鮮明な

ピンポーン

ピンポーン


「タイトです」

「おー!よく来たな、待っててくれ」


カメラのないタイプのインターホンを押すと、ユウジが応答して出迎えてくれた。ケイはまだ寝ているらしい。中から扉が空き、ユウジと対面する。


家に入ろうとした…その時だ。僕の脳裏に良からぬ光景がフラッシュのごとく思い浮かぶ。喜ばしいことではないが、実は事前にユウジから「良くない未来」について、少しだけ頭の片隅に入れておくように言われていた。少しでも思考を寄せていく事でイメージと未来が反応して「脳内再生」されるからと。


窓の外にはスナイパー。僕の事を狙って発砲するもユウジが庇ってくれて難を逃れる。が、ユウジは撃たれて卒倒し床は血の海。ケイを観に行くも深い眠りによって目を覚まさない…というより、どうやら薬か何かで眠らされている感じで、不可解な態勢の「爆睡」をかましており、叩けど叩けど全く意識が戻らない。


ユウジも同じくして「悲惨な情景」が脳内再生されているようだ。僕はいきなりの実戦で残酷すぎる未来予想図。一方いくらベテランと言っても、そもそも彼は自分が撃たれて死ぬ未来を見て、この後平然を保てるのだろうか。


それはそれとして今は、二人共に中腰に近い態勢を取りながら、一旦の落ち着きを呼び込んでいる。声は出さないほうが賢明だろう。10M科に限った事ではないが、こうなった時に最も優先されるべきは勿論「人命」であり、この場合の被対象者は他でもない、笹島タイトと笹島ユウジである。


人命保護の次に容疑者の確保だ。向こうはトドメを「飛び道具」でかましてくる事は既に確定しているといって良く、今回の場合はスナイパーが潜む場所まで「的中」させなければならないのだが…。


この様なシチュエーションが突然訪れるかもしれないという想定のもと、僕とユウジは日々訓練をしてきた。その成果を見せる時がいきなり到来してしまったのは、ある意味不運ともいえる。



笹島の血が脳内でイメージできる「予知映像の鮮明さ」には差…いや、限界がある。例えば1回も訪れたことのない駅で、友人と待ち合わせて合流する場面を想像してほしい。地図を見て、改札の場所を確認して…と、常に不確定な(仮)映像を脳内再生しつつ、行動をとるのではないだろうか。


それが1回、待ち合わせを経験している場所だったとしたらどうか。電車を降りてからの大体の動線は先ほどよりも「ハッキリ」と思い浮かぶ。それが人によっては「曖昧な記憶」だとしても、それさえ頼りにすれば行けないことも無さそう!となる人だって、少なくはない筈だ。


大切なのは、対象となる現場付近にある建物の「場所」や「構造」の認識レベルをあげる事。もっともっと細かく言えば「信号の色が変わる秒数」等も理解していればいるほど、笹島の人間が脳内で再生可能な「予知映像」の精度は上がり、いわゆる「限界突破」が可能なのである。


ユウジはココに何年も住んでおり、自宅の周りの建物の構造等には詳しい。つまり彼の脳内イメージは僕のそれよりも、何倍も鮮明でリアルに近いものである、という事。我々は割と「アナログ」なのだ。


恐る恐る「父」の顔を覗き込んだ。彼の顔色はいつもと変わらない、少しばかりの「刹那色」をしていた。

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