第4話 お風呂が沸きました
//SE 拍手
(口調が元に戻る)「ありがとうございます。久しぶりでしたが、噛まずに語り終える事が出来ました。」
「ええ。昔はよく夏祭りで子供たちに語り聞かせていたんですよ。」
「―ふふ、お世辞でも『若いのに』と言われると嬉しいものですね。」
「まよいがのお話はいくつか種類があるのですが、どれも子供達にはリアリティのあるものだったのです。」
「例えば、まよいがを見つけたのはどこそこの家の誰だとか、どこどこの川からまよいがが見えたとか。皆が知っている場所で起きた、不思議な話なのです。」
「だから、お祭りの翌日は、川がまよいが探しの子供達で賑わっていましたね……。」
「えっ、見に行かれます?成程、聖地巡礼ですね!―あ、実地調査……。そ、そうですね!」
(顔を真っ赤にして恥ずかしがる)
「……もう少し、涼しくなってからにしましょう?私も、何だか、暑いですから。」
「わ、笑わないで下さいー……。」
「そ、そうだお客さん!ちょっと今の服装で川に行くのは危ないです。ちゃんと準備しましょう、そうしましょう!」
//SE 板間をすり足で歩く音。早足で遠のく
//SE 板間をすり足で歩く音。早足で近づく
「……お客さん、もしよろしければ先にお風呂に入られますか?考えてみれば、今着ておられる服も私が濡らしてしまいましたし、どうせ着替えるなら、一度さっぱりされてからの方が良いかと思って。」
「はい!では、こちらへどうぞ。」
//SE 板間を歩く音。二人分
「こちらがお風呂になります。タオルと着替え、置いておきますね。」
//SE 木の引き戸を開ける音
「ふふふ。若い人はジブリとか、映画でしか見た事ないかもしれませんね。このお風呂、薪で沸かしているんですよ。」
「大きい方の湯船につかって下さい。小さい方は、お湯がぬるくなった時の継ぎ足し用です。では、ごゆっくり。」
//SE 木の引き戸を閉める音
//SE 湯船につかり、お湯が溢れる音
「(壁越しなのでくぐもって)湯加減大丈夫ですか?」
「よかった。分からない事があったら聞いて下さい。」
「どうしました?―え?」
//SE 風鈴の音
「ふふふ、嬉しいですね。この辺りでは、おもてなしに対する一番の誉め言葉です。」
「うちのような宿だけでなく、普通の家もです。誰かを招くときは必ず着替えを用意し、到着したらまずお風呂を勧める。そして、一緒にお酒とご飯を楽しむ。」
「今はどのご家庭もスイッチ一つでお風呂に入れますから、あまりありがたみが感じられないかもしれませんね。でも、この辺りは夏は暑く冬は寒いのです。だから、お風呂って一番の贅沢なのですよ。」
「つい最近までこの風習はどの家でもありました。宿を営む者でなくとも、『来て良かった』の一言は嬉しいのでしょう。だから、手間を惜しまなかったのです。」
「けれど、うちは―もとい、私は来ていただいたお客さんが幸福になって帰って頂けるには、まだ女将修行が足りません。」
「ですから、その言葉はまだ受け取らないでおきますね。」
//SE 風鈴の音
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