第7話 呪毒の魔石
「ギシャアアアアアアアアッ!」
ドブネズミ・キングの咆哮が、狭い地下水路に反響し、壁をビリビリと震わせる。
レベル15。今の俺の三倍だ。
「リナ、下がってろ! 絶対に近づくな!」
「は、はい……! お気をつけて……!」
リナが後方へ下がるのを確認し、俺は短剣を構え直す。
狙うは、額の『呪毒の魔石』。あれを壊さない限り、勝ち目はない。
「来るぞ……!」
ドブネズミ・キングが、巨体に見合わぬ俊敏さで突っ込んできた。その質量は、もはや暴走する馬車だ。
【神眼】が、敵の動きを予測する。
――右前足による薙ぎ払い。その後、即座に左前足での追撃。
「単純なんだよ、お前は!」
俺は予測通り、低く身をかがめて一撃目を避ける。頭上を、風圧と共に巨大な爪が通り過ぎていった。
そのまま敵の懐に滑り込み、がら空きになった腹部を斬り上げる!
ザシュッ!
しかし、手応えが浅い。
「硬質化、か!」
スキルで硬化した皮膚が、俺の斬撃の威力を殺している。
それでも、わずかにはダメージを与えられたらしい。キングが苦悶の声を上げ、後退する。
「このままじゃ、ジリ貧だ……!」
一撃で、額の魔石を破壊するしかない。
俺は一度距離を取り、息を整える。
【神眼】を、ドブネズミ・キングに集中させる。
敵の動き、呼吸、筋肉の収縮。その全てを読み取り、攻撃の予備動作を予測する。
――次は、尻尾による横薙ぎ。その後、猛毒の牙による噛みつき攻撃。
「……そこだ!」
俺は敵の攻撃パターンを読み切り、あえて懐へと飛び込んだ。
ビュッ!と空気を切り裂く音を立てて、巨大な尻尾が俺のいた場所を通過する。
そして、大きく開かれた顎が、俺の頭上から迫る!
「今だ!」
俺は敵の顎を踏み台にして、高く跳躍した。
目の前には、無防備に晒された額。そして、禍々しく輝く紫色の魔石。
「もらったァ!」
短剣を逆手に持ち替え、全体重を乗せて魔石へと突き立てる!
ガキンッ!
「なっ……!?」
信じられないほどの硬さ。
短剣の切っ先は、魔石にわずかな傷をつけただけで、弾き返されてしまった。
体勢を崩した俺は、なすすべもなく地面に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
受け身は取ったが、全身に鈍い痛みが走る。
【レベルが7に上がりました】
レベルは上がる。だが、決定打を与えられない。
「レオン様!」
リナの悲痛な声が聞こえる。
「くそ……硬すぎる……!」
ドブネズミ・キングが、俺に狙いを定め、再び突進してくる。
もう一度跳躍しても、同じことの繰り返しだ。
何か、何か手は――。
その時、俺の脳裏に、ある鑑定結果が蘇った。
――【対象:錆びた短剣】
――【詳細:……内部に高純度の魔鋼が使用されている】
この短剣の、本当の力。
「賭けるしか、ねぇ……!」
俺は短剣を握りしめ、目を閉じた。
そして、自分の魔力を、ありったけ短剣へと注ぎ込む。
「頼む……応えてくれ……!」
すると、どうだ。
錆びていたはずの短剣が、淡い光を放ち始めたではないか。
表面の錆が、まるで魔法のように剥がれ落ちていき、その下から現れたのは、夜空の星々を閉じ込めたかのような、美しい白銀の刀身だった。
【鑑定:魔剣『星砕き』(覚醒段階:1)】
【スキル:魔力放出、斬撃強化】
【詳細:古代の鍛冶師が作り上げた伝説の魔剣。所有者の魔力に呼応して、その真の力を解放する】
「……マジかよ」
追放された俺が持っていたのは、ゴミ鑑定スキルと、錆びた短剣。
その両方が、とんでもない代物だったとはな。
「ハッ……面白い!」
笑いが込み上げてくる。
もはや、恐怖はない。
俺は覚醒した魔剣を構え、迫りくるドブネズミ・キングを真正面から見据えた。
「これで、終わりにしてやる!」
【神眼】が、敵の動きの、さらにその先を映し出す。
――突進の勢いのまま、体重を乗せた頭突き。額の魔石そのものを、武器として叩きつけてくる。
最大の好機。そして、最大の危機。
しくじれば、俺の体はミンチになるだろう。
だが。
「見えすぎなんだよ、お前の未来は!」
俺は突進してくるキングから目を逸らさず、ただ一点、額の魔石だけを見つめる。
敵が、俺の数メートル前まで迫る。
もう、避けられない距離。
「――今だ!」
俺は突進の軌道から半歩だけ身をずらすと同時に、魔剣『星砕き』を、力の限り横薙ぎに振るった。
刀身に込められた魔力が、眩い光の刃となって放たれる。
「喰らえええええええッ!」
閃光が、ドブネズミ・キングの巨体と交錯した。
一瞬の静寂。
次の瞬間、パリン、とガラスが割れるような乾いた音が響き渡り、ドブネズミ・キングの額にあった『呪毒の魔石』が、粉々に砕け散った。
「ギ……シャ……」
キングは断末魔の声を上げることもできず、その場に崩れ落ち、やがて光の粒子となって消えていった。
【レベルが15に上がりました】
一気に8もレベルが上がった衝撃で、俺は膝から崩れ落ちそうになる。
「はぁ……はぁ……やった、のか……?」
「レオン様……!」
リナが駆け寄ってきて、俺の体を支えてくれる。
「すごい……すごいです、レオン様……!」
「ああ……なんとかな」
俺は安堵の息を吐き、覚醒したばかりの魔剣を見つめた。
その時だった。
俺たちが倒したドブネズミ・キングが消えた場所。その奥の壁が、ゴゴゴ……と、不気味な音を立てて、ゆっくりと左右に開き始めたのは。
「隠し通路……?」
壁の向こうは、さらに深い闇へと続いていた。
そして、その闇の奥から、冷たく、それでいてどこか気品のある、女の声が響いてきた。
「……まさか、ネズミごときに手間取るとは思いませんでしたわ。わたくしの『眷属』も、まだまだですわね」
「……誰だ!?」
俺はリナを庇い、魔剣を構える。
闇の中から、カツン、カツン、とヒールの音が近づいてくる。
やがて姿を現したのは、血のように赤いドレスに身を包んだ、絶世の美女だった。
腰まで伸びる艶やかな黒髪。血を吸ったように赤い唇。そして、俺たちを見下す、金色の瞳。
その女は、俺を一瞥すると、妖艶な笑みを浮かべた。
「あなた、なかなか面白い力をお持ちですのね。わたくしの、新しい『おもちゃ』にして差し上げますわ」
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