第十五楽章
水月と約3カ月暮らした小屋に着いた。早速練習を始めているのか、中からは笛の音色が聞こえる。
「渚沙さん、もう入っても大丈夫ですか?」
「うん。さ、早く入ろ」
小屋の引き戸を引く。夕焼けが小屋の中へと差し込む。
「東風?!ミア、東風帰ってきた‼」
「嘘だろ?!早すぎだろ!」
「早く帰ってくるって言ったでしょ?」
まさか、水の民の集落が今日襲撃されたなんて。これは水月に言った方が良いのだろうか?
「無事でよかった…それで、雫姉さんは?」
「えぇ——っと……」
「死にました。集落が攻められて…」
いつの間にか僕の隣に渚沙さんが立っていた。目の下と鼻が赤かった。頬には涙の跡がまだ残っていた。
「渚沙…?」
「水月姉様、お久しぶりです。早速ですが、私もあなた達の計画に参加させてください」
「東風、説明頼む。俺よく分かんねぇ」
いつの間にか端で笛の練習をしていたミアまでこちらへと来ていた。…僕が全部説明する羽目になったことは、想像できただろう。渚沙さんにも、ろくな説明をしていなかったから大変だった。
「雫姉様以外にも助けたい人が居たんですか…?」
「雫姉さんが……?集落が攻められた…」
「あぁもうわっかんねぇ‼どういうことだ?」
僕もそんなに一気に言われちゃぁわっかんねぇ‼外はもう暗くなっているのか、引き戸から差し込む夕日はいつの間にか消えていた。
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「雫姉さんの代わりに、渚沙が協力してくれるの?」
「はい」
やっと説明も終わりに近づいてきた。ロウソクの灯が揺れると同時に、耳元で水月に囁かれる。
「東風、ちょっと来て」
そう言い残し、外へと出て行った。え、もしかして怒った?でもなんで?
「ミア、僕ちょっと外の空気吸いに行ってくる」
「外行かなくとも窓開ければいいだろ」
「さ、寒くなるじゃん?」
「今夏だぞ…?」
夏と言っても、まだ初夏だ。ギリギリ肌寒いはず。ミアの反対を押し切って僕は引き戸を引き、暗闇へと同化していった。
「水月…居ますか?」
「今ロウソク点けるね」
マッチが擦れる音がしたと思えば、橙色の鮮やかな炎が暗闇を消した。すぐに炎はマッチからロウソクへと移住した。
「東風、本当に…渚沙は信用できるの?」
「へ?」
渚沙が信用できるか?
「信用できるも何も、信用しないと薫風さんは助けられませんよ?」
「そうかもね。でも、渚沙とは元々敵対していた。それに、雫まで助けることなんて出来ない…」
薫風、青嵐、雫…三人も助けることなんて出来ない。…本当に?さっきの状況説明の時に、風と水を一体化させれば可能性もあるという部分も話したはずだ。
「だから、風と水を…」
「本当にそんなこと出来るの?」
…引っ込み思案はやめてほしい。やってみなくては分からない。
「やってみなくちゃ分からないですよ!」
「初心者のミア、子供の東風、可もなく不可もない渚沙。そして……」
子供の東風。そうか、僕はたとえ集落に潜入するという大役を背負っても子供なのか。だとしたら、水月は何なのだろう?
「そして、気持ちを演奏に込められない私……」
「……だとしても!練習を積めばきっと…‼」
水月は頭を横に振った。夜の涼しくて、どこか寂しい風が背中をすり抜ける。
「御神子以上の能力を、本当に付けられるの…?」
「でも……可能性がある以上、僕はそれに賭けてみたい」
諦めも大切だ。でも、自分が本当にしたいことを諦めるのは嫌だ。
「……可能性がある、か。でも、渚沙はどうなの?渚沙が裏切る可能性だってある」
「でも、裏切らずに最後まで手伝ってくれる可能性だってある。信頼関係を築けばきっと、上手くいく」
半分以上は自分に言い聞かせるつもりで言った。水月だって、本当はそうなって欲しいはずだ。
「本当にそう思う?」
疑問と、期待が込められた声だった。
「うん」
「本当に、これで人数が揃ったって、喜んでも良い?」
山間部から見える村の灯りを見ながら、僕は答えた。
「はい!」
「……分かった。今は東風を信じてみる」
村の灯りは、夜空に反射しているようだった。澄んだ空気のように、水月の心も少しはスッキリしていれば良いな。
「今私たちは、やっと始まりに着いたのかな?」
「もしかしたら終わりの方かもしれませんよ?」
終わりの始まり、間を取ってそれにしよう。僕らは今、やっと一つ目の大きい試練を完了した。意外と呆気なかったような、長かったような…。
「この景色を、今度はゆっくり薫風と見たい」
「…そうですか」
水月も薫風さんの話が出来る程に、やっと元気が出てきたところだ。これも、築き上げた関係ってヤツなのかな。それとも、薫風さんを助ける目途が付いたから?
「さ、早く小屋に戻ろ。これからは笛の練習が続くよ」
「それですが、一体何カ月練習すれば良いんでしょうか?」
やっぱり1年くらいかかるのかな?だとしたら猛練習して、一日でも早く上達しないと。
「ざっと…3、4年ぶっとうしでやれば御神子位まで上達する。でもぶっとうしは無理だから…5年位かな?」
ふむふむ5年……か?は?ゴネン?僕、15歳になっちゃうじゃん。下手すりゃぁ兄や薫風さんと同じ年になる…ってこと?
「頑張ろうね‼」
そう言って、水月は小屋へと戻って行った。一方で僕はしばらく夜の風に吹かれながら、沸騰した頭を冷やしていた。
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