ロリ in 新宿 ~10億獲るまで眠らない女~ ①


「こんなところで呼びつけられるとはね」


 地下鉄のプラットフォームに3人の女性がいる。

 夏場なのにひんやりとした空気が流れ込んでいる。

 電気は通じている。数年前に封鎖された場所ではあるものの、新宿に向かうためにこの場所は解禁されていた。

 照明で照らされた3人以外この場に人はおらず、重苦しい雰囲気の中で会話が始まろうとしている。

 腕を組んで少しファッションに気を遣い、少しおめかしをしているマセた子供のロリコ・リコ。

 自撮りをSNSにアップロードしたら概ね好評で少し嬉しかったらしい。

 その後ろで腕を組み、メガネを光らせている長嶺コトコ。特にファッションを気にせず動きやすい軽装。服装を考えるのは面倒くさがった。

 季節感ってなんスか、着られればなんでもいいだろとはコトコの弁である。


「えっと、重木かさねぎさん? なんの用です?」


 コトコが目の前のスーツを着用した女性に向けて会話を始める。

 なお、右手には手帳が握られていた。コトコはこう記している。


 “とーかちゃん久しぶりっスね〜! 生きてる?”


「用があるのはそこの少女──ロリコ・リコだ」


 そして彼女の手にも手帳が握られてる。


 “久。ほんまこの仕事やめたい、上司をめちゃ殴りたい”


 会話が盗聴されているのでこの手を取らざるを得なかった。タブレットを用いても良かったが、記録に残せば後々見られてしまうデメリットが出てくる。なので却下した。

 長峰コトコと佐伯フルエンドは10年前に存在していた配信者グループ、FJKとして繋がりがある。

 すでに解散しているものの、関係性を疑われることは自明。盗聴してこいとは会長の秘書からの命であった。断ると後々動きにくなるので渋々盗聴器を仕込んでいた。


「私のアカウントにDMまで投げてくるとはね、ダンジョン管理機関のお偉いさん。このあと新宿行くから早くしろよな。

 お前らのためにわざわざこっちは元あった約束を半分蹴っているんだ」


 “約束があるんでなるはやで”


「わざわざ新宿侵入予定時間に呼びつけてさぁ。これで人死にでたらどうすんのさ」


「そう簡単に人は死なん。……今このタイミングでしか時間が作れなかったんだ。こちらの都合で申し訳ない」


 声の調子から気取られないように、ロリコ・リコとの仲を察知されないように。

 本音を言えばカメラを構えて盗撮したかったが、流石にバレて壊されるのでその案は下された。

 シャツの内側にレコーダーが仕込まれていて、そこで会話が録音される。

 ……ということを事前に知らされた2人は筆談という面倒な手段を取らざるを得なくなり、わざわざ100均で購入してから来たのである。


「ライセンスだ。受け取ってくれ」


 話を進めるためにフルエンドはそれを取り出した。

 ロリコ・リコとしてダンジョン内で自由に歩くための免許証を。

 Sという文字が黄金に輝いているように見える。同時に、自分に何が出来るか、数値として可視化されている。

 あくまでも、ロリコ・リコという存在として。


「おお! 収入が増えたぞコトコ! こいついい奴だな!」


「クソチョロロリは今日日流行らんからやめた方がいいスよ」


「チョロくもなるだろ! ホイチューブでアカウント作ってもいいんだよな!」


「ご自由に」


 さっそくロリコはスマートフォンを操作して、配信準備をホイチューブでも整えてみる。

 すんなりと登録が済み、自己紹介動画を試しに投稿してみたがいつまでたっても消されない。

 ロリコ・リコは壇上に登った。誰もが利用できるホイチューブ上にて、その存在を知らしめることになる。

 そしてもう一つ、ロリコはダンジョン管理機関に問わねばならないことがあった。


「私の切り抜き分の収益はどうする? 7:3? 今までのことは水に流してさ、作ってもらうんだからその分はね」


「え、いいんスか? だってこいつら──」


「別に横取りしていたわけじゃないしな。要は銀行みたいなもんだったろ。私はそれを全て引き出したかっただけさ」


 ──切り抜きチャンネルを運営してもらう以上、収益を折半するのが基本である。

 ロリコの稼ぎ分の収益はダンジョン管理機関が管理し、その分は今支払われた。

 内心嫌っている相手だとしても、時間を要して編集し、アップロードしていることには変わりはない。

 普段配信しているプラットフォーム、“whip”で活動している切り抜きチャンネルには7:3の割合でお金を頂いている。

 赤の他人が行うことがあれば、自分で行うこともあり、ダンジョンに関連した企業、団体に依頼して作成してもうこともあった。ロリコの場合今後はダンジョン管理機関に委託する形になるだろう。

