第14話

広告モデルに理想的なビジュアルと身体能力を持つ女性を、いきつけのジムで見つけた。

【ユミ】のことを知りたい。


そんな依頼があった。

依頼人は斉藤灯里。


榛名からの電話を切り、道弥はしばらく天を仰いだ。


◼️◼️◼️


「灯里さんから直接の依頼とは」

榛名探偵社にメールでアポをとり、本日来社予定だという。メールの受信は午前3時。メール担当者が受けた内容を、ユミこと生田夢子がチェックして、榛名に報告したとのことだ。


バービーが道弥に問う。

「われわれの方針は?」

「生田さんの情報は、差し障りない程度に灯里さんに伝えてもらう。榛名の秘書というところもね。話に出れば、榛名とぼくが友人だというのも隠すことはない」

グレーテルがうなずく。

「斉藤灯里はんが榛名探偵社に現れはったら、ユミはんがお迎えて、びっくりされるんどすな」

アリソナエが感心している。

「生田どのを広告にとは、お目が高い。しかし、生田どのは、お断りになるでしょうな」

「まあ、たしかに」

言って道弥は立ち上がり、おさえ気味に声を大きくした。


「受け入れるな、きみたち!」


側近3人が、びくりと肩を震わせる。

部屋のすみにいつの間にかいたカメイさんが、こちらを見る。

道弥はにっこり、微笑んだ。


「灯里さんが通うジムは、京塚グループとは無関係だ。ぼくの意思は介入されない。そこに、よくわからない理由でサンドバッグが設置された。サンドバッグがあるからという理由で、生田夢子秘書が誘われるように、調査依頼を受けてくれた。灯里さんのアンダーヘアを確認したいなんて依頼だから、自然に浴室に行くことになる。……生田さんも、灯里さんに全裸の品定めをされることになる……ところで。

ここに斉藤繁という、ファクターがある」


側近たちは、うげっと言いたげな顔になった。


「灯里さんが『わたくしの座敷わらしを殺さないで』と、ぼくに懇願した存在だ。繁にいさん本人にもたいそうお役立ちの『妄想を現実に近づける能力』あるいは『引き寄せの能力』は妻の灯里さんにも多大な恩恵を与えた。仕事や金銭の話ばかりかと、あのときは思ったけれど」


道弥は口を一度閉じ、面目なさそうに言った。

「これまでも、灯里さんが好みの女性を狩るのに、使われていたのではないかな。灯里さんは、たぶん、女性が好きなタイプだ。それを察していたのに、考えずに魅力的な生田さんを差し出してしまった……」

「えっ、みっちゃん、なぜ彼女の性癖がわかるのよ?」

「灯里さんはぼくを見て、必ず毎回『男なのね、残念』という顔をするんだよ」


側近たちは、「ああ~」と声を漏らした。

「支局長のお顔はたしかに、ゴツゴツしたところがありませぬな」

「童顔、かわゆいお顔どす。たしかに、ボーイッシュな女性に見えなくもありまへんな」

「みっちゃんより男に見える女も多いわよう」

「……それはともかく」

道弥は咳払いした。


「灯里さんは吸血鬼体質だろうなという話をしてたよね。確定ではない与太話だけどさ。なあ、吸血鬼って、性行為をすると思うか?」

グレーテルが答える。

「せえへんのちゃいます? 吸血行為が性行為をなぞらえてるちゅうことですし」

道弥がうなずく。

「極端な再生能力を持ち、何度いたしても、いつまでも破瓜の痛みがなくならないなら」

アリソナエが身震いする。

「それは……男性との性行為は、ほぼ地獄でありまするな」

バービーがこっそり付け足す。

「バリエーションってあるものよ。入れるだけが、行為ってわけでもないけどね」

そして、気づいたようにつぶやく。

「ああ、すると男の吸血鬼だって。真性包茎でも不能でも、問題ないのね」


道弥は苦笑した。

「まあ、ちょっと話がずれたけど」

目に強い光を宿す。

「斉藤繁の能力に手助けされて、灯里さんが生田さんをなんらかの毒牙にかける可能性があるなら。ぼくは生田さんを必ず守るよ」

側近たちも、うなずく。


吸血鬼なら、科学の力でも対抗できる。

本当に恐ろしいのは、運を操る妖怪のほうだ。

先ほども、「ないだろ、こんな偶然」という事象に対して、全員の認識をぼんやりとさせ、危機感や疑惑を薄れさせていた。

道弥は、腹に力を入れた。


「座敷わらし。いや、妖怪ご都合主義め!」

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