『星剣戦記クロノレギオン 〜最果ての英雄と時間喰らいの王〜』

S・N studio

第1話「時の檻と虚ろなる少年」

――“彼女”を殺したのは、三度目の世界だった。


崩れ落ちる神殿。燃える空。

少年の手には、赤く染まった剣。


「……また、守れなかった」


世界は終わる。

何度でも、繰り返される。

千の時空を渡るその旅の果てに、彼はまだ答えを知らない。


「対象確認。時空観測者、レオン=クロヴァティア。位相B-039からの再発移動を確認。連行を開始する」


無機質な声とともに、レオンは黒い鎖に繋がれ、足を引きずって歩いていた。

目の前に広がるのは――次元監獄クロノセイル。


時空の裂け目に存在する、法則外の収容施設。

「時空干渉」「観測違反」「記録撹乱」など、“普通の法では裁けない者たち”が送られてくる場所だ。


レオンの腕には、青白い魔術式が浮かんでいた。

それは彼が「観測者」として世界に干渉した記録の“痕跡”だった。


「……また、ここか」


少年の声は、どこまでも乾いていた。


処刑官の一人が、レオンに視線も向けずに言った。


「君のような“観測者”は、世界そのものに影響を与える危険な存在だ。

可能性を見て、未来を選び、記録を塗り替える……それは本来、神の領域だ」


「選びたくて、選んでるわけじゃない」


レオンは呟いた。


「“彼女”が死ぬ世界ばかりで……それでも、諦めきれなかっただけだ」


彼は、自らの意志で時空を渡っているわけではなかった。

観測者としての適性を持ったがゆえに、“崩壊しようとする世界”へと何度も呼び出され、

気づけば“観測者レオン”として存在そのものが時空に刻まれていたのだ。


観測を重ねるたびに、彼は“記録”と“感情”を一つずつ失っていった。

守りたいものはいつも失われ、終わりを迎えるたびに、“彼女”の記憶は遠のいていく。


「この繰り返しに、意味はあるのか?」


レオンの問いに、処刑官は淡々と告げる。


「君は“起源犯”として、審理を受ける予定だ。

……その存在自体が、観測の干渉点になりすぎている」


“起源犯”――存在するだけで世界を歪める者。

レオンは、次の判定で“観測能力の永久封印”を宣告される可能性が高かった。


その時だった。


空間が歪み、世界がねじれる。


「時空災害!?観測起点に異常波動――ッ!」


「全魔法式を遮断!警戒領域Bへ移行せよ!!」


突如、監獄の壁が裂け、虚空の彼方から黒い霧が滲み出した。


レオンはその気配に、肌が焼けるような嫌悪を覚えた。


「来たか……《時間喰らい》」


黒霧の中から現れたのは、形を持たない“存在”。

名前を持たず、言葉を持たず、ただ“終わり”だけをもたらす意志体。


全ての世界を“確定された過去”に塗り潰す――それが《時間喰らい》の本質。


“また来たな、レオン・クロヴァティア”


脳内に直接響くその声に、レオンは静かに目を細めた。


「お前がそこにいるなら……まだ、やれることはある」


彼は手首の魔術封印を解除し、右腕から剣を生成する。


それは――《星剣クロノレギオン》。


時間の記録を断ち切る剣。観測者だけが扱える、“未来への干渉武装”。


世界が反転する。重力が逆巻き、光が渦を巻く。

《時間喰らい》の断片が、レオンへと襲いかかる。


空間に具現化する、“彼女”の幻影。


「やめろ……やめろよ、そんな顔で……!」


だが、レオンは剣を振るう。

何度でも、どんなに心が痛んでも。

それが、“彼女”を救うたった一つの可能性だから。


空間が収束し、クロノセイルの結界が崩れはじめる。


処刑官たちが悲鳴を上げ、脱出の術式を展開する中、

レオンは静かに立ち尽くしていた。


「……次の世界へ行くよ。まだ“彼女”は、どこかにいる気がする」


そして、彼の足元に淡い光の魔法陣が浮かび上がる。


“観測者転送、再起動”


次の“可能性”が開かれる。


「何度でも、間違えるさ。

でもその度に、もう一度――選び直すだけだ」


《つづく》

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