悪役令嬢VTuber、100回目の人生配信中!
@kioku_uri_otoko
第1話 処刑配信、始めます
雨が降っている。
王都の中央広場に設置された処刑台の上で、私——セシリア・ローゼンブルグは、己の人生を振り返っていた。
悪役令嬢として生まれ、悪役令嬢として死ぬ。
なんとも分かりやすい人生だこと。
「罪人セシリア・ローゼンブルグ、何か言い残すことはあるか」
処刑人の低い声が、雨音に混じって聞こえる。
ああ、この声も、この雨も、この状況も——
——99回目だ。
そう、私は知っている。これが99回目の処刑だということを。
なぜそんなことが分かるのか? 簡単な話だ。
全部、覚えているから。
「……最後に、一つだけ」
私は顔を上げた。処刑台を取り囲む数千の群衆。その中には、私を断罪した第二王子クロード・レイナルドと、彼に寄り添う聖女マリア・ホーリーライトの姿もある。
ああ、あなたたちも99回目なのよ。気づいてないでしょうけど。
「なんだ? 神への懺悔か?」
処刑人が促す。私は首を横に振った。
「Wi-Fi……じゃなかった、この場の魔力場のパスワードを教えていただけますか?」
「は?」
処刑人だけでなく、群衆もざわめく。
無理もない。正気を疑われても仕方ないだろう。でも、これが100回目の私の選択だ。
「魔力場のパスワード。ほら、王都の中央広場なら、フリーの魔力場があるでしょう? あれのパスワード」
「き、貴様、正気か?」
「正気も正気、大正気ですよ。あー、もういいです。力技でいきます」
私は拘束された手を器用に動かし、空中に魔法陣を描き始めた。
これは、100回目にして初めて思い出した、私の「前世」の技術。
現代日本でVTuber『世詩璃亜(せしりあ)』として活動していた時の——配信技術。
「な、何をしている!」
「配信準備です」
魔法陣が完成すると、空中に巨大な半透明の画面が出現した。
そこには、こう表示されている。
『【緊急配信】悪役令嬢、処刑されます【初見さん歓迎】』
視聴者数:0→1→10→100……
あっという間に数字が増えていく。
「えー、皆さんこんにちは。悪役令嬢の世詩璃亜です。見ての通り、今から処刑されるんですけど、その前に大事なお知らせがあります」
群衆が唖然とする中、私は続けた。
「私、99回ここで死んでるんですよね」
画面にコメントが流れ始める。
『は?』
『どういうこと?』
『頭おかしくなった?』
『かわいそう』
「あ、コメント見えてます。ありがとうございます。で、証拠をお見せしますね」
私は処刑人に視線を向けた。
「そこの処刑人さん、奥さんの名前はマルタで、昨日喧嘩したでしょ? 原因は、あなたが酒場で飲みすぎたから」
「!?」
処刑人の顔が青ざめる。
「あと、そこの赤い髪の商人さん。ポケットに入ってるのは、恋人への指輪でしょ? 今日プロポーズする予定だったのに、処刑見物なんかに来ちゃって」
「な、なんで……」
「はい、次。クロード王子様」
王子の肩がビクッと震えた。
「あなた、今朝の朝食、黒パンじゃなくてクロワッサン食べたでしょ? ダイエット中なのに。あと、寝る前に鏡の前で『俺はできる王子だ』って自己暗示かけてるの、従者のセバスチャンに見られてますよ」
「なっ……!」
クロードの顔が、茹でダコのように真っ赤になる。
画面のコメントが爆発的に増えた。
『wwwwww』
『王子wwwww』
『自己暗示は草』
『これマジ?』
『令嬢かわいい』
視聴者数:5000人突破
「というわけで、私が99回ループしてるって話、信じていただけました?」
群衆がざわめく中、マリアが前に出た。
「そ、そんなの嘘に決まってます! 悪魔の力か何かで——」
「マリアさん」
私は彼女を見つめた。
「あなた、本当は平民じゃないわよね。没落貴族の娘。苗字はホーリーライトじゃなくて、本当は——」
「やめて!」
マリアが叫ぶ。ああ、この反応も99回見た。
「……やめてあげます。配信的にも、あんまり人の秘密を暴くのは良くないですしね」
ふと、画面を見る。
視聴者数:10,000人突破
お、いい感じ。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか」
私は処刑人に向き直った。
「処刑、どうぞ」
「は?」
「いや、だから処刑していいですよ。ただし——」
私はにっこりと笑った。
「配信は続けさせてもらいますね。死んだ後も」
その瞬間、画面に大量のコメントが流れた。
『!?!?!?』
『死んだ後も配信!?』
『どういうこと?』
『スパチャ投げていい?』
『令嬢を救いたい』
そして——初めてのスパチャが飛んできた。
『黒薔薇の君さんが10,000魔石投げました』
え?
私は驚いて、スパチャの送り主を探す。
でも、匿名だから分からない。
「あ、ありがとうございます! 黒薔薇の君さん! 初スパチャです! うれしい!」
処刑人が剣を振り上げる。
「待て!」
突然、クロードが叫んだ。
「この女の言っていることを、もっと聞くべきだ」
マリアが驚いたように王子を見る。
「で、でも、クロード様……」
「いいから」
クロードは、なぜか顔を赤くしながら言った。
「その……配信? とやらを、もう少し見てみたい」
おや?
まさか、ね。
視聴者数:50,000人突破
画面にお知らせが出た。
『5万人突破記念! スペシャル配信開始!』
そして、私の体が光り始める。
「あら?」
これは——100回目にして初めての現象だ。
光が収まると、私の姿が変わっていた。
処刑台の囚人服から、現代的な配信者の衣装に。
「えー、5万人ありがとうございます! というわけで、衣装チェンジしました! かわいい?」
コメントが弾幕のように流れる。
『かわいいいいいいい』
『天使』
『ずっと見てたい』
『処刑中止しろ』
群衆も、もはや処刑どころではない。
全員が空中の画面に釘付けだ。
「さて、せっかくなので質問コーナーでもしましょうか。99回も死んでるので、なんでも答えられますよ」
『なんで99回も死んだの?』
「いい質問ですね! 実は、この世界って——」
その時、空が割れた。
文字通り、空にヒビが入ったのだ。
「あら、もうバレちゃった?」
私は苦笑する。
「皆さん、実はこの世界、もっと上位の存在に『配信』されてるんですよ。私たちは、誰かの『コンテンツ』なんです」
視聴者数:100,000人突破
その瞬間——時が止まった。
いや、正確には、私以外の全てが停止した。
そして、空から声が響く。
『面白い。100回目にして、ようやく気づいたか』
「あら、『視聴者』さん?」
『その通りだ。君たちの世界を見て楽しんでいる、上位存在だ』
「で、どうするんです? 私を消します?」
『いや』
声は愉快そうに言った。
『君の配信、面白いじゃないか。続けてみろ。どこまでいけるか、見せてもらおう』
そして、時が動き出した。
気がつくと、私は処刑台から降りていた。
クロードが呆然と私を見ている。
「セシリア……?」
「あ、配信中なので、世詩璃亜でお願いします」
私は視聴者に向かって手を振った。
「というわけで、処刑中止になりました! これから100回目の人生、配信していきます! チャンネル登録と高評価、お願いしまーす!」
視聴者数:1,000,000人突破
こうして、悪役令嬢VTuberの100回目の人生が始まった。
まさか、これが世界を巻き込む大騒動になるなんて、この時はまだ誰も知らなかった。
私も含めて、ね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます