第4話 サマードライブ:東北編

 フェリーの中で赤松のことを思い出していた。

 思い出したのは、高校の卒業式の日。

 バイクの免許を取って「いつか旅に出る」と言っていた親友、あいつは、もういない。


 卒業証書を手にした帰り道、夕焼けが差し込む校舎の影をふたりで歩いた。グラウンドの隅には、まだ誰かが投げたボールが転がっていた。


「お前、プロ行くんだろ?」

 赤松がそう言って、俺の背中を軽く叩いた。


「行けたらな」

 本気でそう思ってた。だけど、あいつの笑顔が少し寂しそうだったのを、今でも覚えてる。


 俺たちは野球部でバッテリーを組んでいた。

 俺がピッチャーで、赤松がキャッチャー。

 荒れ球ばかりの俺のボールを、赤松はどんなに痛くても黙って受け止めてくれた。

 指を折っても、マスク越しに笑って「全然平気」と言ったあいつ。試合に出られなくなっても、ベンチで誰よりも声を張り上げてた。


 でも、卒業と同時に赤松は地元を離れた。小さなバイクに荷物をくくりつけて、家族にも何も言わず、突然、姿を消した。


「俺、自由になりたいんだ」

最後に届いた手紙には、そう書かれていた。


 それから一年後。

 峠道で起きた事故の記事を、新聞で見つけた。

 身元不明の遺体。壊れたバイク。

 俺は、ただ床に座り込んでいた。

 赤松の母親から届いた小さな遺品の中には、あの時のボロボロのキャッチャーミットが入っていた。


 今でも、夢に見る。

 あいつがマスクを外して、泥だらけの笑顔で「ナイスボール!」って言うんだ。

 俺のすっぽ抜けた球を、全力で追いかけてくれた、あの姿を。


 赤松――。

 お前の分まで、俺は生きる。

 この腐った街で、何があっても。


〜青森・ねぶたと死者の舞〜


 函館からフェリーで渡った佐倉悠は、青森の夜の空気に包まれていた。

 ねぶた祭の熱気は最高潮に達しており、街のあちこちで太鼓と笛の音が響いていた。


 青森港近くのパーキングに軽ワゴンを停めると、スマホのアプリ《サムライ・スピリットAR》が自動的に更新を始めた。


> 【全国武将連携戦モード】が開放されました

新機能:対人武将バトル《武将演義》参加可能


 表示されたのは、各都道府県のプレイヤーが集う**“大武将戦”**というオンライン対戦イベント。

 現地ARと連動して、同じエリア内のプレイヤーとリアルに遭遇・交戦する可能性もあると記されている。


「……他の県のやつらと?」


 佐倉は表示されたマップを見た。

 青森エリアでは、特に勝率の高い一人のプレイヤーの名が上位にあった。


---


登場人物


黒石ユウト

 青森市在住の高校教師。35歳。無口だが、歴史とゲームに異常なまでの情熱を注ぐ。

 憑依武将:上杉謙信

 称号:「北の毘沙門天」


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 その夜、青森駅前広場で、佐倉は黒石ユウトと出会う。

 スマホのAR越しに、両者の武将が浮かび上がる。


 真田幸村 vs 上杉謙信――

 まるで戦国時代の“川中島”を再現するような、火花の飛び交う対戦が始まった。



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《武将演義バトル》


 このモードでは、スマホの画面を通じて“武将アクション”をリアルタイムで入力し、

 AI憑依武将が相手と剣を交える形になる。

 攻撃、スキル、守護、戦略――すべてが現代の“知”と“直感”で構築される。


 黒石の謙信は、「毘」の旗を背に突進するような高速連撃を放ち、

 佐倉の幸村は「六文銭の陣」で耐え、反撃の居合一閃を見舞った。


 AR画面越しには、光と影の残像が重なり、観光客たちも足を止めて見入る。


 戦いは10分に及び、最後の一閃――


 佐倉が放った《捨て身の一撃:影流・双竜》が、謙信の防壁を打ち破った。



---


 「……見事だ」


 黒石はスマホを胸に戻し、静かに頭を下げた。


 「武将アプリの力は、強さを競うためだけのものじゃない。

 自分の過去を受け入れ、進むための……剣になるんだ」


 「……それ、俺も最近ようやくわかってきたよ」


 二人は固く握手を交わした。

 その瞬間、ARアプリの画面に《絆連携:青森+北海道》という表示が出た。


> 特殊イベント《五稜郭防衛戦》が発生しました。



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特殊イベント:《五稜郭防衛戦》


発生日時:令和X年7月某日、午前4時30分

場所:北海道・函館市 五稜郭タワー周辺および五稜郭公園内



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【プロローグ】


 函館の星型要塞・五稜郭。

 幕末、榎本武揚と土方歳三が最後の抵抗を試みたこの場所は、今、新たな火種を孕んでいた。


 極秘裏に函館入りしていた佐倉悠と黒石ユウトは、《影狼連合》残党と異形兵器義体兵(ギタイヘイ)の動きを察知する。

 ターゲットは五稜郭地下に封印された、旧幕府軍が残したとされる“次元兵器黒箱(Black Ark)”。


 この封印を狙い、《影狼連合》が全面的な襲撃を仕掛けてきたのだった。



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【戦闘勢力】


守備側義戦同盟


 佐倉 悠:元公安。EMP手榴弾と武装デバイスを駆使したゲリラ戦を展開。(派遣ってのは仮の姿だったが、失職後正式に派遣に)


 黒石 ユウト:魔法の絨毯による高速移動と結界魔術。


 五稜郭警備隊:函館市観光部門に偽装された特殊警備部隊。


 地元住民レジスタンス:漁師・元自衛官・高校生など、佐倉の説得に応じて自発的に参戦。



攻撃側影狼連合


 雷堂 慎也:通称“雷神”。改造義体による電撃装甲と加速装置を備えた戦闘狂。


《義体兵》部隊:電脳操作により統制された義体兵60体。


 自走砲車両クラーケン:五稜郭周辺を包囲、榴弾砲とEMPキャノンを装備。


《夜叉型ドローン》:自律飛行型攻撃ユニット。


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【第一段階:陽動作戦(午前5時〜)】


 雷堂率いる《影狼連合》の第一波攻撃が五稜郭の北門を襲撃。

 地元レジスタンスと五稜郭警備隊が迎撃。観光案内所が戦闘の最前線となる。


 佐倉はEMP手榴弾で《義体兵》の通信を寸断し、ユウトが北西の堀に“水の結界”を展開。これにより夜叉型ドローンの侵入を一時封じ込めることに成功。



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【第二段階:黒箱起動阻止(午前6時30分〜)】


 雷堂が自ら出陣。《黒箱》を封じる地下施設への入口を強行突破。

 佐倉と一騎討ちへ。雷堂は“雷切”と呼ばれる刀を振るい、電流で佐倉の神経を麻痺させようとする。


 ユウトは《光子帆船(フォトン・セイル)》を五稜郭の上空に展開、太陽光を収束して《クラーケン》を撃破。



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【最終段階:黒箱の選択(午前7時15分〜)】


 地下に到達した佐倉たちが見たのは、幕末から稼働し続ける次元共鳴装置「黒箱」。


 ユウト:「これを使えば、“世界”を変えられる…」  

 佐倉:「なら壊すべきだ。俺たちは“今”を生きてる」


 二人は装置を自爆させることで次元共鳴の停止に成功。五稜郭の地下が崩壊を始める。


 脱出直前、雷堂が再登場。自らを黒箱と同調させ“雷神形態”に進化。

 佐倉は“最後のEMP”を心臓に押し当て、雷堂を自滅させる。



---


【エピローグ】


 五稜郭は一部崩落したが、市民に犠牲は出なかった。

 “黒箱”の存在は完全に消滅。だが佐倉の体には微細な次元の“歪み”が残された。


 その日、朝のニュースはこう伝えた――

 「五稜郭での謎の爆発事故。観光施設の一部に被害が出ましたが、関係者によれば“設備点検中の事故”とのことです」








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