8話 

「碧、葉実。二人先一緒に乗りなよ。おれかのかちゃんと次乗るから」

「何よいきなり」

「葉実。良いから良いから。流石に高校生4人はキツイだろ? それに碧も写真撮りにくいだろうし」


 いつもの口調で2人を乗せ、私と彼もその後乗り込む。


「とりあえず第一関門突破だな。あれで2人でとりあえず話してっと」


 そう言い先に行く2人を窓越しから見つめる。私も苦笑いをしながら同じ様に先の2人を見た。


「でも、あの2人って。口べたっていうのかな…… それこそ赤砂君とか誰か仲介の人いないと話さなそうなんだけど大丈夫?」

「まあ大丈夫じゃねえ。基本あいつら雰囲気似てても、実の所が違うから。葉実は話ベタの人見知り。碧の場合は人間不信からのきてるからな。でも2人して共通なのは一回心開いちゃえば普通に話す」

「そうなの? うんーー でも言われてみればそんな感じかも。にしても前も思っただけど赤砂君ってそんな感じなのに人のそういう内面的なの察する感覚が凄いよね。空気が読めるっていうか」

「そう思うーー いやーー そんな事言ってくれるのかのかちゃんだけだよ本当。俺こう見えて人に気を遣うタイプなの」

 

 いつもの笑みを浮かべたのもつかの間、先に行く2人のゴンドラを見つめた。その表情が以前見たどこかもの悲しい顔つきへと変わる。


(なんだろう。この違和感)


 以前もいつも見せない表情なので印象に残っているのだが、彼はどうしてそんな顔をするのであろうか? 今回とて彼自身の提案の話であり、赤砂の計画通りにとりあえず進んでいる筈なのだが…… 疑問が残る中、彼が何かを思い出したかの様な表情し、私にいつもの笑みを向けた。


「そうそう、かのかちゃん。コレ乗るもの初めてでしょ。俺等も楽しまなきゃな。外見てよーー 本当に綺麗だから」


 そう言い赤砂も外を見る。そんな彼に賛同するように眼下に広がる眺望を見つめた。


 あっという間の空中散歩は終わり、その後は、赤砂の宣言通りにプランを遂行していく。だが思いの外過密スケジュールであり、それはそれで個人的に楽しめない状況だ。彼の気合いは買う。だがそれしても……


(私だって少しそぞろ歩きいたいかな)


 そんな嘆きを口にしたくなり、思わず溜息をつたい。するとその時。


「修。俺写真撮りたんだけど」


 佐藤が冷ややかな視線を彼に送りながら唱えた。


「あ、ああ。そっかーー 個々でも見たいよな。じゃあ暫くは自由散策の時間とるかー」


 その言葉に少し安堵すると共に、待ち合わせ場所と、時間を決め解散した。私は管理の行き届いた木々や芝生の遊歩道を歩く。その横目で自由広場では親子ずれが楽しいそうに遊んでいる。


(久々だな。こんな時間)


 最近は大会がある事で部活漬けの日々だった為、こんな時間が取れるとは思っていなかった。


(最初は目的が目的だったから乗る気じゃなかったけど、赤砂君には感謝かな)


 そんな事を思いながら歩いていると、色とりどりの小さな花が咲き乱れている場所があった。思わず立ち止まる中、その花の中央を通る遊歩道に佐藤の姿。彼は頭上に何かを翳している。まあ佐藤の事だ。何かを撮っているのであろう。

 私はそんな佐藤の邪魔にならない様、その場から離れようとした時、彼がこちらに振り向き、目が合う。


(何故振り向く!!)


 視線があってしまった以上素通りするわけにもいかない。私はゆっくりと彼に近づく。


「よく気づいたね」

「カメラで写ったから」

「うん?」


 疑問系の声を上げる私に彼が細長く、昔の携帯程の大きさで似たような器具を私に見せた。


「全天球カメラ。360度撮れる」

「そんなカメラあるの? 知らなかったよ」

「カメラの性能や機能がずば抜けてるから。それに」


 すると彼が周りを見渡す。


「一面のポーチュラカも撮りたかった」

「花の名前?」


 すると彼は頷く。私は膝を折り花をよく見る。丸く愛らしい花びらをした花。


「ちっちゃくて可愛い花だよね」


 そんな中、頬に風が掠めると、仄かに甘い匂いがした。


「花の匂いした?」

「ああ。した。…… 多分」


 すると、佐藤は歩き出す。私はその後をついて行くと、私の身長ぐらいの大きさのピンク色をした花が咲いていた。アジサイに似ているが、葉の様子や花の形とが違う。一番は甘い香り。暫くそこに立ち尽くす。すると隣いた佐藤が指を指す。


「多分これ。ライラック」

「ライラックって言うんだ。良い匂いだね」


 そう言う私にうっすらと笑みを浮かべると、カメラを撮り始めた。私はその様子と共に花を愛でる。


「でも凄いね。花ってみんな形とか違うだもん。撮るの楽しくなっちゃうよね」


 すると、シャッターを押していた音が止まると共に、彼が私を呼び振り向く。すると佐藤がチェキを手にしていた。


「これで、撮ってみる?」

「ああ。でも私普通にしか撮れないし」

「大丈夫」


 そう言うと、彼は周りを見渡す。するといきなり歩きだした。暫くその様子を伺っていると私に手招きした。


「何?」 


 声を掛けつつ、佐藤の方へ向かうと、これまた薄ピンクの小さな花が咲いている。


「可愛い!!」

「カルミア」

「カルミアって言うんだ。何だか有名チョコみたいな形」

「これ。撮ってみないよ」


 すると、佐藤は持っていたチェキを私に渡した。


「良いの?」

「ああ。フィルムはもう入ってるから」

「う、うんありがとう」


 彼の好意に甘え、チェキを構える。が、やはりいつものアングルにしかならない。そんな私の顔の横に気配を感じた。


「もうちょっと、斜め上に構えて」


 私の耳元で囁かれた声に、体が硬直すると共に顔が一気に熱くなる。レンズを覗いていなかったら、完全に赤面している事がバレしまう状態だ。明らかに気が動転してると自覚をしているが、それを隠す為、必死に普通に振る舞う。


「こ、こうで良いの?」

「多分」


 言われるがままのアングルでシャッターを押す。


「どうかな……」


 そう言いフィルムを振ると事暫し。画像が浮き出てきた。確かにいつもと違うアングル且つ、遮光具合も丁度良い。


「凄い。私こんなに綺麗に撮れたの初めてかも。ありがとう佐藤君」

「それ、やるよ」

「いいの? 早速部屋に飾る。日焼けしないようにしないと、変色しちゃうよね」

「そんな大げさもんじゃないだろう?」


 そう言うと、彼がクスリと笑った。私はすぐさま目線を反らす。


(顔面偏差値高いの自覚してよーー)


 胸の内の叫びが声に出ないよう必死に堪えた。

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