《第十章》わたしの、本当の気持ち
五月十日。金曜日の放課後。
わたしは音楽準備室で、一人でシンバルをたたく練習をしていた。
日高くんは学級委員の仕事でちょっと遅れてくる予定。
「う~ん、シンバル、上手く鳴らせないなぁ。もう一度たたき方をおさらいしよう」
シンバルの持ち手は根元のほうを持って、シンバルをきちんと支える。
それから床と垂直になるようにシンバルを構える。
「そしたら擦り合わせるように打ち鳴らすっ」
よっ! とシンバルを開いたわたしは、思いきり打ち鳴らした。
ジャーン!
と大きな音が出る。
「わっ! キレイに鳴ったっ」
わたしは、ためしにもう一回打ち鳴らしてみた。
ジャーーン!!
と広がりのある音が出た。
「わぁ、すごいっ。日高くんがつきっきりで教えてくれたおかげだ! これなら課題曲の練習に入れるかもっ」
わたしはスタンドの上にシンバルを置くと、棚の中にしまっていた楽譜を取り出し、譜面台の上に乗せた。
「ああ……ようやく曲の練習ができるんだ」
じーんとした思いが胸に広がっていく。
その時だった。
「陽斗ーっ、いる~っ?」
と扉のほうから声がかかって、わたしはびくっとしてふり返った。
扉の前に立っていた西野さんと、ぱちっと目が合う。
「あれっ? 小夜さんだけなんだ」
拍子ぬけした様子で、西野さんが言った。
「あ、うんっ。日高くん、今日は学級委員の仕事があって、まだきてないの」
クラスが違う西野さんに、わたしは説明した。
「そうなんだ。……でも、ちょうどよかったかも」
「へっ?」
つかつかと足音を立てて、西野さんがわたしの元まで歩いてきた。
西野さんのほうが、わたしより背が高い。
「あたし、小夜さんに言いたいことがあったんだよね」
「言いたいこと?」
わたしが首をかしげると、西野さんがすうっと目を細めた。
「小夜さんさ、陽斗の練習時間をうばってるっていう自覚、ある?」
「えっ?」
ばしゃっ!! と冷たい水をかけられたような感覚。
わたしが言葉を失っていると、西野さんが腕を組んだ。
「陽斗が小夜さんに優しいのは、打楽器パートをよくするためだけどさ。その優しさに甘えすぎてない? つきっきりで教えてもらうなんてさ。陽斗から、自分が勧誘したって聞いたけど、それにしたって甘えすぎでしょ」
「そ、それは……」
(……確かに、日高くんに甘えすぎてたかもしれない……)
だけど、上手く言葉に出せなくて無言でいると、西野さんがため息をついた。
「陽斗はあたしにとって、大事な音楽仲間なの。だからだまってられなかった。早く一人前になって、陽斗を解放してあげてよね」
と言うと、西野さんはわたしの返事を待たずに音楽準備室から出ていった。
わたしは……体が冷たくなっていくのを感じた。
心臓がドキドキと痛いくらいに鳴っている。
(そうだよね。日高くんが優しいのは、わたしが打楽器パートだから。なのにどうして、胸が痛くなってるんだろう……。わたし、いつの間にか日高くんのこと、好きになって……って、そんなのダメッ!)
わたしはぶんぶんと頭を横にふった。
(もし、失恋したら……死んじゃうんだよ!)
想像したらこわくなってきて、わたしはぎゅっと目をつぶった。
息を吸って、はいて、呼吸を整えていく。
胸のドキドキがおさまってきたところで、そっと目を開いた。
「……とりあえず、課題曲の練習……しよう」
さっきまでのやる気は、どこかへ吹き飛んでいたけれど……。
わたしは譜面台の上に乗せていた楽譜をぺらりとめくった。
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