 確かに収益未払で内心腹を立てていたが、とはいえ仕事してもらう以上は報酬がないと継続に至らないだろう。

 ホイチューブで既に非公認でアカウントを構えている以上、そのまま運営してもらう方が楽である。


「9:1」


「9!? 9が切り抜き側とか言ったら大手町の事務所行って全て破壊しちゃうけど平気?」


「こちら側が1でだ。ほぼ無断で収益化した分はライセンスを通じて支払われている。ダンジョンを攻略した正式な報酬も含めてだ」


「おーよかった。この分持ち逃げされても殴ってたからな、私は」


「ちなみにどれくらい稼いだんスか? ロリコさんは」


「30億」


「「うっひょ〜!」」


 残り20億。

 弁慶しばいて10億、あとはそこら辺にある危険地帯のダンジョンを攻略して10億もらって桜の治療に充てる。

 地盤は固まっている。ロリコが表舞台に出ようとしている。


「ロリコ・リコは今後18歳でデビューした合法ロリ系、非実在系、口から出ること全て冗談系配信者として名前が出てくるだろう」


 “口に出して恥ずかしくないんスか? ”


 “仕方がないだろう、上からの指示なんだから”


 “上やば……”


「態度が柔らかくなったね。前回はポプラちゃんを当て馬にして私を捕獲しようとしたくせに」


「…………」


 さて、これが本題である。

 実際のところ、どういう方向からこの命令が下されたのかを問い詰める必要があった。


「単なる偶然だ。ロリコ・リコが斜海ダンジョンに行くことになって、その前から佐伯ポプラに攻略を持ちかけたんだ」


 “事故、偶然、上からの命令、止められませんでした、本当にごめんなさい”


「偶然? コメントした奴がそっちの手の元である可能性も十全にあるよね?」


 “実際どうなの?”


斜海しゃかいダンジョンは海上に巣食う高難易度ダンジョン、海洋経済に深刻な影響を与えている以上、放置はできん……からこそ攻略が期待される期待の星、佐伯ポプラに白羽の矢が立った」


 “記録なし。ログを探してみたがダン管のサーバー内にはなかった。外から私用の端末でしてたらオワオワリ”


 “きちー”


「……それで偶然にもロリコさんが安価配信を行って、コメントが刺した場所が斜海っスか。よくできた偶然っスね」


「ロリコ・リコの存在は前々から問題視されていた。存じている通り本物の子供だ。出生の記録はないとはいえ、肉体の出来が子供のそれすぎる」


「医療を専門とする人にはわかるって聞いたことがあるっスよ。肌年齢とか視覚化されてるんだとか」


 ガチのロリ。略してガチロリ。

 だからこそ止める必要があった。

 指導、教育、保護観察を行うために。適正年齢になってから金額を返還しようと。

 子どもがダンジョンに潜って、その光景を配信している様子は容認できるものでない。

 国のお偉い方から詰問されてたじたじになったことはつい先日のこと。

 ロリコがダンジョン配信を行っても鉢合わせができる場所には到達できない。

 なまじ実力があるうえに止める手段がダンジョン管理機関内には存在しない。

 だから偶然にも佐伯ポプラがロリコ・リコと同じダンジョンに行く機会が生まれた。

 ロリコが配信当日に潜らない可能性があったが、ロリコはロリコで何があっても勝てるから問題ないという気概を持って参戦していた。


「あんたは私を止めないの?」


「止めようとしても止まらないだろう、お前は」


「そりゃあね。全力で抵抗するさ──この斧で」


 “脚じゃないの?”


