面接②

冒険者ギルドのキッチンにて、菜々子は冷蔵庫から取り出したハンバーグの食材をテーブルに並べ、食材を揃えた彼女は準備万端とばかりに服の袖を捲った後、早速ギデオンとエステル用のハンバーグの調理を始めた。


まず初めに、玉ねぎオラネをみじん切りの状態になるまで細かく切ると、その玉ねぎオラネを油を引いたフライパンの上に乗せ、飴色になるまで炒めていく。

異世界において、ハンバーグの材料の一つである玉ねぎオラネは生のまま入れる派と焼いて入れる派が存在するのだが....菜々子の場合は玉ねぎの甘みやコクを引き立たせるため、あえて玉ねぎオラネを炒めているのだ。


「.......」


玉ねぎオラネを手慣れた手つきで炒めている菜々子に対し、ギデオンはハンバーグの調理工程が気になっていたようで、身を乗り出す形でキッチンの見つめていた。

エステルはそんなギデオンに向け、逆に菜々子さんが緊張するからやめてくださいと言うと、ギデオンは渋々キッチンから少し離れた。


そんな二人を尻目に、菜々子は飴色になるまで炒めた玉ねぎオラネをひき肉とパン粉が入ったボウルに入れ、それを満遍なく捏ねる形でひき肉やパン粉と共に混ぜて生地の方を完成させると、両手を使ってそれを丁寧に形を整え、バットの上に並べていった。

そして、バットの上に並べてある楕円型の肉の塊をフライパンに乗せ、その肉の塊に美味しそうな焼き目がついていくのと同時に、肉が焼ける音や匂いが耳や鼻に入るような感覚となり、その感覚を体感したギデオンとエステルの食欲をそそったようで、二人はゴクリと喉を鳴らしていた。


やがて、フライパンで焼かれていた楕円型の肉の塊は美味しそうなハンバーグへと変化し、菜々子は完成した出来立てのハンバーグを二つの皿に乗せると、次はソース作りに取り掛かった。

今回のハンバーグのソースはケチャップと悪魔のソースウスターソースを使用したデミグラス風ソースで、デミグラス風のソースの方がギデオン達の口に合うかもしれないという菜々子なりの配慮であった。


ソースが焦げないように魔導コンロの火を調整した後、肉汁が残っているフライパンにケチャップと悪魔のソースウスターソースを加え、その二つの調味料をフライパンの上で火を掛けながら混ぜた後、菜々子は隠し味としてほんの少しだけバターブルータを入れた。

これにより、このデミグラス風ソースの僅かなコクが生まれるのである。


そして、完成したデミグラス風ソースをさらに上に乗せてあるハンバーグに掛けた瞬間、肉の匂いと濃厚なソースの匂いがまるで溶けるように混ざり合い、菜々子達がいるその空間を包み込むようにその香りは広がっていった。


その瞬間、ギデオンはハンバーグという料理が完成したことを察したようで、早く食べたいという顔になっていたのは言うまでもない。

なお、エステルはエステルで内心はギデオンと同じような様子だったものの、それを顔に出させまいとしていた。

最も、彼女の顔の口角が自然と緩んでいたことをエステル自身は自覚していなかったが。


「お待たせしました!!ハンバーグです!!」


菜々子はニコッと笑いながらそう言った後、ギデオンとエステルの前にハンバーグが乗った皿を置いた。


「おぉ.......!!」

「これは....!!」


初めてハンバーグというものを見たからか、思わずそう声を漏らすギデオンとエステル。

何せ、目の前にある料理はこの世界とは別の世界....つまりは異世界の料理であったため、二人がそうなるのも無理はなかった。


それから数秒後、我に帰ったギデオンとエステルはナイフとフォークを手に取ると、ハンバーグを食べやすい大きさに切り分けてから一口食べた。


「「!?」」


ハンバーグを口に入れた時、二人がまず最初に驚いたのは柔らかな肉から溢れ出る肉汁であった。

しかもそれはただの肉汁ではなく、牛と豚の旨みが詰まった肉汁であったため、ギデオンは口の中で爆発した肉の旨みをこれでもかと堪能していた。


更に、その肉の味を炒めた玉ねぎオラネの甘さが引き立たせるため、エステルはさっきまでのクールな表情から一変し、美味しそうな表情でハンバーグの味を噛み締めると、その顔にこれ以上ない程の笑顔を浮かべた。


そして、それらの要素を甘酸っぱいデミグラス風ソースが包み込むことによって、ハンバーグはより一層美味しい料理へと昇華することに気がついた二人は、面接云々のことを忘れてパクパクと食べていたため、菜々子はポカーンとした顔になっていた


「コイツは....美味いな」

「えぇ、こんなにも美味しい料理は初めて食べたかもしれないです」


あっという間にハンバーグを完食した二人がそう言うと、分かりやすく嬉しそうに照れる菜々子。

それは、彼女にとって異世界の料理が受け入れられたことがとても嬉しかったことを意味していたからである。


「あ、ちなみにこのソースはケチャップと悪魔のソースウスターソース、それから隠し味にバターブルータを使っているんです」

「なるほど、だからこれ程までに美味いわけだ」


菜々子の言葉に対し、腕組みをしながらも納得したような表情でそう呟くギデオン。

ギデオンのその様子を見た菜々子は、こっちの世界でのウスターソース悪魔のソースガキになったとか。


「....はしたないことは覚悟の上ですが、出来ることならこのソースを全部舐めたいところです」

「分かる....分かるぞぉ!!」


悔しげな様子でそう言うギデオンとエステルの姿に苦笑しつつも、とりあえずハンバーグが異世界人である二人の口に合ったことに一安心したのか、菜々子はホッとした顔になっていた。

一方、そんな菜々子を見たギデオンとエステルは彼女ならば大丈夫だろうと思ったのか....顔を見合わせ、お互いの顔を見ながらコクリと頷いた後、菜々子に向けてこう言った。


「合格だ」

「え?」

「お前なら、この社員食堂を任せるに値する程の腕を持っている。だから合格だ」


ニッと笑いながらそう言うギデオンに対し、エステルはやれやれと言う顔になりながらも優しい笑顔を浮かべていて、菜々子は二人の雰囲気と言葉の意味をその数秒後に理解したようで、その顔には眩い笑顔が映っていた。


そういうわけで....冒険者ギルドの社員食堂の面接に受かった菜々子は、社員食堂の料理長として任命される形で働くことが決まったのだった。

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