明も――
「……何も、ねぇ。」
おまけに、視界の端に出てる謎ステータス。
【信仰値:-99999】
……何だ、これ。
「……何も、ねぇ。」
ガサガサ、と風が草を揺らす音だけが響く。
いや、ちょっと待て。普通こういうのって、チュートリアルとか、スキル授与とか、あるだろ?
――なんか、説明あってもよくない?
女神、絶対忘れてる。いや絶対ミスってる。
とりあえず状況確認。
服装は……あれ、こっちでも軍服。さすがに武器は――
「……ナイフだけ?」
しかも、使い慣れた愛用のやつだ。ちょっと涙出そう。
とりあえず、今の自分のスペックを確かめる。
意識を集中すると、視界に勝手にステータスが表示された。
【名前】無し(30歳)
【職業】無し(無職って書かれてるの傷つくわ……)
【筋力】常人の8倍
【敏捷】常人の8倍
【精神力】常人の……残りカス
【信仰値】-99999(※殺意)
【スキル】
・神殺し(神性を持つ存在に超絶強化+反射+無効)
・戦闘本能
・サバイバルマスター
・チート(※女神のうっかりにより未取得。)
「チート未取得って何だよ……」
目頭が熱くなる三十路。
せめてまったりスローライフさせてくれよ。
――そんなことを考えていると、森の奥から、ガサリと気配。
「……人?」
いや、違う。動物……いや、デカい。
熊、いや違う……まさか、いきなりモンスター?
現れたのは、でっぷりとした体に角の生えた、
ファンタジー世界感丸出しの「猪(ボア)」だった。
どう見ても、強そう。
――だが。
「……すまん、俺、今日そういうテンションじゃないんだよ。」
猪が突っ込んでくる。反射的にナイフを抜く。
動きが、遅い――いや、こっちが速すぎるのか。
一撃。
あっさりと、猪は沈黙した。
「Oh...」
いきなり“現役傭兵の手腕”を見せつけてしまい、森の空気が静まり返る。
とりあえず、腹が減っていたので、
その場で猪を捌いて焚き火を起こす。
――まったりスローライフ(仮)、第一歩。
遠くから、村人らしき人影がこちらを見ている。
警戒、というよりはドン引き。
まあ、異世界初日だし、こんなもんか。
「……はぁ。
神なんて、やっぱり大嫌いだ。」
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