不二田が見せた「怒」
その日の帰り道のこと。僕と不二田は学校から最寄り駅までの道を、通常速度0.8倍速ぐらいのスピードでゆっくり前進していた。ふと不二田を見ると片耳だけにワイヤレスイヤホンを装着している。そういえばこの人はこれが標準装備だったような…。
彼が何故いつも片耳だけにイヤホンをしているのか改めて気にはなったものの、いかんせん僕は朝からの不機嫌ムーブを夕方まで継続して過ごしていた。なので、急にフランクな質問をする事が色々と恥ずかしくて出来そうもない。結果、僕はいつもと違う思考回路と手段で、不二田とコミュニケーションを取る事とした。
それが「たまには相方からイタズラでも仕掛けてやるか!」大作戦だ。ということで、いつもは決してする事のない(出来ない)奇襲攻撃を思いつき、瞬時に不二田の耳元へ自らの利き手を近づける。ある意味で「朝から継続していた不機嫌モード」の謝罪と、1日をほぼ会話なく過ごしていた寂しさの反動が、パラドックス的感情を生んだ結果だったのかもしれない。
「なぁに、きいてんの?!」
片耳からイヤホンを外して、我ながらお茶目に不二田の顔を覗き込んだ。すると明らかに不機嫌な人の両眉毛と眉間に寄るシワ、そして彼の口からこれまで聞いたことないぐらい低い音域の「ハァ?」という声に加えて、コチラを見下す様ないわゆる「ジト目」による目線での威圧。
不二田が初めて僕に敵意を剥き出しにした瞬間だ。その迫力に僕は多大な恐怖を感じて固まり、呼吸をする事すら忘れてしまうぐらい。例えるなら、蛇睨みをされた蛙の如く。
「音域が低めの曲」
先程の表情のまま言われた回答に対して、僕が返した精一杯の言葉は「そっか」であった。お互いが怒りの感情を持っている状態のことを「対立」「喧嘩」というのであれば、この時の2人はそれに近い状態だったのかもしれない。少しタイミングがズレてはいたけれど。
僕が指先で摘んだ不二田のワイヤレスイヤホンは気付けば「定位置」に舞い戻り、気付けば彼自身が僕の前から居なくなっていた。
「そ、そんなに怒る事…だったのかな…」
恐らく何かしらのコンプレックスに触れたか、地雷を踏んでしまったかのどちらかだろう。ただこの時から不二田に対して、此処まで感じたことのない割と負の「はてな」が、僕の脳内に新しく鎮座し始めることになる。
「ちょっと怖いとこあるな…色々気をつけよう」と我が身を引き締めると同時に、このまま「最期」に突入していくことへの不安と焦りが、僕の血潮の流れの速さを一気に加速させていった。
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