第4話 野間さんの話
細田さんがロイを連れて帰ったあと、野良だった黒猫親子を引き取って飼っている野間さんが、クロ(親猫)を連れてやって来た。
野間さんはこの地域でも野菜づくりの名人と言われるほど、上手においしい野菜を育てている自然農法家だ。
以前三毛猫のフーゴを飼っていたが、フーゴは八歳のとき事故で亡くなった。フーゴが事故にあったとき、すぐに連絡をもらって、駆けつけたけれど、助けられなかった。野間さんは自分が外にも出たいだろうと、自由にさせていたのが間違いだったと、すごく落ち込んで、しばらくは家に引きこもっていたようだ。野菜づくりもやめて、どんどん元気がなくなっていく野間さんを、近所の人たちも心配していたが、野間さんは心を閉ざしたように、しずんでいる、と病院に通っているシマの飼い主の中村さんからも聞いていた。
その野間さんが、野菜づくりを再開し、楽しげに鼻歌を歌いながら畑仕事をしている、と聞いたのは昨年の秋も終わりのころだった。
ご近所の人の話では、どうやら、野良猫が野間さん宅で子どもを産み、それを引き取って育てているということだった。野間さんからも電話をもらって、健康診断と感染症の検査をしたいということだったので、往診にいったのは、ちょうど十二月二十五日。クリスマスの日の午後だった。
野間さんの宅に住みついたのは、母猫の黒猫。それにその仔猫たち。みんな黒猫で五匹いた。母猫はクロと名付けられ、野間さんの家猫になった。仔猫たちは里親さんを探そうかどうしようか、という話だったけれど、結局、野間さんの家でいっしょに飼うことにしたそうだ。
野間さんは、フーゴのことがあってから、母屋と野菜倉庫として使っていた小屋を廊下でつなぎ、猫たちが行き来のできるようにリフォームをしたらしい。
今日は、家猫になって半年近くになるから、健康診断とワクチン接種をしてほしい、と野間さんがクロ親子を連れてやって来たのだ。
野良生活があったにもかかわらず、感染症にもかかっておらず、クロは健康そのものだった。仔猫たちへの授乳も終わり、少しふっくらしたみたいだった。五匹の仔猫たちも、以前より大きくなり、動きも活発になっていた。みな健康に問題はなかった。
「先生、今年はカラスが多いわ。うちの野菜畑にもちょくちょく姿を見せるようになりました。仔猫たちは母屋から窓越しに獲物を狙っている気分で身構えていますけれど、カラスは平気ね。早生のエンドウ豆を食べていました」
「たいへんですね。今年はカラスの子が多く育っているのでしょうか。カラスの被害が出ているみたいですね」
「そうね。エンドウ豆を全滅させられると困るけれど、ある程度は仕方がないわ。キラキラ光るものをぶら下げるといいとか、黒いビニール袋をぶら下げるといいとか、いろいろ聞くけれど、三日もすると平気になるみたいなのよ。若いカラスなのか、吊り下げていたキラキラしたガラス玉をオモチャにしてますよ」
「好奇心が強い鳥だっていいますからね」
「それに、家の畑の奥にある林のなかに巣があるみたいなの。朝八時ころになると若いカラスが数羽飛んでいくわ。餌を探しにいくのかしら」
「そうですか。林のなかに、巣が。親ガラスはいませんか」
「巣立ってしばらくは親といっしょみたいなんだけど、いまは若いカラスの群れみたいね」
「そうですか。好奇心旺盛な若カラスなんでしょうね」
「ほんとそうね。家の畑は彼らの遊び場とカフェみたいなものかしら」
野間さんが帰ったあと、カラスの生態についての本を、さらにいくつか読んでみることにした。面白いと思ったのは、カラスは気に入ったものを収集することがあるという記事と、とてもきれい好きだということだ。そのため、水浴びのできる場所を行動範囲にもっていると、解説書には書いてあった。
細田さんの庭にあるメダカ池は、カラスにとってお気に入りの水飲み場であり、お風呂ってことなのかもしれない。とすると、同じカラスがやってきているってことなのかもしれない。ちょっと確かめてみたいけれど、それはなかなかむずかしそうだった。
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