義妹フルスロットル ――遠慮なんかしてられない――

第三部：真実の扉と、新たな家族の形

第25話：涙の告白と、差し伸べられた手

学園の片隅。

文化祭の喧騒が、遠くで響く。

照明の届かない、薄暗い場所。

悠真は、膝をつき、力なくうずくまっていた。

彼の背中は、小さく震えている。

完璧な仮面が剥がれ落ちた、彼の本心。

「……俺は、ずっと、選ばれたくて完璧でいようとしてたんだな……」

その声は、か細く、途切れ途切れだ。

喉の奥から絞り出すような、痛々しい声。

「誰かに、ここにいていいって、言ってほしくて……」

彼の言葉は、深い孤独と絶望を物語る。

その瞳からは、止めどなく涙が溢れ出していた。

「何のために、生きてたんだろうな……」

その呟きは、彼の心の奥底からの叫びだった。

その姿は、これまで誰も見たことのない、

弱く、傷ついた悠真の姿だった。

背後で、時計の秒針だけが、

カチッ、カチッと、妙に大きく響き渡る。

彼の完璧さの鎧は、完全に砕け散っていた。

桜は、その光景を目にし、息をのんだ。

胸が締め付けられるような痛みを感じる。

いつも完璧で、誰よりも頼りになる「お兄ちゃん」。

その背中が、こんなにも小さく、

そして、悲しみに打ちひしがれている。

桜の胸は、激しい痛みで締め付けられた。

瞳からは、止めどなく涙が溢れ出す。

（お兄ちゃん……！）

彼女の足は、まるで縫い付けられたように動かない。

しかし、その瞳は、悠真の背中から離れない。

桜は、震える手で、しかし、

強い意志を込めて、悠真の肩にそっと触れた。

その手は、まるで壊れ物を扱うかのようだ。

悠真は、その温かい手に、ハッと顔を上げた。

振り返った彼の目には、涙が溢れていた。

その瞳は、桜の姿を捉え、驚きに揺れる。

「桜…どうして、ここに…」

悠真の声は、まだ震えている。

その顔には、絶望と、恥ずかしさが混じり合う。

桜は、涙でぐしゃぐしゃになった顔で、

悠真の目を見つめ返した。

その瞳には、悠真への深い愛と、

そして、彼を救いたいという強い願いが宿る。

そして、震える声で、しかし、

強い意志を込めて、言葉を紡ぐ。

「お兄ちゃん…私…お兄ちゃんのことが…」

桜は、一度言葉を詰まらせた。

胸が苦しく、息ができない。

しかし、心に宿る確かな感情を、

もう隠すことはできない。

「大好きだよっ…！私、お兄ちゃんが、大好き！」

その言葉は、まるで堰を切ったように、

桜の心から溢れ出した。

それは、妹としてではない。

一人の女性として、悠真への純粋な愛の告白だった。

その声は、学園の喧騒にかき消されることなく、

悠真の心の奥底に、真っ直ぐに届いた。

悠真は、桜の突然の告白に、

目を見開いて立ち尽くした。

彼の心は、真実の苦悩と、

桜の真っ直ぐな愛情の間で、激しく揺れ動く。

（桜…俺を、こんな俺を…）

桜は、悠真の返事を待つことなく、

彼の震える手を、そっと握りしめた。

その手は、温かく、そして、力強かった。

まるで、悠真の全てを受け止めるかのように。

「お兄ちゃん…一人じゃないよ…」

桜の言葉は、悠真の心の奥底に響いた。

その言葉は、悠真の心を縛っていた。

孤独の鎖を、少しずつ溶かしていく。

その時、遠くから、悠真親衛隊と義妹連合、メイド隊の。

騒動が、まだ続いているのが聞こえてきた。

彼らは、悠真の行方を探して、

学園中を駆け回っているのだろう。

白石麗華の叫び声が、微かに響く。

「悠真先輩は、どこよ！？」

しかし、この瞬間、悠真と桜の二人にとって、

世界の全ては、この小さな空間に凝縮されていた。

周囲の喧騒は、まるで遠い夢のようだ。

桜の温かい手が、悠真の心を包み込む。

悠真の父も、学園中を駆け回っていた。

息子の姿が見えないことに、焦りが募る。

彼の顔には、不安と、後悔の色が濃く浮かぶ。

（悠真…どこにいるんだ…！）

新しい母である理事長も、父の傍らで。

静かに、しかし焦燥感を滲ませながら。

悠真の行方を探していた。

「坊ちゃま…どうか、無事で…」

メイド隊も、それぞれが持ち場を離れ。

悠真の捜索に加わっている。

桜の告白と、差し伸べられた手は、

悠真の心に、温かい光を灯した。

彼の孤独は、桜の愛によって、

少しずつ溶かされていく。

悠真は、桜の手を、強く握り返した。

その手は、もう震えていなかった。

「桜…ありがとう…」

彼の声は、まだ掠れていたが、

そこには、確かな安堵と、感謝の気持ちが。

込められていた。

悠真の心に、新たな感情が芽生える。

それは、これまで知らなかった温かさだ。

この出来事は、悠真と桜の関係に、

決定的な変化をもたらすだろう。

そして、彼らを取り巻く家族や、

ヒロインたちの関係性にも、

大きな影響を与えることになる。

悠真の抱える真実の重みは、まだ消えない。

しかし、彼はもう、一人ではない。

桜という、揺るぎない存在が、

彼の隣にいるのだから。

それは、血の繋がりを超えた、

「絆」で結ばれた家族の始まりだった。

学園の喧騒が、遠くで響く。

夜空には、静かに月が輝いている。

しかし、二人の間には、

静かで、温かい時間が流れていた。

それは、嵐の後の、穏やかな凪のようだ。

悠真は、桜の顔を見つめる。

その瞳には、新しい光が宿っている。

これはもう、遠慮なんかしてられない！

真実の扉が開き、新たな家族の形を模索する。

物語は、第三部へと突入し、

フルスロットルで加速していく。