義妹フルスロットル ――遠慮なんかしてられない――
五平
第一部:怒涛の家族合流と日常の波乱
第1話:激震! 僕の日常に新しい家族、そして理事長が継母!?
悠真は高校二年生、男子だ。
見た目はごく普通に見えるだろう。
身長は平均より少し高いくらいで。
顔立ちも平凡で、特に目立つことはない。
クラスでは、いつも窓際の端の席に座り。
静かに授業を受けている。
周りの喧騒は、どこか遠い世界の話だ。
けれど、彼には普通じゃない点がある。
一つは、家事全般が完璧なことだ。
料理、洗濯、掃除、アイロンがけ。
庭の手入れから、簡単な修繕まで。
何でもそつなくこなしてしまう。
彼の家事は、もはやアートの域だ。
プロの家政婦顔負けの腕前なんだ。
家族が快適に過ごせるなら、それでいい。
それが彼の信条だった。
もう一つは、武術の達人であること。
これは誰にも言っていない、秘密だ。
悠真は、幼い頃からこの家で育った。
優しい父さんと亡き母さんの愛情を一身に受け。
何不自由なく成長してきた。
悠真の意識の中に、疑いの余地はない。
時々、不思議な夢を見ることはある。
祖父と名乗る人物の、古武術道場での。
鍛錬の夢だ。その名残か、彼の身体能力は。
常人離れしている。反射神経も、抜群だ。
そして、微かな「気配」さえも察知する。
武術家としての能力は超一流だった。
普段は、その戦闘力を完全に封印している。
けれど、日常の中では無意識のうちに。
妙にアクロバティックな家事動作が出る。
例えば、高い場所の埃を払う際、とか。
重い家具を動かす時、とか。
周囲の者は、ただ呆れるばかりだが。
そして何より、悠真自身には理解不能な。
特異な点がある。
なぜか悠真は周りの女子にモテまくるのだ。
本人は全く気づいていないけれど。
それが悠真を取り巻く世界の、揺るがぬ真実だ。
下駄箱には毎日、匿名のラブレターが。
山のように積まれることも珍しくない。
休み時間には、悠真に話しかけようと。
女子生徒たちが列を作るほどだった。
彼の優しい性格や、困っている人を。
放っておけないお人好しな一面が。
無自覚な形で、彼女たちの心を掴むのだ。
クラスの女子たちは、悠真の完璧さと。
その無自覚なモテっぷりに、ため息を漏らす。
まるで、手が届かない偶像のようだと。
悠真には、大切な妹がいる。
高校一年生の桜だ。
父さんと、悠真も愛した、亡き母さんの。
間に生まれた、愛しい妹だ、と。
悠真は、桜を何よりも大切にしている。
桜も悠真にべったりと懐く。
今日も朝から賑やかな一日だった。
「お兄ちゃん、おはよう!朝だよ!」
妹の桜が元気に悠真の部屋に飛び込んできた。
桜は元気いっぱいで、太陽のような存在。
朝から家中にその明るい声が響く。
「お兄ちゃん、早く朝ごはん食べよ!」
そう言って、悠真の腕をぐいぐい引っ張る。
その力強さに、悠真は笑顔で応じた。
「はいはい、わかったから引っ張るな。
朝ごはん、今準備するから、もう少し待てよ」
キッチンへ向かう悠真の背中を、桜は。
嬉しそうに追いかけてきた。
その後ろから、父さんも起きてきた。
優しい母さんは、悠真が小学生の頃に。
病気で亡くなってしまった。
悠真の作った朝食で、いつも温かい食卓だ。
食卓には、悠真が手際よく作った朝食が並ぶ。
色鮮やかな野菜のサラダに、ふっくら焼けたパン。
香り高いコーヒーと、温かい具沢山のスープ。
香ばしい匂いが部屋中に広がり、食欲をそそる。
「うわー!今日も豪華だね、お兄ちゃん!
まるでホテルの朝食みたいだよ!」
桜が目を輝かせ、椅子に座る。
「悠真、いつも悪いな。本当に助かるよ」
父さんが穏やかな顔で悠真に言う。
「美味しいね、お父さん!」
桜も笑顔で頷いてくれた。
悠真は、家族の笑顔を見ているのが一番好きだ。
そんな平穏で、温かい日々が。
これからもずっと続くはずだと、悠真は。
心の底から信じて疑わなかった。
だが、その平穏は、突然終わりを告げたんだ。
その日の夜、食卓でのことだった。
全員が揃って夕食を終え、団らんの時間だ。
父さんが、いつになく真剣な顔で口を開いた。
その表情は、普段の朗らかさとは違い。
どこか緊張しているように見えた。
「お前たちに、少し話があるんだ」
悠真と桜は顔を見合わせた。
何か大事な話なんだろうか。
二人の間に、静かな緊張が走る。
父さんの言葉は、悠真たちの想像を。
遥かに超えるものだった。
「実は…お前たちに、新しい家族が増える」
その一言に、悠真と桜は同時に動きが止まった。
口をあんぐり開けたまま、固まる。
驚きで声が出せないほどだった。
桜が目をぱちくりとさせて尋ねる。
その声は、どこか震えているようだった。
「え、家族って…誰が来るの?」
桜の純粋な問いかけに、父さんは。
少し照れたような、そして決意したような。
複雑な表情で、言葉を続けた。
「ああ、実はな、再婚することになったんだ」
悠真の頭の中は真っ白になった。
再婚?いったい誰と?
