第17話 ハッタリと支部長と
一夜明けて俺は上野のギルド支部へと向かう電車の中にいた。 昨日の友人たちとの再会で俺の中で燻っていた炎は、明確な目標へと変わっていた。
やるべきことは決まった。そのためにはまず圧倒的な力と実績が必要だ。
今の俺の公式ランクは、ギルドの最底辺である「F」。普通に考えればCランクダンジョンのボス攻略なんて、門前払いされるのがオチだ。
(けど、正攻法でやってる時間がもったいないからズルさせてもらう)
コツコツランクを上げてクランを作るのも楽しそうだが、明確な敵がいる以上は悠長なことも言っていられない。
俺の脳裏にギルド上野支部のトップ、山崎支部長の胡散臭いが鋭い眼光が浮かぶ。あの人は俺をただの探索者じゃなく、未知の価値を持つサンプルとして見ていた。
その好奇心、利用させてもらおうか。
上野のギルドに着くと迷わず受付カウンターへ向かう。
「Fランクの青江和希です。山崎支部長に取り次いでいただきたい」
ギルドカードを提示する。職員の訝しげな視線が、俺の名前を端末で照会した途端、目を大きく見開いた。
どうやら俺はギルドにとって要注意人物リストに名を連ねているらしい。
すぐに内線が繋がり、俺は前回とは違う意味で再び最上階の支部長室へと通された。
「青江君。また君かね。今度は一体何の用だ?」
広大なオフィスにふんぞり返る山崎支部長は、面白いおもちゃを見つけた子供のような目で俺に問いかける。その全てを見透かすような視線に俺は臆することなく言い放つ。
「単刀直入にお伺いします。その前に一つ確認させていただきたい。先日の上野ダンジョンでの一件、もちろんご存知ですよね?」
「……何の件かな? 日々、ダンジョンでは数多の戦闘が記録されている。君がどの件を指しているのか、もう少し詳しく話してもらわんと」
とぼけるつもりか。上等だ。
「Aランク探索者である俺の妹、菜月が上野ダンジョンの比較的浅い階層で、複数の罠とモンスターの大群によって殺されかけた一件です。ギルドの管理体制はどうなっているのですか? あれは単なる事故では済まされない。そうは思いませんか?」
「……ダンジョン管理庁とギルドの調査員からは偶発的なモンスターの異常発生と、第三者による違法な魔道具使用の可能性という報告が上がっている。我々も調査中だよ」
「調査ですか。妹は死んでいたかもしれません。……俺が助けなければ」
部屋の空気がピリッと張り詰める。山崎支部長の口元から笑みが消え、値踏みするような鋭い視線が俺を射抜いた。
「……ほう。君が? 面白いことを言う。君の公式ランクはFのはずだが」
「ランクなどただの記号でしょう。それに俺のクラスと魔力を知っているはず。重要なのは事実です」
俺がそう言うと、支部長はわざとらしく肩をすくめてみせた。
「事実ね。そういえば君、ネットで少し有名になっているそうじゃないか。菜月君の配信に現れた謎の助っ人『影法師』。その正体が20年前に失踪した君自身であり、菜月君の実の兄ではないかと、お祭り騒ぎになっていたようだ。おかげでこっちは火消しに追われて大変だったんだがね?」
もしかして悪目立ちしちゃったか? とはいえやむを得なかったしな。
「ギルドとしては、君のような特殊な存在のプライバシーを守る義務があるからね。君に関する一切の取材、及び憶測を含む報道を禁止するよう、全メディアに通達を出しておいた。……礼の一つでも欲しいものだね」
ギルドってかテラジェネクスにとって困るからだろと言ってやりたいが。
「それはご配慮、痛み入ります。ですが菜月があんな危険な目に遭わなければ、俺がしゃしゃり出る必要もなかった」
「……ふん」
支部長は面白くなさそうに鼻を鳴らした。俺は畳み掛ける。
「これは脅しじゃありません。取引のご提案です」
「取引だと?」
「ええ。支部長、あなたも本当は分かっているはずだ。菜月を狙ったのがどこの人間なのか。そしてあなたがダンジョン管理庁の圧力で、その件を大っぴらに追及できない立場にあることも」
山崎支部長は何も答えないがその沈黙は雄弁な肯定だった。恐らくこの人も内心では面白く思っていないはず。
「Cランクダンジョン、川越へのボス討伐許可をいただきたい。ビジネスパートナーからの依頼で、どうしてもそこのボス素材が必要になりました」
俺の言葉を聞き終えると、それまでの険しい表情を崩してふっと息を吐いた。
「川越か。私も丁度、あのダンジョンに頭を悩ませていたところだ。Cランクでありながら内部構造が少し特殊でな。ダンジョン自体の人気がない。そろそろ一度、ボスを討伐する必要があった。君のような特殊な男にはうってつけか」
その目は俺という存在に純粋な興味と期待を向けていた。
「よかろう。許可する。君は私に何を返してくれる?」
値踏みするような視線。俺は不遜に笑って見せる。
「ギルドや管理庁を巻き込むつもりはありません。それどころか……いずれ、あなたも忸怩たる思いで眺めているであろう、ダンジョン管理庁とテラ・ジェネクスに風穴を開けて、風通しを良くしてやりますよ」
俺の途方もない大口に山崎支部長は一瞬きょとんとした顔をする。こんな顔もするんだな。すぐに心の底から愉快そうに腹を抱えて笑い出した。
「はっ、ははは! 面白い! 実に面白い! 気に入ったぞ、青江君! 君は最高の男だ!」
一頻り笑った後で彼は涙を拭いながら、真剣な眼差しで俺を見た。
「よろしい。その言葉を信じよう。君への先行投資だ。今後、君の活動には可能な限り便宜を図る。ある程度は個人的な協力も。その代わり私から個人的に依頼をすることがあるかもしれない。その時は他の何よりも優先して受けてもらう。それでいいな?」
「ええ、望むところです」
俺は即答した。対等な協力者。これ以上ない最高の条件だ。
「うむ」
山崎支部長は満足げに頷くと、デスクの引き出しから一枚の名刺を取り出して俺に差し出した。
「私の直通だ。何かあればいつでも連絡してこい」
受け取った名刺には、彼の名前と一本の電話番号だけが記されていた。
こうして俺はギルド支部長という強力な後ろ盾を得て、次なる舞台への扉をこじ開けた。
西武新宿線の本川越駅。蔵造りの町並みが続く通りは観光客で賑わっていた。
俺は慣れた手つきでスマホを操作して目的地を確認する。スマホをもはや手足のように使いこなしていると言っても過言ではない。
ここに来る前までに、スマホに送られたダンジョンの簡単な資料に目を通している。
どうやらかなり薄暗い、探索者に人気がないタイプのダンジョンのようだった。
やがて「時の鐘」と名付けられたダンジョンの入り口が姿を現す。そのそばに設置された読み取り機器に俺はギルドカードをかざした。
入り口は黒い渦のようになっている。俺はダンジョンへと入っていく。
◇◇◇◇◇◇
side??
「――帰って来れたのね、青江くん。……待ちきれないから、今から会いに行くわ」
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