track.2 手水
//SE 少し強い雨の音
//SE 手を引くような、微かな衣擦れ
「ありがとう。坊や。」(すぐ近くで)
「どこから紹介しようかしら、そうね…」(境内の様子を眺める)
//SE 水が湧き、流れる音
「じゃあ、この建物からにしましょうか。」(振り返って)
「ねえ坊や。この建物、なんて言うか知ってる?」
「この建物はね、手水舎っていうの。」
「面白い音でしょう?ちょーずや。言ってごらん?」
「うふふ、そうそう。ちょーずや。ちょーずや。」(楽しそうに)
「そこ……、そうそう。君の足元に、お水が湧き出てるところがあるでしょ?」
「手水舎のこのお水、実はすごく大事でね。訪れる人々の穢れを洗い流し、心を清める。そんな力が宿っているのよ。何百年も変わらず、皆を見守り続けているの。」
「ここのお水を柄杓ですくって、こうやって手を清めたり……。」
//SE 水をかき混ぜるような音
「飲んだりしてお清めをしたりするの。」
//SE 水を飲む音
「ほら、飲んでごらん?冷たくて美味しいでしょう?」
//SE 水滴が落ちるような、微かな音
「このお水、何年も、何十年も、何百年も前からここで湧き続けているの。」
「お水が無くなってしまわないか?」
「ふふっ。心配御無用。」
「このお水はね、この手水舎、この神社がある限り、こんこんと、永遠に湧き続けるのよ。」
//SE 水が流れるような音
「でも実はね、この手水舎は、昔……300年前だったかしら?1度だけ失われかけ、姿を変えたことがあるのよ。」
「ん?なんでそんなことを知っているのかって?」(ゆっくりと、不思議そうに)
(少し考えるようにして)
「ふふっ。内緒よ。」(耳元で、いたずらっぽく)
//SE 少しずつ再び強まる雨音
「この雨の音も、ずっと昔から変わらないわね。屋根を叩く優しい響きが、どこか懐かしい子守唄のよう。」
//SE 遠方で微かな雷鳴
「あの時は……そうね。嵐が激しい真夏の夜だったわ。」(思い出すように、ぽつりぽつりとやや小さめの声量で)
「この神社の麓には、昔から小さな村が広がってたんだけどね。」
「その時は、酷い風雨のせいで、村の家も、この手水舎も壊れちゃって。」
「嵐が過ぎ去った後、それはもう酷い有様だったわ。田畑は荒れ果てて、家は屋根を飛ばされて……。村の人達も自分の家を直すので手一杯だったの。神様を信じていた人も、その中でも特別、熱心に通ってくれていた人も。もちろん、大嵐だったからね。自分達の生活を優先するのは当たり前の事よ。」
「でもね。」(向き直る)
「そんな中、たった一人、自分の家よりも先に、この手水舎を直そうと決めた男の人がいたの。その嵐で荒れた境内で、昼も夜も毎日、ただひたすらにこの手水舎の修理に取り掛かってくれていた。」(思い出すように、普通の声量で)
「その姿を見て、私は胸を打たれたわ。この人の一生を守ろうって……そう思ったの。」
「この男の人はね。何年も米や野菜の不作に悩まされていて、貧しくて、日々のご飯にも困るほどだったの。」
「村の誰もが自分のことで精一杯で、時には、互いを羨んだり、小さな諍いを起こしたりすることもあった。皆が、明日が見えない不安と戦っていたわ。」
「そんな中で、彼は誰にも言われることなく、ただ黙々と、壊れた手水舎の石を拾い集め、泥を運び、崩れた場所を修復し続けたの。混乱の間に盗みを働くでもなく、腐る訳でもなく。たったひとりで何日も続けてくれたのよ。」
(少し間を開けて)
「ほら、坊や。柱のここ、なぞってごらん。」(微笑みかけるように)
//SE 木の表面をなぞるような、微かな摩擦音
「線が重なって、文字みたいに窪んでるでしょう?時間が経って大分薄くなっちゃってるけど……。」
「これがその人の、私が忘れることが出来ない名前なの。」(少し懐かしそうに)
「ほら、手を貸して?」
//SE 線に沿って一緒になぞる、長めの微かな摩擦音
「ね?坊やが知ってる名前だったかしら?」
「信じられないって?ふふっ。でもね。」
//SE 2歩程度の小さな足音
(数歩離れて、背を向ける)
「これも現実なの。今はもう会えなくても、確実に。」(背を向けたまま、静かに)
「あの瞬間、彼は存在したのよ。」(小さめながらも力のある声で)
//SE やや強い雨音
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