第2章『王都へ、反撃のドレスアップ!』

プロローグ 魔導とドレスと、ちょっとの勇気

王都の空は、記憶よりも少し曇っていた。




かつてわたくしが暮らしていた場所。


あの日、断罪を言い渡された玉座の間から、すべてを失って去った街。


今、再びこの足で踏みしめている――でも、もうわたくしは、あのときの“令嬢”じゃない。




「……ふふっ」




小さく笑みがこぼれたのは、たぶん、ちょっと緊張していたから。




隣を歩くセリアがこちらを見上げる。




「平気?」




「ええ、当然ですわ。“主役”は常に堂々と、ですもの」




そう。


わたくし、リディア・アルヴェインは、もう“公爵令嬢”ではない。




けれど――


精霊と契約し、魔導を極めし者として、再びこの地に帰ってきたのよ。




身分を捨て、立場を捨て、それでも“わたくし自身の物語”を進めるために。







王都への道のりは、静かだった。


けれど不思議な胸騒ぎが、ずっと消えなかった。




「ねえリディア、見て」




セリアが指差した先、街道脇の樹木に“黒い染み”のような痕跡があった。




「これは……」




「魔族の瘴気、だと思う。


 王都の周辺で、最近こういう痕が何件も確認されてるって」




「王都の中枢に、魔族が忍び寄っている……?」




「うん。まだ表沙汰にはなっていないけど、


 何かが王城の中で動いてるのは、間違いないって情報があって」




「“仮面の男”ね」




「……聞いてたの?」




「ええ。セリアがあのとき話してくれたわ。


 白銀の髪、仮面で顔を隠し、貴族会議に干渉する男……」




──アレン・レイヴァント。


追放されたわたくしの婚約破棄に加担した、王家の腹黒王子。




だけど。




わたくしの“物語”を壊したのも、


“書き換える”チャンスをくれたのも、彼だった。




「魔族の影も、仮面の王子も、正面から迎え撃つ」




わたくしは静かに呟いた。




「この王都を、再び“真実の光”で照らすために」




「……リディアって、すごいね」




「褒めても何も出ないわよ?」




「そうじゃなくて――」




セリアが照れたように微笑んだ。




「でも、そういうとこ、やっぱり好きだなって思って」




「……もぉ、そんなこと言うと変なフラグ立つわよ?」




「えっ?」




「乙女ゲーム的に!」




ふたりで笑い合った。


でもその奥で、胸の奥に静かに燃える決意は――消えない。







王都が見えてきた。




尖塔と大理石の城壁、かつての“帰る場所”。




けれど今のわたくしは、


帰るのではない。乗り込むのよ。




「さあ、セリア。潜入の時間よ」




「ほんとにやるんだね、“偽装作戦”」




「ふふっ。“追放された悪役令嬢”が正面から入ったら、面白みがないでしょ?


 今回は――“平民モード”で華麗に舞い戻るのよ」




「華麗に、ね……」




「もちろん!


 ドレスと魔導と、ちょっとの勇気で、全部奪い返してみせますわ」




今度こそ、


“奪われたまま”の人生に、


魔法と気品で――反撃の一手を。

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