第7話 明るくない未来を売るお店
「次は〜“未来百貨店”〜。“あなたの未来、セール中”です〜。返品交換はできません〜」
列車が停まったのは、まるでショッピングモールのような建物だった。
看板には金文字で「フューチャー・モール 〜未来を、お選びください〜」と書かれている。
中に入ると、館内アナウンスが響く。
「本日は、“成功者の未来コーナー”が特価セール中! 就職成功・結婚・フォロワー10万人・副収入月30万プランなど、多数取り揃えております!」
「……なんか、夢っていうより、広告くさいね……」
あのちゃんは、スピーカーから流れるキラキラした音楽に眉をしかめた。
通路にはスーツを着た人、制服の学生、子どもを連れた家族……みんな“未来”のカタログを真剣に読んでいる。
「これは将来の自分にピッタリだと思います」と言って、手続きをする人もいる。
「ねえ、これって……本当に“未来”を売ってるの?」
カリィがこっそり聞いた。
「うん。この国では、“未来”は買うものなんだって。選んだ未来に沿って生きると、成功率が上がるらしいよ」
「でもそれって、“今”が消えるじゃん……」
「うん、わかってる。だから私は買わない」
そう言ってあのちゃんが歩いていると、「売れ残りコーナー」と書かれた薄暗い区画が目に入った。
照明も弱く、客もいない。
そこには、こんな未来が並んでいた。
*「なんとなく毎日を過ごす未来」
*「夢はあるけど動けない未来」
*「友達がひとりもいない未来」
*「やりたいことがわからない未来」
棚の隅にあった、一冊のファイルがあのちゃんの目に留まる。
「選ばれなかった未来」
開くと、こう書かれていた。
「誰にも期待されず
誰にも見られず
でも、自分だけは
ちゃんと立ってる未来」
「……これ、いいかも」
「え!? 買うの!?」
カリィが驚いた声をあげる。
「うん。だって、なんかリアルだし。
たぶんそれって、一番“自分っぽい”から」
そのとき、背後から拍手が聞こえた。
黒いスーツを着た案内人が、静かに近づいてきた。
「あなたのような方を、ずっとお待ちしておりました。
この未来は、たいてい誰にも見向きされない。でも、“誰かの物語”が始まるときに、よく選ばれるんです」
「へぇ。わたし、物語の主人公とか、似合わないんだけどな」
「それでも、誰よりも自由で、誰よりも“あなたらしい”未来です」
書類にサインをすると、ファイルが消え、胸に小さなブローチが現れた。
それは、何色でもない――透明な未来の印だった。
「じゃ、また次行くね」
あのちゃんは、ナン片手にモールをあとにした。
「明るくない未来だけど、そこそこ悪くない気がしてきたし」
列車の扉が閉まるとき、館内アナウンスがこう告げた。
「ご購入ありがとうございました。“あなたの選んだ未来”が、どうかあなただけのものでありますように」
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