社員食堂開店!!

ハーブルグ王国の王都であるルクスブルグの冒険者ギルド内にて、ギルド職員や冒険者用の社員食堂が開店する。

その話はギルド内であっという間に広まり、社員食堂の入り口の前にはギルド職員はもちろんのこと、食堂の開店を心待ちにしている屈強な冒険者達もいた。


そんな職員達を見たフィン達、そして料理長であるはずの菜々子もまた緊張していたのは言うまでもない。


「はわわ....お客さんが来てる.......」

「流石は王都ルクスブルグの冒険者ギルドなだけはありますよね...」


社員食堂の扉の隙間越しにて、社員食堂のオープンを今か今かと待っているギルド職員や冒険者の姿を見つめながら、緊張した面持ちでそう言葉を漏らす菜々子とフィン。

エドモンドはエドモンドでお客さんが多いな〜と目を輝かせながら呟いていて、リタはリタで寮母をしていたからか腕が鳴るわねと言っていた。


そんな二人を見た菜々子は頼もしいな....と思った後、自らを奮い立たせようと自身の頬をパンパンと叩くと、そのままフィン達の方を向いたかと思えば、彼らに対してエールを送るようにこう言った。


「みんなも知っている通り、今日からここはギルド職員や冒険者の人達のお腹を満たす憩いの場所となる。だからこそ....料理を食べに来ているお客さんが心もお腹も満足できるように精一杯頑張りましょう!!」


菜々子がそう言った瞬間、フィン達も覚悟を決めた顔になった後....彼女の言葉に対し、自分達も着いて行くんだと言うようにハッキリとこう答えた。


「「「はい!!」」」


そんな言葉を交わした後、いよいよ食堂が開店する時間となり....菜々子は食堂の扉を開くと、ギルド職員や冒険者達がチラホラと食堂内へと入ってきたため、菜々子達はキッチンにて料理を作る準備をしていた。


「すみません、ここの食堂ってどうやって注文するんですか?」


料理長である菜々子に対し、そう声を掛けてきたのは....ギルド職員の制服を着た女性で、彼女を見た菜々子はすぐさまキッチンから顔を出すとこう説明した。


「この食堂ではあそこの壁に置いてある食券を使って注文する形式なので、食券を取る際はお金を払ってから取ってください」

「分かりました!!」

「あと、食券には窃盗防止用の魔法が掛けられているので、そこら辺も気をつけてください」


笑顔を浮かべながら優しく説明する奈々子に対し、なるほど!!と言う顔になる女性ギルド職員。

この食券スタイルは菜々子が提案したシステムで、回転率を高くするために導入したのだが....それがかえって異世界の人々にとっては新鮮だったようで、女性ギルド職員は便利なやり方ねと呟いた。


そして、女性ギルド職員は菜々子の説明の通りに昼食代を払った後、壁に付いているフックに吊るされている形で置かれている食券を手に取ると、それを菜々子に手渡した。


生姜ゼンジャ焼き定食ですね!!分かりました!!定食なので異世界米アロール米粉アロールブレッドを選べるのですが、どちらにしますか?」

「ん〜.....とりあえず異世界米アロールで!!」

「了解です!!」


そんな会話をした後、菜々子はその女性ギルド職員から食券を受け取ると、キッチンの魔導冷蔵庫から生姜ゼンジャ焼きのタレに漬け込んだ豚肉を出し、手慣れた手つきで切った玉ねぎと共に炒め始めた。

すると、食堂内では生姜ゼンジャと醤油ベースのタレの香ばしい香りが漂い始めたため、食堂の入り口には何だ何だと興味津々な様子でやって来る冒険者達が現れ始めていた。


そんな冒険者達を知ったか知らずか、菜々子はタレと絡めながら炒めた生姜ゼンジャ焼きを野菜と共に盛り付けた後、それを異世界米アロールと日替わりスープ(味噌汁)と共に乗せ、カウンターテーブルに置くとこう言った。


生姜ゼンジャ焼きを注文された食券番号1番の方〜!!」

「は〜い!!」


菜々子に呼ばれた女性ギルド職員は、注文した料理があるキッチンのカウンターテーブルの方へと向かうと、そこで生姜ゼンジャ焼きを受け取った後、自身の席へと持って行った。

そして、そのままパクリと一枚の生姜ゼンジャ焼きを食べたところ


「美味しい!!」


生姜ゼンジャ焼きの異世界醤油ソイユゥベースのタレと肉の相性があまりにも美味しかったからか、彼女は思わず心の声を口から出した後、異世界米アロールキャベツタマーナ・味噌汁といった流れで生姜ゼンジャ焼きを堪能している様子を見せていたため、その光景を見た菜々子は嬉しそうな顔になりながら調理を続けていた。

それはフィン達も同じだったようで、心の中でガッツポーズしたとか。


それから数分後....食堂から漏れ出る匂いに釣られたのか、続々とやって来る冒険者達の数が多くなってきたため、菜々子達は忙しくも楽しげな様子で料理を作っていた。


「何だこれ!?超美味いぞ!!」

「このカレーライスってやつ、めちゃくちゃ美味いな!!」

「こんなにも美味しい料理が食べられるなんて....幸せ〜」


しかし、そんな言葉が菜々子の耳に入ってきていたためか、彼女は嬉しい気持ちを胸に抱きながらフィン達と共にテキパキと働いていた。


「皆さん!!食べ終わった皿とトレーはこちらにお願いします!!」


そして、食べ終わったギルド職員や冒険者達に向けて菜々子がそう言ったところ、とりあえず彼女の言葉に従いつつも物珍しそうな顔顔で片付けを行なっていた。

食べ終わった皿とトレーをセルフで片付ける人々に対し、菜々子はニコッと笑いながらこう言った。


「ありがとうございます!!」


そう言った後、笑顔を見せる菜々子だったが.....その笑顔が太陽よりも眩しい笑顔だったからか、ギルド職員と冒険者達は良い意味でドキッとした後、今度片付けるときは美味しい昼食を作ってくれたお礼でも言おうかな?と思ったとか。


そう思っているギルド職員と冒険者達を知ってか知らずか、飲食店でのバイト経験のある菜々子はその経歴を活かし、フィン達に的確に指示を出しながらも続々とやって来る人々の対応をしていた。


「あの人....ナナコちゃん、だっけか?若いのにテキパキ動いてて凄いなぁ」

「あぁ、俺らも見習わないとな」


テキパキと働く菜々子の姿を見たギルド職員達は、自分達も頑張らないと!!的な感じで自らを奮い立たせていた。

冒険者達は冒険者達で、食器類を片付ける時の菜々子の笑顔に惚れてしまったのか....今度菜々子がウザ絡みされた時用の対応を考え始めていたのだった。


「ふぃ〜....何とか初日を乗り切ったね」

「ですね.......」


そんなこんなで開店初日を乗り越え、お茶で一息付きながらそう言う菜々子とフィン。

そして、これから忙しくなることを予想したのか....菜々子自身は頑張らなきゃ!!と自らにエールを送るかのようにそう思った後、これからの異世界での日常が賑やかで楽しくなりそうだなとも思ったようで、その顔には笑顔が映っていた。


「さぁて、みんなでチャチャッと掃除をするよ〜!!」


かくして、無事に冒険者ギルドの社員食堂がオープンしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る