帰ってきたピノキオ〜星に願いを〜

大切な物を失って

『あなたは大切な物がありますか⁇』

心が落ち着く、そばに置いておきたい“物”…

ついに俺は、全てを失ってしまった…

独身だし、両親は最後の母が亡くなってしまったところだ。

実家はもぬけの殻。俺は代わりに住むことにした。持ち家だから家賃も発生しないし、俺だけだしとても広い。

こういう時って急だから、悲しみも感情もすぐ出てこないんだよな。でもふと思い出した。

「あいつが今もそばにいてくれたら…」

小さい頃からずっと一緒で寝る時も遊ぶ時も出かける時も旅行の時も…

なんのぬいぐるみだったか⁇結構ボロボロになってたっけ？

実家を出るまではずっといた。だから高校生か大学あたりまではいた。確かにいたように思う。後半は恥ずかしいから部屋に置いて親の前では可愛がってはいなかった。そのせいである…

実家を出てから、久々に帰ると居なくなっていた。すごく悲しかった。多分母がもう大人だからと捨ててしまったんだと思う。

ずっと“彼”は俺が悲しい時も悔しい時も嬉しい時も楽しい時も側で見守っててくれた。感情を共有してくれた“友”だった。慰めてもくれるし話も聞いてくれる。一人っ子だった俺には大事な存在だった。必要だった…

遺品整理をしているとアルバムなどで自分が小さい時の写真が出て来た。隣にはもちろんぬいぐるみの“彼”がいる。それを見た俺はやっと涙が出るようになった。

「母さん…父さん…孫も見せてやれなかったごめん…それにお前が今も隣にいてくれたらこんな“寂しく”なかったはずなのに…どこ行っちまったんだよ⁉︎」

俺はつい声に出して言ってた。やっと悲しみが湧いてきたんだ。感情が戻ってきた。

でも自信ないな…1人で生きていく自信…