第4話「沈むはずの者たち」

「兄貴、ちょっと……気になる動きがありまして」


凛一の前に立ったのは、城戸組若手の幹部・小宮だった。

肩で風を切るような威勢のいい男で、龍司の子分の中でも特に目立つ存在だった。


「“黒陽クリーンサービス”の件ですが……一部の組員の間で、不満が出てます。

“何であんな素性の知れない奴が組の金握ってんだ”って」


凛一は表情を変えず、資料から目を離さなかった。


「つまり、俺に嫉妬してるということか」


「……まぁ、端的に言えばそうッス」


「なら、仕事を与えてやれ。

不満を言うしか能のない“沈むべき者”をあぶり出すためにもな」



---


凛一は組員数名を、黒陽クリーンサービスの「名目上の現場管理者」に任命した。

だが実態は“監視対象”。全員の通信履歴・口座情報・GPSを裏でモニタリングさせた。


すると3日後、一人の男が“裏で動いている”ことが明らかになる。

西田。経理係の古株で、かつて龍司の兄貴分に仕えていた男だった。


「西田は、“金”に触れる立場にあることを利用して、小遣い稼ぎしてたようですね」

カチャ、とキーボードを叩きながら報告するのは――

凛一がスカウトしたハッカー・蘭堂カレンだった。


ピンクのメッシュにネオン色のネイル、だがその指は国家レベルの情報網をかいくぐる。


「裏で敵対組の梶山連合と連絡取り合ってたっぽい。“新しい奴が上に立ってる今なら崩せる”って」


「なら、“沈めて”もらうしかないな」



---


夜、廃倉庫。


鉄骨に手錠で吊るされた西田の前に、龍司と凛一が並ぶ。


「……オレはな、龍司。アンタには期待してたんだよ。だって親分がいなくなって、次はアンタの時代かって――」


「じゃあ、何で裏切った?」


「裏切りじゃねぇ。――生き残るためだよ!」


バンッ!


龍司の拳が西田の頬を打った。


「……俺たちは“沈んでいく”ために組にいたんじゃねぇ。“這い上がる”ためにいたんだ。

それを途中で降りた奴に、もう口出しする資格はねぇんだよ」


合図は、わずかな手の動きだった。

カレンが即座に応じ、タブレットをタップする。


その瞬間、西田の金は“命の証明”ごと吸い上げられ、闇へと沈んだ。


「カネも命も、ただの“通貨”だ」

凛一の声は静かだった。

「価値がなくなれば、捨てられる」


ゆっくりと背を向ける。


「出て行け。……お前にこの街で残されたものは、もう何もない」




---


その帰り道、龍司がぽつりとつぶやいた。


「お前さ、前はもっと冷たくなかった気がするんだがな」


「俺は今、“組織”を動かしている。感情で沈むわけにはいかない」



二人の歩幅が、静かにずれていく。



---


そしてその頃――


どこかのビルの屋上で、黒いドレスを纏った女がひとり、東京の街を見下ろしていた。


「白神凛一……あなたが動き出したのね」


女の名は――月影 椿(つきかげ・つばき)

裏社会のブローカー、警察・政治家・ヤクザを自在に操る、誰も本心を知らぬ“取引屋”。


「さて……どのタイミングで、仕掛けてあげようかしら」


夜の風に、冷たい笑みが溶けていった――。



―――――――――

次回予告


> 第5話「黒幕の条件」


金、情報、人脈――すべてが動き始めた。

凛一が狙うのは、“動かない大物”。


そして動き出す謎の女・月影椿。

欲望と知略が交差する中、裏社会の地図が塗り替えられる。


誰が表で、誰が裏か。

真の“黒幕”の条件とは何か――。


―――――――

補足:蘭堂 カレン(らんどう・かれん)設定まとめ


元・闇医療ハッカー/現在は凛一の“頭脳補佐”

冷静無比なロジシストであり、“感情”より“合理”を優先する女。

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【知性 × 静寂】


・元・医療AI開発の天才。だが研究データを巡って組織に裏切られ、闇医療に転落。

・凛一と出会い、「腐った体制を知的に破壊する」という理想に共鳴。

・現在は情報分析・資産洗浄・諜報・セキュリティ対策など、ほぼ全領域を一人で処理。


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【キャラクターの特徴】


・表情変化がほとんどない。口数も少なめ。

・嫌味や毒舌はあるが、根は忠誠心が強い。

・無機質な一言が逆にインパクトを持つタイプ。


---------

作者より

椿の設定は椿メインの場面になってからです。

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