 “切札は隠すもんだから……”


 ポプラが回収した財宝類は全部ポプラちゃんの懐へ。その金がどこに行くかは考えられなくもないが。


「……ところで、今ポプラちゃん何してるの? 最近配信してないけど」


「アメリカだ」


「マジ? お土産期待しちゃおうかな。ホームシックになる前に24時間配信して私のことずっと見ててもらおうかな」


「私の妹を誑かすのは本当にやめてくれないだろうか」


 “通話の時ずっとお前の話してきて辛い”


「止めてやんなよ、私のことが好きらしいからさ」


 “草”

 “草”

 “生やすな”


 手帳を閉じて、ポケットにしまう。

 どうやら用は済んだらしい。


「改めて、Sランク級冒険者のロリコ・リコ。あと保護者」


「あたしはこんなガキを産んだことないんスけどね」


「ママ、嘘だよね?」


「マジでやめろ」


 ガミガミ2人で言い争いを始める。「フ」と笑みをふとこぼして、即座に咳払い。


「……ダンジョンを攻略してもらい、感謝している。これはダンジョン管理機関の総意だ」


「おん」


 ロリコのもたらす影響はやはり大きい。

 その実力は人間が枠に収めるランクの中で最も高い。デビューした瞬間でSランク級は前歴がないのだ。

 なお、生前藤原カエデ時点でのランクはA+であった。

 改めて成長したことの証拠でもあった。


「では健闘を祈る。また会おう」


「もう会いたくないっスけど、じゃあねとは言っておきます」


「ちゃんと金払えよなー」


“またな”


 本音を言えばこのまま一緒に新宿へ赴いて攻略を一緒に行いたかったが。

 本人の立場がある以上は無理強いはできない。

 地上に向かうため階段を登りそのままこの場を佐伯フルエンドは後にした。



「時刻が10時を超えてる! ゴミとさせていただきます」


 :もう始まってる! 

 :ツバサが泣きながら新宿入ってったぞ

 :今日一人? 


「コトコちゃんもいまーす」


 :お前なんで配信してないの? 


「あたしがなんかする前にこれが始めたもんですから今急いで起動させてるんスよ」


「これっつったか今?」


「早いんだっての」


 :てかそこどこ? 


「渋谷駅の地下……今新宿に向かってる途中」


 :地下ァ!? 


 使われていない廃れた線路の上を走っていく。

 新宿がダンジョンと化したため交通網が混乱した結果、仮の施作として新宿行きの路線は止まった。


 線路の上を2人で歩く。

 夏場にも関わらず冷えた風がどこからか流れてきて少し肌寒く感じてしまう。

 コツ、コツと。2人が歩く音と、声が空間を満たしており、この場にモンスターがいないことをかえって証明していた。

 コトコもコトコで配信を開始して準備は万端。

 わざわざ上に戻って本来の合流ポイントに行くにしても、時間がないのでこのまま突き進むしかない。


 :てかなんで遅れたの? 


「こいつを貰ってきた」


 :ライセンス!?!? 

 :おお

 :Sランクで草。もうマウント取れねぇ

 :理解らせられちゃった……


「気づいてる人もいるとか思いますが、なんとホイチューブでも同時に配信してます。誰も見てねーけど」


 :えぇ……

 :BANされなくなったってコト!? 


「改めて、私の名前はロリコ・リコ。非行少女の10歳がお送りするダンジョン配信をお楽しみに〜」


「で」と、一区切りしたところでロリコの目の前には上から下までテープでびっちり閉められた、見るからに通行止めの区域が現れる。


「こっから先が新宿。確か結界で閉じ込められてる場所なんだよね。来るもの去るもの拒まず。それはそれとして来たら殺す場所だけど」


「ちなみに他の人はどんな状況スか?」


 :ツバサがモンスターが無限に湧いてくる大久保公園で足止めされてる


「え、着くの早くないスか?」


 :入った瞬間ワープされてた


「ヤバ。手を繋いで入るべ」


「そうスね。分断されたら溜まったもんじゃない」


 斧を生み出したロリコは障害物を切り伏せた。

 暗闇で先が見えないのに、中身はばちばちに魔力を走らせていた。「おお」思わずロリコは声が漏れた。「何が見えたんスか?」コトコの疑問が飛ぶ。


「いや何もわからんけど、何かありそうってサイドエフェクトが囁いてる」


「ないだろんなもん」


 ふぅと息を吐いてから「じゃあ行くか」そうロリコが口にしてコトコと手を繋ぐ。


 :なんで恋人繋ぎなの? 


