21話
「ねえ。今日クラスの特に女子がザワついている事に気づきませんか、かのかさん?」
肘を付き両指を組み、その上に顎を乗せながら私に視線を送る渚。今は放課後に突入し、文化祭の準備にとりかかろうとしている最中である。
結局私はそんなに携わっていないものの、お化け屋敷の準備は着々と進む。また周りがどこかせせこましい感じのせいか時間の経つのが早く、今日の放課後は佐伯達との合同練習日当日となっていた。しかも彼等の高校は今日半日授業だったらしく、既に窓の外に広がるグランドでウォーミングアップをしているのである。ただ、渚に問いかけられ質問については気づきもしなかった。私はつかさず周りを見ると、窓際にへばりついている女子が多い事に気づく。
「うーん。外見てる人が多い? かな」
「何故多いと思う?」
「どうしって言われても……」
すると、溜息をした彼女が、外を見る。
「明らかにいつもと違うメンツ居るでしょうよ」
「ああ。佐伯先輩達の事?」
「それ!!」
「でもただの合同練習だし」
「まあかのかにとっちゃそうかもしれないけど…… でも最近佐藤君達とも他の女子よりは話している感じだし…… 元からの性分もあるけどあまりにも顔の整った人と話す機会が増えて慣れてしまったとか……」
「何ブツブツ言ってるの渚」
「御免、御免。とりあえず簡潔に言うとですね。佐伯先輩って昔からモててたの知ってる?」
「人気はあったよね。本人は少し足が早いだけの事っていってたけど」
「足が早かったのも確かだけど、元来長身で顔だって整ってるじゃない。それに、高校に進学したから尚の事洗練された感じ? それを象徴するように今だって先輩、見てるっぽいでしょ」
その言葉に、チラチと女子群を見る。言われてみれば、確かに佐伯を目で追ってるようだ。
「そうみたいだね」
「でしょう!! 他校に来て少しグランドの周り走っただけでこれって。やっぱりイケメンは共通なのよ」
「はあ」
「腑に落ちてませんって感じね」
「ピンとはこないかな。良い人だとは思うけど」
「はあーー 人気男子と話す機会多くなっても、その辺りはいまだおこちゃまって事ね」
「なぎさーー」
私は両頬を膨らませると、彼女が笑う。
「はいはい。すいませんでした」
そこで話しは一頻りとなり、私は教室を後にした。とりあえずまだ部活までには時間はあるものの、佐伯も来てる。少しは早くいかなくては悪いと思い、部室へと足早に向かい、着替えすぐさまグランドへ駆け込む。すると、既に思っていた以上に部員が集まっていた。やはり強豪校で名を馳せてるだけの事もあり、こちらの部員達はそんな生徒達を近くで見たい気持ちがあるのだろう。
(まあ練習なんて日頃見れる事もないし、しかも今回は合同練習だもんね)
それでも今、通っている山名高校は陸上部が強いわけではないが、日頃の練習も懸命にやっている。結局の所個人競技が占める陸上に関しては、個の力と同時に向上心が物を言うわけで、そういったマインドを持つ事は何よりも大切なのではないかと思う。勿論そんな状況化の中、日頃から部活をやっているわけで、それに触発されるのは至極当然な流れなような気がする。
(この部活に入れて良かった……)
集まる部員達を見ながら抱いた思いを噛みしめながら、皆が集まりつつある輪に近づく。すると、いち早く佐伯が私を見つけ、手を大きく振る。
「筒宮ーー」
「お疲れ様です。佐伯先輩。今日は有り難うございます。顧問の先生から先輩が今回の事で、結構尽力してくれたって聞いたので」
「なーに。俺は何もしてないよ。ただ、こっちの顧問の先生に話し持ってて、互いに刺激あえるかもって伝えただけだし。それに」
彼は首を背後に数回振り、私はそれに従い視線を移すと、後藤と佐伯の顧問と談笑している姿があった。
「佐伯先輩知ってました? あの二人の関係性?」
「いや、初耳」
「私もです。思わぬ所でそういう偶然ってあるんですね」
「そうだな…… まあこれも必然と俺は思いたいけど」
彼の発した言葉の意味がわからず小首を傾げる。すると彼が空笑いをした。
「先輩?」
「あっ、いや、そうだ!! 早速だけど筒宮来て」
いきなり歩き出す佐伯の後を追いついて行く。すると、楽しく話す顧問達の横に彼が立つ。
「轟先生。来ましたよ。俺の後輩」
すると、眼鏡をかけたどこか気難しい雰囲気の人物がこちらを見た。
「は、初めまして。筒宮かのかです」
いきなり自己紹介され、慌てて頭を下げる。すると下を向く目線の先に骨ばった大きな手が現れた。
「轟晴夜です。佐伯の陸上部の顧問しています」
すぐさま顔を上げると、クールな笑みを浮かべこちらを見ている。私は出されたままの彼の手を握りそれに応えた手を離す。その直後、様子を隣で見ていた後藤が楽しげに笑う。
「いやーー 晴夜もすげーな。こんな陸上部強豪校の顧問なんてさ。まあ昔っからお前凄かったけど」
「いえ、陸上選手としては先輩の方がポテンシャル高いですよ。自分はそれをデータや戦略とかで補っているだけなので」
「それが無理なんだよな俺」
「確かに後藤先輩は苦手分野ですね。でも、先輩なりにうまく顧問やってると思います。昨年の山名高校の生徒も成績良いみたいですしね。特に筒宮さん。練習の時のタイムを先程参考程度に拝見しましたが、あなたは飛び抜けてますね」
「はあ。有り難うございます。っていうか恐縮ですっ」
「いえ、本当の事を言ってるまでなので。それに……」
彼が佐伯に視線を送りつつ、再度口を開く。
「うちの有望株の彼が今回の合同練習を熱望する理由がわかりました」
「はははは。わかっちゃいました轟先生」
「はい。今回のデータと君の態度でね」
「流石ですね轟先生」
「まあ時間も限られている事だし、この話はここまでして、改めて、こちら側は希望者5人で参加させてもらいます先輩」
「いやこちらこそ有り難い。うちは急遽無理になったマネージャー以外全員出席になってる。まあお互い良い時間にしないとな」
「ええ」
「じゃあ。そろそろ集まった所で始めるぞ」
後藤が緩い声を上げる。するとそれを聞きつけた部員達がこちらに向かい歩く姿が視界に入った。
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