元仲間たちよ、お前らの絶望した顔が見たい

境界セン

第1話 裏切りの刃

処刑台の上で、アルフレッドは信じられない光景を見つめていた。

観客席に並ぶのは、つい昨日まで背中を預け合っていた仲間たちの顔。

「おい、マジかよ......レクス」

呟きは風に消える。親友で団長のレクスが、冷たい目でこちらを見下ろしている。

「アルフレッド・ヴォルガード」

重厚な声が広場に響く。処刑執行官が羊皮紙を広げた。

「王女殿下への反逆罪、軍資金横領の罪により、斬首刑に処す」

「待てよ!」

アルフレッドの声が割れた。首に巻かれた鎖が重い。

「俺は何もしてない!レクス、お前が一番よく知ってるだろ!」

観客席からレクスが立ち上がる。金髪を風になびかせ、整った顔に冷笑を浮かべていた。

「アルフレッド、もういいんだ」

「何が『もういい』だ!お前......お前がやったんじゃないのか!」

「証拠は全て揃っている。お前の部屋から盗まれた金貨が見つかった。王女殿下を襲った時の目撃証言もある」

レクスの声に迷いはない。まるで昨日まで親友だった男など、最初からいなかったかのように。

「くそったれ......」

アルフレッドの膝が震えた。処刑台の木材が冷たい。

観客席を見回す。騎士団の仲間たちが並んでいる。

副騎士長のサラ。短い銀髪に鋭い緑の瞳。いつも毒舌だが、困った時は必ず助けてくれた。今は顔を背けている。

魔術師のエルデン。長い黒髪に青い瞳。誰よりも知識豊富で、よく夜遅くまで語り合った。今は本を読むふりをしている。

槍騎士のガレス。がっしりした体格で、いつも豪快に笑っていた。今は腕を組んで下を向いている。

治療師のリリィ。柔らかな栗色の髪に優しい茶色の瞳。いつも皆の傷を癒してくれた。今は涙を流している。しかし、それは悲しみではなく......安堵の涙のようだった。

「そうか......分かったぞ」

アルフレッドが小さく笑った。乾いた笑い声が喉から漏れる。

「全員グルだったってわけか。俺だけ......俺だけ何も知らされてなかったのか」

「アルフレッド......」

リリィが口を開きかけたが、レクスの視線に押し黙った。

「なあ、レクス」

アルフレッドが顔を上げる。茶色の髪が汗で額に貼り付いていた。

「理由くらい教えてくれよ。なんで俺を......なんで俺だけを」

レクスの表情が一瞬揺らいだ。しかしすぐに元の冷たい表情に戻る。

「お前が......邪魔だったからだ」

「邪魔?」

「そうだ。お前がいる限り、俺は真の騎士団長にはなれない。皆お前を慕いすぎていた」

観客席がざわめく。レクスの言葉に驚いているのは一般民だけだった。騎士団の面々は静かに聞いている。

「だから......だからかよ」

アルフレッドの声が裏返った。

「俺は......俺はお前のこと、本当の兄弟だと思ってたのに」

「兄弟?」

レクスが嘲笑った。

「平民出身の成り上がりが、名門騎士の家系の俺と兄弟?笑わせるな」

ゴキン、と何かが折れる音がした。アルフレッドの心の奥で。

「そうか......そういうことか」

もう何も言わなかった。処刑人が大きな斧を振り上げる。

刃が首筋に触れた瞬間、アルフレッドの口元に不気味な笑みが浮かんだ。

「レクス......」

小さな声。しかしレクスの耳にははっきりと届いた。

「お前らのことは......絶対に忘れない」

斧が振り下ろされる。

血しぶきが処刑台を染めた。


―――――


しかし、これで終わりではなかった。

夜。王都の墓地に黒い霧が立ち込めていた。

アルフレッドの墓の前に、黒いローブを着た老人が立っている。

「可哀想に......真実も知らされずに死んでいくとは」

皺だらけの手が墓石に触れる。

「『闇の復活術』......禁断の魔法だが、お前なら使いこなせるだろう」

老人の口から紫の光が漏れ出た。それは墓の中に吸い込まれていく。

しばらくして、土がもり上がった。

そして......

「が......は......」

息遣いと共に、一本の手が地面を突き破った。

土を掻き分けて、アルフレッドが這い出してくる。顔色は青白く、首筋には斧の跡がくっきりと残っていた。

「おお......成功したか」

老人が感嘆の声を上げる。

「あなたは......」

アルフレッドの声は掠れていた。

「私の名はザルゴ。『闇魔術師協会』の長老だ」

「闇魔術師......」

「そう。我々は長い間、光の騎士たちに迫害され続けてきた。だが今こそ復讐の時だ」

ザルゴの目が光る。

「お前は死んだことで、『闇の力』に目覚めた。今までの聖なる力とは比べ物にならないほどの強大な力だ」

アルフレッドが自分の手を見下ろす。指先から黒い炎が揺らめいていた。

「この力で......」

「そうだ。復讐を果たすがいい。そして我々と共に、この腐りきった王国を作り変えるのだ」

ザルゴが差し出した手を、アルフレッドは握り返した。

復讐の物語が、今始まった。

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