灰の惑星
アスパラガッソ
第一話
目覚まし時計を掛けなくなったのはいつからだろうか。少なくとも数年前までは寝起きが騒がしかった筈だ。
俺がそうなったのも、あんなゴミ溜めの部屋で生きているのも、全部会社が悪い。人間を使い捨ての道具としか、いや、それ以下だと思って扱き使ってるアイツらが悪い。
俺は数年前、それこそ目覚まし時計を掛けていた頃、そこそこ良いところに就職していた。名前は思い出したくも無いが、テレビで度々耳にするくらいには有名所だ。
速い話……。
「俺はその会社の広報部署で働いていたんだが、ある日突然その部署が解体され、俺は済し崩し的にクビにされた。理由は分からない。聞いても答えてくれなかった。そんな不当な解雇を宣告された俺たちは、もちろん部署総出で会社に抗議した。だが結果はこの通り……はぁ」
結局、街外れのモーテルなんかで燻ってる。
「悪いな、俺のしょーもない愚痴なんか聞かせちまって」
「良いよ良いよ、久しぶりだし、結構愚痴が溜まってると思ってた。お前、ネットで発散しないタイプだもんな。それに、そんな時期に呼び出した僕が悪い」
目の前に掛けているのは大学の時の友人である【リーン】だ。彼は大学の後は数年ニートをしてた様で、時間だけは有ったから色んなところへ旅に出ていたらしく、最近またこの地区に戻って来ていたのだ。
それを知ったのは今朝で、いきなりメールで昔通ってたカフェに呼び出された。俺はリーンが戻って来ていた事に驚いた後、ここのカフェがまだ潰れていない事にも驚いた。
「しかし、ここのカフェ……まだやってたとはな」
「あぁ、僕もビビった。あの詩的な名前も相変わらずだしな。それに豆もまだ土耕栽培してるらしい」
土耕栽培って……土も安くないだろうし、それに水も、それを数年続けてるって相当努力してるな。それとも嘘か?いや、ここの店主に限ってそういう事は無さそうだ。こんな世の中になっても数百年前の宗教の神を独自の解釈で崇めてるらしいし。
『だれでもかわく者は、わたしのところにきて飲むがよい』って店の名前の由来も、確か宗教の話から持って来てるって言ってたな。メニューも似たような感じで正直言って頼みづらいが、コーヒーは美味い。
「へぇ、よく続いてるなぁ……ここのところ灰の影響でまた空気汚れてるらしいし、ほんと、よくやるよ」
そういえば、俺のメールボックスにも灰注意報と清掃の募集が来ていたな。帰ったらマスクを新調しておかないと、来月はどこにも行けなそうだ。
「ちなみに、今回の話はそれ関連だ」
「それ関連って言うと清掃の仕事か?それならやらないぞ」
灰の清掃はもちろん灰を掃除するのが主な目的だが、本当の狙いはそうではなく、大抵は企業のイメージアップの為にやる売名の常套手段に過ぎない。スポンサーに付いて清掃を支援、私たちは環境の事を考えるクリーンな会社ですよってアピールしたいだけだ。俺も会社に勤めている時に清掃員募集の売り文句を考えていた。
「あの会社が大きく関わってる仕事だもんな、もちろんお前はすぐに断ると思った。だが違う」
「違う?」
「そう、今回持って来たのは清掃の仕事なんてちゃちなもんじゃない」
清掃の仕事じゃない?じゃあなんだ……?
「お前、一獲千金に興味は無いか?」
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