第28話 羅臼ノ刻《KANATA_RUST》

 北海道・知床半島、羅臼――

 オホーツク海に面するこの町は、世界自然遺産の美しさの裏に、かつて「処刑人の里」として名を刻んでいた。

 雪と霧が満ちる深夜、佐倉悠と黒石ユウトは、山奥に眠る廃寺へと辿り着いていた。


 そこに置かれていたのは、一本の錆びた刀。

 黒い鞘には、かすれた墨でこう刻まれていた。


> 『行胤ゆきたね――最後ノ刀』


「これが……千葉行胤の遺刀か」

ユウトが指でなぞると、錆がぽろりと落ち、微かに刃が月光を弾いた。


「殺しのためじゃなく、“後悔を封じるため”に抜かれた刀――って言われてる」

 悠はARデバイスを起動する。寺の奥には警告が浮かんでいた。



> 《KANATA_RUST_Protocol》

対象:千葉行胤の遺刀と、その封印守護者ロアウスの殺し屋との交戦

 キーワード:羅臼、千葉行胤、西野カナ、殺し屋、錆びた刀



 突然、霧の中から足音。


 現れたのは全身黒ずくめ、白い雪上迷彩のフードをかぶった殺し屋。

 コードネーム――《KANATA》


「……あなたたちが、来るって思ってた」

 殺し屋は、柔らかな声でそう呟いた。

 西野カナの『会いたくて 会いたくて』が、小型スピーカーから微かに流れている。

「音楽……?」

「殺し屋が失った記憶の断片。それだけが“最後の人間らしさ”ってこともあるさ」


 KANATAの背から二振りのナイフが飛ぶ。

 ユウトが身を翻し、スモークを投げて撹乱。


「油断するな。あいつは“羅臼の処刑人”の末裔。元は封印守だったんだろう」


 刃が交錯する。

 佐倉は錆びた刀を抜いた――鈍い、重い音。

 しかしその瞬間、刀身に宿る“記憶”が爆ぜる。


> 【記録再生:西暦1446年】

千葉行胤「この刃は、己を殺すために振るう。誰も、斬らぬように」


 悠の心に刺さったのは、過去の重みではなく、“刀が望んでいた未来”だった。


「KANATA、もうやめろ! お前は、守り続けてきたんだろ? この刀を!」


「私は……守ったの。誰にも奪わせないように。だけど、誰にも渡せなかった」


 涙が混じった声だった。

 刀は、再び静かに鞘へと戻される。


 音楽が、ラストサビを迎える。


> ♪ 会いたくて 会いたくて

 震える夜に

 あなたを想って 強くなれるよ… ♫


 KANATAはナイフを地面に落とし、ゆっくりと手を挙げた。


「……その刀、あなたが持っていて。やっと終わる」


 戦いは、戦わずして終わった。


 佐倉は錆びた刀を背負い、ユウトとともに山を下りる。



「なあ、悠……お前が“殺さなかった”の、久しぶりじゃないか?」


「……俺も変わったのかもな。昔より、“信じたい”と思うようになった」


 羅臼の空は明け始め、東の水平線にほんのりと光が差していた。



🗡️ 遺刀行胤:確保

🎧 挿入曲:「会いたくて 会いたくて/西野カナ」

🕊️ KANATA:記憶コード消去、現地にて解放


> 『この刃はもう、人を守るためにしか抜かない』




 


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