第8話 薪を売りに
夕食が終わった後は、暗くなるまでしばし談笑の時間になった。
村の人たちの話を聞きながら色々と情報を得る。
特に、これから行くことになる都市の話には耳を傾けた。
そこには獣人は住んでいない。完全に人間のみの都市らしい。
向こうから来ることはまずないらしく、こちらから薪や獣の干し肉などを売りに行くことが多いそうだ。
都市の領主はこの村と同じらしい。
かなり広い範囲を治めている貴族なのだろう。
しかし貴族か……血だけで地位が約束されているっていうのはなんとも変わった制度だな。
優秀な人間もいれば、無能な人間もいるだろうに。
(まともな貴族は家が続くように色々とやっていたようです)
(だよなぁ。地位と能力はセットじゃないと)
コスモリンクは戦いの成果に応じて地位が与えられるシステムになっている。
背負っているものが大きすぎるので、実績のない者は決して上には立たせない。
そもそも無能は出世する前に戦場で死ぬ。
「基本的に獣人だからって不当な扱いはされないよ。この村だって税金はたいしたことないしね」
「そうそう。平和なもんさ……」
彼女たちが言っていることは本当だろう。
しかし、どこか自分に言い聞かせているように見えた。
きちんと税金は払っているのに、開拓も身を守るのも助力はない。
(税金はたいしたことがない代わりに、戦争などでは男を差し出さねばならない。あまり対等な関係には見えませんね)
(便利に使われているって感じはするな。普通は多少なりとも残すだろう。男手が必要だし、子孫を残すにもこれじゃあな)
ゼータの意見も分かる。
聞いた話からなんとなく領主や人間たちとの複雑な関係が垣間見えた。
ハーレムの話も村を維持するための苦肉の策なんだろう。
世話になった人たちだし力を貸してやりたいが、できることには限界がある。
やはり戦争が終わって男衆が帰ってくるのが一番だろうな。
それから数日後、あまった薪や川で採取した宝石なんかを都市に売りに行くことになった。
嵐のように激しい雨風の後は山の方から色々な石が流れてきて宝石類も採れるらしい。
俺も同行できることになったので、背負えるだけ薪を背負う。
人力で運ぶのはとても効率が悪いのだが、今の俺にはどうしようもない。
まさに無力だ。少しでも多く薪を運んで村の助けにするしかないだろう。
ミーシャと俺、それからもう二人の四人で都市に向かう。
都市の名前はファウドというらしい。
「世話になっている商人がいるから、そこでいつも薪や宝石なんかを買い取ってもらってるんだよ。そこで得たお金を塩や鉄の道具なんかに替えて村に持って帰ってる」
「決まった相手がいるなら話は早そうだ」
「ノーヴェがたくさん薪を用意してくれたから、本当に助かるよ。今年の薪はどうしようかって話してたくらいだからさ」
「ならよかった」
都市までの道のりは、途中までは獣道のようなものだったが都市に近づくにつれ整備されたものになる。
まあ石や草を除いてあるくらいだが、それでも大分マシだ。
行き来があまりないのは本当らしいな。
これでは森に追いやって開拓を代わりにやらせているのではと思ってしまう。
獣人がいなくなったら人を送り込むという話が裏で進んでいても驚かないぞ。
「ミーシャたちはなんであそこに住んでいるんだ? 獣人同士が集まって暮らしている国とかないのか?」
「私は村の生まれなので行ったことはないんですが、あるにはあるそうです」
「俺が見た感じ、森に囲まれた暮らしはともかく領主からの扱いもあまりよくなさそうだが。そこには行けないのか?」
純粋な疑問だった。
ないなら仕方ないが、獣人が住む国があるならそこに居た方が暮らしやすそうに思える。
「それはねぇ……人間より獣人同士の方がずっと上下関係に厳しいんだよ。見ての通り、私たちは獣人だけど特別強いわけじゃない。人よりちょっとだけ動きが俊敏だったり力が強いくらいさ。獣人の国にいるままだと、奴隷みたいな扱いをされる。それに比べたらあの森の生活はまだマシなんだよ。少なくとも自由があるからさ……」
同行している一人が答えてくれた。
(なまじ強いからこそ、その強さ次第で種族の扱いが変わるようです)
(強い種族は好き放題できる反面、弱い種族はその分割を食って隷属的な扱いになるのか。原始的だが、ある意味強い統治構造だ)
強いやつが上に立つので、下になったものは我慢するか逃げるしかない。
まとめて逃げた先がこの人間の領地というわけか。
まあ、せっかく開拓した村も風前の灯火になりつつあるが。
コスモリンクにそういう争いなどはない。
敵が強すぎて身内で争っている余裕がないのだ。
……それでも争おうとした勢力は全て粛清した歴史がある。
中々ままならないもんだな。
野宿をしつつ、二日ほどで目的の都市に到着した。
村の住人であることを証明すれば問題なく中に入れるようだ。
「まず荷物を軽くしようかね。その後は公衆浴場で身体を奇麗にしよう」
「分かった。ようやく肩の荷が軽くなるな」
彼女たちについていきながら周囲を確認する。
貧しくはないが、それほど豊かにも見えない。
基準がないからなんともいえないが、普通の都市のように見えた。
視線は感じるものの、さほど敵意は感じない。
珍しい獣人を遠目に見ているだけか?
……彼女たちは美形なのでそれで視線を集めているのかもしれないな。
年長の女性ですらかなり若く見える。
最悪この都市から旦那を募れば上手くいくのではないかと思うほどだ。
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