まるで自分が今、現実ではない。
夢の中か、あるいは別世界の話を。
聞いているかのような感覚に襲われた。
悠真の視界が、一瞬だけ揺らぐ。
そして、さらに驚きの事実が続いたんだ。
父さんが口にしたのは、まさかの。
「相手は、お前たちの学校の理事長だ」
悠真と桜は同時に叫んでしまった。
「「えええええええっ!?」」
その声は、家中に響き渡るほどだった。
悠真は自分の耳を疑った。
あの厳格な、学校の理事長が?
常に冷静沈着で、生徒からは。
畏怖の念を抱かれているあの人が?
それが、自分の新しい母になる?
信じられない。信じたくない。
あまりの衝撃に、頭が混乱する。
明日から何がどうなるんだ、と。
これまでの日常が、音を立てて。
崩れていくような感覚に襲われた。
そんな漠然とした不安を抱えたまま。
悠真は、その夜、なかなか眠りにつけなかった。
これまでの穏やかな日々が。
遠い過去になってしまうような。
そんな予感がして、胸がざわついた。
翌朝、玄関のドアベルが鳴り響いた。
その音は、まるで新しい時代の到来を。
告げるファンファーレのようだった。
父さんが慌てて玄関を開ける。
そこに立っていたのは、新たな二人。
悠真と同じ高校に通う葵さんだ。
彼女は高校一年生、桜と同い年。
透き通るような肌と、長い黒髪。
物静かな雰囲気を持つ少女だ。
まるで文学作品に出てくるような。
クールで、知的な印象を放っている。
表情はあまり変わらないけれど。
その瞳の奥には、どこか落ち着いた。
深い光を宿しているように見えた。
そして、葵さんの横には、さらに小さな。
可愛らしい小学生の女の子がいた。
小梅ちゃんだ。ぴょこんと跳ねる髪が。
彼女の無邪気さを表しているようだ。
小梅ちゃんは無邪気で人懐っこい笑顔。
悠真の顔を見て、ぱっと花が咲くよう。
その笑顔は、場の空気を和ませる。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、よろしく!」
小梅ちゃんは元気いっぱいにそう言って。
小さな身体で、一生懸命頭を下げた。
葵さんと小梅ちゃんの母親は、まさしく。
悠真と桜の新しい母となる人だ。
あの学校の、厳格な理事長さんだ。
理事長は、悠真と桜ににこやかに微笑んだ。
その笑顔は、学校で見るそれとは違い。
どこか柔らかく、家庭的な印象だった。
悠真の家は一気に大所帯になった。
家族が増える喜びと、それに伴う騒がしさ。
賑やかさが増すのは、確実だろう。
悠真は、これから始まる新しい生活に。
期待と、ほんの少しの不安を感じていた。
それは、嵐の前の静けさのようなものだった。
最初の朝食は、悠真が用意することに。
全員分の料理を手際よく作っていく。
キッチンには、トントン、という。
心地よい包丁の音が響き渡る。
しかしその音は、だんだんと速くなり。
やがて、ほとんど聞こえなくなった。
その包丁さばきは高速かつ無音だ。
まるで、音速を超えているかのよう。
桜が悠真の手元を食い入るように見ていた。
「今、りんごが一瞬で消えたんだけど…」
桜が呆然とした声でつぶやいた。
まるで忍者のような手つきだったからだ。
桜の純粋な驚きに、悠真は苦笑した。
「そんなことはないさ、桜。気のせいだ」
理事長も悠真の手元を凝視していた。
そのまなざしは、何かを見抜くよう。
理事長の瞳は、鋭く、そして深い。
(この型…この動きの系譜…まさか)
(まさか、あの“影縫流(かげぬいりゅう)”!?)
理事長が内心でそうつぶやいているのが。
悠真には、なんとなく見えた気がした。
悠真は、理事長の瞳の奥に、自分と似た。
どこか懐かしい光を感じ取っていた。
それは、彼が夢で見る、祖父から学んだ。
武術と、何か深い繋がりがあるかのようだった。
朝食の美味しさにも皆が感動する。
理事長も口元に手を当てて微笑んだ。
「悠真くん、本当に素晴らしいわ」
そう言って、優しい笑顔を見せたんだ。
葵も小梅も、悠真の料理を美味しそうに。
頬張っていた。その笑顔を見て、悠真は。
少しだけ、心が温まるのを感じた。
「お兄ちゃんのご飯、最高!」
小梅が無邪気に悠真に抱きついてくる。
学校に行くと、すぐに噂になった。
悠真の周りには常に女子の影がちらつく。
悠真のモテっぷりが加速していく。
廊下を歩けば、どこからか視線を感じる。
ヒソヒソと話す声も聞こえてくる始末だ。
「ねえ、悠真先輩ってさ…」
「もう、ヤバくない?あの完璧さ」
「まるで王子様よね、いや、神様かしら」
熱狂的な女子生徒たちが現れた。
そして水面下で、「悠真親衛隊」が
結成されたと、噂だけが耳に届く。
彼らは悠真の行く手を影から見守り。
彼に近づく不純な分子を排除しようと。
密かに動き始めたのだ。
「悠真先輩を我々が影で守護する!」
「不純な異性交遊は断固として阻止!」
そんな物騒な空気が流れ始めた。
悠真の日常は、激変していく。
新たな家族と、騒がしい日々へ。
これは、遠慮なんかしてられない!
そう、悠真の心の中で、誰かが叫んだ。
穏やかな日常は、もうそこにはない。
けれど、悠真の心は、不思議と。
ワクワクしているような気もした。
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