「言わせんなよ、バカ……」


 :キュンです

 :コトコさん今の気分はどうですか? 


「ガキに本気になる訳ないスよ。お前らと違うんスから」


 :俺たちの性癖がそうだと言ってる!? 

 :こうなったのはロリコのせいですあ〜あ


「言い訳してる間に行くか。はい、ゴー!」


「あっちょ引っ張んないでくださいよロリコさん!」


 結界の中は飛び込んだ。

 目の前は室内に切り替わった。


「「……?」」


 :? 

 :??? 

 :????????????? 

 :なんで? 


 全員が首を傾げた。

 周りを見るとどうやらどこかのオフィスの一室であった。

 閉じられていないパソコン、床に散らかった事務用品、書類、横に倒れたデスクと椅子。2100年代にもかかわらずペーパーレス化していない企業だったらしい。書類で残して保管することを重視しているように見える。


 :この企業古くね? 

 :時間飛んだ? 


「いやタイムスリップしてない。デスクに置いてある時計は今日の日付だしな」


「飛ばされたんスね。ワープしてくるとは弁慶やりおるな。結界以外にもこういった魔術を使えるようになったんスかね」


 感心し、少し中を探索する。

 時計以外の時間は止まっていた。


「てか眩しいな。太陽なんでこんな近い?」


 散らかった道具類の間を抜けて窓際へ。

「大久保公園が目の前?」ロリコが口にする。その真上には太陽が燦々と輝いている。しかし暑さを感じるにしても、過剰には感じていない。

 むしろ、何かが取り込まれるような感覚がした。


「あー! これデス太陽じゃん!」


 :デス太陽ってなに!? 


「デス太陽は肌を焼くに限らず内に走る魔力も焼いてくるから無理くり魔力を使うと身体が使いもんにならなくなるんだよね! 放置したら詰み!」


 :どわーw

 :デス太陽って存在ごと焼いてこないんだ

 :じわじわ殺しにくる陰の者だぞ

 :なんで知ってるんですか? 


「カエデお姉ちゃんが死ぬ前にこいつと出くわした話をしててね! “やってることキモすぎてうんち漏らした”ってさ!」


「……漏らしてないっスよね? 確か」


「こーれまずいです! 放置してたら全員死にます! 新宿に出てきていいもんじゃねぇだろ!」


 斧を作り出して駆け出した。「コトコ! 寄越せ!」声に合わせる前からコトコの準備は完了している。「分離パージ──からの!」作り出された斧に、コトコが纏う機械類が装着された。

 巨大な斧にさらなる武装が施される。刃の上からさらに装甲が付き、火力が増されていく。


「対処の仕方は簡単! いつものゴリ押しです! ……でもあれがある時体調の良し悪しとかすぐわかるんだけどな。なんで放置してんだ?」


 :認識いじられてる可能性は? 


「ありえる、な!」


 新宿という街の中、太陽より先は満天の黄色の空。

 破られたガラスから飛び退いて、空気を蹴ってより上へ移動する。

 デス太陽は見掛け倒しだ。地面の上から見れば大きく見えるが、その実本来は小さい。輝きが大きいだけでそう誤認するのだ。


 視界の端で公園の様子を見てみる。

 倒れてる配信者が何人も。その端で緑色の巨体が2匹。


「メイジとグレイテスト……メイジの仕業か。頭使ってくるし死体を操るは洗脳してくるわで嫌いなんだよな。あいつ。

 でも相手が悪かったな。精神系は私に効かないんだよな。耐性がついてるみたいでね。死ぬほど苦しい気持ちを味わったからだけど」


 空中にかざすは大斧。

 まずは一撃、倒れている配信者を助けるべく動き出す。

 とはいえ発破の一つでもかけてやるか。弁慶を倒すのは自分だし、遅刻してきた身としては何か言われそうだが勢いで誤魔化そう。


 そこまで考えてから口を開けてビックマウスと共にデス太陽に向けて斧を叩き込んだ。


「──全てを諦めてる奴この場にいる!? いないよね!?」

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