第2章『王都へ、反撃のドレスアップ!』
プロローグ 魔導とドレスと、ちょっとの勇気
王都の空は、記憶よりも少し曇っていた。
かつてわたくしが暮らしていた場所。
あの日、断罪を言い渡された玉座の間から、すべてを失って去った街。
今、再びこの足で踏みしめている――でも、もうわたくしは、あのときの“令嬢”じゃない。
「……ふふっ」
小さく笑みがこぼれたのは、たぶん、ちょっと緊張していたから。
隣を歩くセリアがこちらを見上げる。
「平気?」
「ええ、当然ですわ。“主役”は常に堂々と、ですもの」
そう。
わたくし、リディア・アルヴェインは、もう“公爵令嬢”ではない。
けれど――
精霊と契約し、魔導を極めし者として、再びこの地に帰ってきたのよ。
身分を捨て、立場を捨て、それでも“わたくし自身の物語”を進めるために。
◆
王都への道のりは、静かだった。
けれど不思議な胸騒ぎが、ずっと消えなかった。
「ねえリディア、見て」
セリアが指差した先、街道脇の樹木に“黒い染み”のような痕跡があった。
「これは……」
「魔族の瘴気、だと思う。
王都の周辺で、最近こういう痕が何件も確認されてるって」
「王都の中枢に、魔族が忍び寄っている……?」
「うん。まだ表沙汰にはなっていないけど、
何かが王城の中で動いてるのは、間違いないって情報があって」
「“仮面の男”ね」
「……聞いてたの?」
「ええ。セリアがあのとき話してくれたわ。
白銀の髪、仮面で顔を隠し、貴族会議に干渉する男……」
──アレン・レイヴァント。
追放されたわたくしの婚約破棄に加担した、王家の腹黒王子。
だけど。
わたくしの“物語”を壊したのも、
“書き換える”チャンスをくれたのも、彼だった。
「魔族の影も、仮面の王子も、正面から迎え撃つ」
わたくしは静かに呟いた。
「この王都を、再び“真実の光”で照らすために」
「……リディアって、すごいね」
「褒めても何も出ないわよ?」
「そうじゃなくて――」
セリアが照れたように微笑んだ。
「でも、そういうとこ、やっぱり好きだなって思って」
「……もぉ、そんなこと言うと変なフラグ立つわよ?」
「えっ?」
「乙女ゲーム的に!」
ふたりで笑い合った。
でもその奥で、胸の奥に静かに燃える決意は――消えない。
◆
王都が見えてきた。
尖塔と大理石の城壁、かつての“帰る場所”。
けれど今のわたくしは、
帰るのではない。乗り込むのよ。
「さあ、セリア。潜入の時間よ」
「ほんとにやるんだね、“偽装作戦”」
「ふふっ。“追放された悪役令嬢”が正面から入ったら、面白みがないでしょ?
今回は――“平民モード”で華麗に舞い戻るのよ」
「華麗に、ね……」
「もちろん!
ドレスと魔導と、ちょっとの勇気で、全部奪い返してみせますわ」
今度こそ、
“奪われたまま”の人生に、
魔法と気品で――反撃の一手を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます